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第四章 隠された真実
10-1、
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翌日の、早朝だった。
ゴールデンウィーク初日、私と姫島屋先生は、ふたりで沙賀城家へとやってきた。今日はアポイントを取っていない、突然の訪問だ。
あくまで、個人的な用事としてやってきた。
インターフォンをならすと、前回と同じ使用人の声がして、美咲さんに会いたい旨を話す。少々お待ちください、との返事のあと、暫くして、やはり前回と同じ客間へ通された。
今日は、茶器類の用意がない。
それ以外は、座布団も敷いてあるし、前と何ら変わりはなかった。
私は、姫島屋先生と並んで正座をし、座布団に座った。机を挟んだ向こう側に沙賀城美咲が座れるように。
緊張に、嫌な汗をかきはじめる。落ち着かせるために、何度か深呼吸をