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第四章 隠された真実
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空は快晴で、ぽかぽかと天気がよい。
明日からゴールデンウィークだし、本来ならばあらゆるものから解放された気分で、やたらテンションがおかしくなる私だけど。
午前中の仕事を終えて、体操着に手袋という完全装備で待ち合わせ場所に立つ私のこころは、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
実際に、解放された気分はある。
けれど、金魚になって自由に泳いでいたら、尾ひれに透明の紐がついていたような、何かに引っ張られているような奇妙な感覚がするのだ。それは私を絡めとって、身動きできなくさせてしまう……そんな、自分でもよくわからない、錯覚に背筋が震えた。
待ち合わせたのは、校舎裏にある細道。
その南側だ。なだらかな山裾に農業通路があるのだが、その道路の途中から、廃病院へ通じる道が開拓されているという。
開拓、というのは、この村へ夜な夜な遊びに来ている「外」の人が、行きやすいように作ったらしい。しかも見つかられないように器用に隠しているから、彼らしかしらない道筋だという。
以上が真理亜ちゃんからの情報で、私たちはその道を通っていくことになった。
農業通路の砂利道に立ち、そわそわする私は完全なる不審者だろう。いい歳した女が、色気のないジャージ姿でぽつんと農業通路に立ち尽くしているのだから。
せめてスコップとか持っていたら、近所のおばちゃんとして誤魔化せたかも。いやいや、この辺りは皆知り合いだから、私が移住者なのは知れ渡ってるし。
知られてるなら逆に大丈夫か。と思ったけれど、基本移住者は「外」の人扱いされるので、信頼度としては高くない。不審者と間違われたら、どう対応するかなぁ。
そんなことを考えていると、姫島屋先生がやってきた。
青空の下で見る姫島屋先生は、やはり影を背負っているけれど、いつもより肌色が明るく見えた。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。……随分と、行動を弁えた格好だな」
そう言って、同じような姿をした姫島屋先生が苦笑する。変かな。前に沈め池へ行ったときも、同じような格好だったからこれでいいと思ったんだけど。
「変、ですか」
「いや。明るいところで見ると、新鮮だと思ったんだ」
「新鮮、ですか」
姫島屋先生は、ああ、と言って頷く。
頷いたきり、理由は教えてくれないようだ。そこはかとなく頬を染めているように見えるから、理由を聞きづらい。
そこへ、空閑くんと真理亜ちゃんも合流して、真理亜ちゃんの案内で農業通路から伸びる細い道を探した。
見事に見つからないよう、笹や大木で隠してあった細道は、沈め池へ向かったときに登った獣道より、遥かに歩きやすかった。
地面は踏み固めてあり、日常的に使用されているのがひと目でわかる。肌をひっかけるような枝は折ってあり、目印がなくても登っていけるくらいに、道の姿を成していた。
私たちは一列になって、黙々と歩いた。
先頭を姫島屋先生が、続いて真理亜ちゃん、私、空閑くんの順番になっている。
それにしても。と、私は真理亜ちゃんの長袖長ズボン姿をみた。
長袖のシャツは真っ白い色をしており、無駄な柄がない分、デザイン性が際立っている。背中にはひび割れたガラスのような線を区切りに、白系統のカラーが配置されたデザインになっている。
そんな背中に、小さな羽根がふたつ描かれていた。リアリティがあるイラストで、平面なのに触りたくなるほど、もふもふに描かれている。
真理亜ちゃんは、そんな天使の羽根シャツと、ミニスカートにジーパンという姿だ。スレンダーな彼女にとても似合っている。
女子力という、私が忘れつつあったものが目の前を歩いているのだ。嫌でも自分と比べてしまう。
ちら、と自分の全身をみた。
そして、真理亜ちゃんの背中をみる。
「神崎先生は、とても素敵な女性でござるよ」
私の後ろを歩いていた空閑くんが、唐突に言った。
やばい、姿を気にしているのがバレてしまった。恥ずかしくて赤くなってしまう私を、先頭を歩いていた姫島屋先生が軽く睨む。
「す、すみません。集中します」
浮ついた気持ちでは、怪我をするぞ。
睨まれたのはそういう意味だろう。
姫島屋先生は何か言いたそうだったが、雷は落ちることなく、また歩みを再開させる。ほっと息をついた私に、空閑くんはこそっと私にだけ聞こえる声で言った。
「姫島屋先生と、うまくいってないでござるか?」
「えっ」
なんてことを聞くのか。返事に困る。
「うまくいってない、ってことはないと思うけど」
「先日からお付き合いを始めたのでござろう? 結構進んだでござるか」
「す、すすんだって、なにが⁉」
「両親に挨拶する日程を決める、とか」
「いやいやいや、それは進みすぎでしょ!」
「じゃあ、どこまででござる? 勿論、大人なおふたりのこと、大人な関係の詳細を聞いているわけではござらんよ。とっくに、そういうことは終えているでござろうから。そういう肉体的なつながりではなく、気持ちとして……あ、婚約はしたでござるか?」
「してないからっ。いやもう、ほんと、なにも……なにも、ない、し」
自分で言ってて、落ち込んできた。
生徒である空閑くんに話すことじゃないから、と思って自主規制をしようとしたけれど、隠すような事柄は一切ない。
手さえ繋いでいないのだから。
明日からゴールデンウィークだし、本来ならばあらゆるものから解放された気分で、やたらテンションがおかしくなる私だけど。
午前中の仕事を終えて、体操着に手袋という完全装備で待ち合わせ場所に立つ私のこころは、奇妙な胸騒ぎを覚えていた。
実際に、解放された気分はある。
けれど、金魚になって自由に泳いでいたら、尾ひれに透明の紐がついていたような、何かに引っ張られているような奇妙な感覚がするのだ。それは私を絡めとって、身動きできなくさせてしまう……そんな、自分でもよくわからない、錯覚に背筋が震えた。
待ち合わせたのは、校舎裏にある細道。
その南側だ。なだらかな山裾に農業通路があるのだが、その道路の途中から、廃病院へ通じる道が開拓されているという。
開拓、というのは、この村へ夜な夜な遊びに来ている「外」の人が、行きやすいように作ったらしい。しかも見つかられないように器用に隠しているから、彼らしかしらない道筋だという。
以上が真理亜ちゃんからの情報で、私たちはその道を通っていくことになった。
農業通路の砂利道に立ち、そわそわする私は完全なる不審者だろう。いい歳した女が、色気のないジャージ姿でぽつんと農業通路に立ち尽くしているのだから。
せめてスコップとか持っていたら、近所のおばちゃんとして誤魔化せたかも。いやいや、この辺りは皆知り合いだから、私が移住者なのは知れ渡ってるし。
知られてるなら逆に大丈夫か。と思ったけれど、基本移住者は「外」の人扱いされるので、信頼度としては高くない。不審者と間違われたら、どう対応するかなぁ。
そんなことを考えていると、姫島屋先生がやってきた。
青空の下で見る姫島屋先生は、やはり影を背負っているけれど、いつもより肌色が明るく見えた。
「お疲れ様です」
「ああ、お疲れ。……随分と、行動を弁えた格好だな」
そう言って、同じような姿をした姫島屋先生が苦笑する。変かな。前に沈め池へ行ったときも、同じような格好だったからこれでいいと思ったんだけど。
「変、ですか」
「いや。明るいところで見ると、新鮮だと思ったんだ」
「新鮮、ですか」
姫島屋先生は、ああ、と言って頷く。
頷いたきり、理由は教えてくれないようだ。そこはかとなく頬を染めているように見えるから、理由を聞きづらい。
そこへ、空閑くんと真理亜ちゃんも合流して、真理亜ちゃんの案内で農業通路から伸びる細い道を探した。
見事に見つからないよう、笹や大木で隠してあった細道は、沈め池へ向かったときに登った獣道より、遥かに歩きやすかった。
地面は踏み固めてあり、日常的に使用されているのがひと目でわかる。肌をひっかけるような枝は折ってあり、目印がなくても登っていけるくらいに、道の姿を成していた。
私たちは一列になって、黙々と歩いた。
先頭を姫島屋先生が、続いて真理亜ちゃん、私、空閑くんの順番になっている。
それにしても。と、私は真理亜ちゃんの長袖長ズボン姿をみた。
長袖のシャツは真っ白い色をしており、無駄な柄がない分、デザイン性が際立っている。背中にはひび割れたガラスのような線を区切りに、白系統のカラーが配置されたデザインになっている。
そんな背中に、小さな羽根がふたつ描かれていた。リアリティがあるイラストで、平面なのに触りたくなるほど、もふもふに描かれている。
真理亜ちゃんは、そんな天使の羽根シャツと、ミニスカートにジーパンという姿だ。スレンダーな彼女にとても似合っている。
女子力という、私が忘れつつあったものが目の前を歩いているのだ。嫌でも自分と比べてしまう。
ちら、と自分の全身をみた。
そして、真理亜ちゃんの背中をみる。
「神崎先生は、とても素敵な女性でござるよ」
私の後ろを歩いていた空閑くんが、唐突に言った。
やばい、姿を気にしているのがバレてしまった。恥ずかしくて赤くなってしまう私を、先頭を歩いていた姫島屋先生が軽く睨む。
「す、すみません。集中します」
浮ついた気持ちでは、怪我をするぞ。
睨まれたのはそういう意味だろう。
姫島屋先生は何か言いたそうだったが、雷は落ちることなく、また歩みを再開させる。ほっと息をついた私に、空閑くんはこそっと私にだけ聞こえる声で言った。
「姫島屋先生と、うまくいってないでござるか?」
「えっ」
なんてことを聞くのか。返事に困る。
「うまくいってない、ってことはないと思うけど」
「先日からお付き合いを始めたのでござろう? 結構進んだでござるか」
「す、すすんだって、なにが⁉」
「両親に挨拶する日程を決める、とか」
「いやいやいや、それは進みすぎでしょ!」
「じゃあ、どこまででござる? 勿論、大人なおふたりのこと、大人な関係の詳細を聞いているわけではござらんよ。とっくに、そういうことは終えているでござろうから。そういう肉体的なつながりではなく、気持ちとして……あ、婚約はしたでござるか?」
「してないからっ。いやもう、ほんと、なにも……なにも、ない、し」
自分で言ってて、落ち込んできた。
生徒である空閑くんに話すことじゃないから、と思って自主規制をしようとしたけれど、隠すような事柄は一切ない。
手さえ繋いでいないのだから。
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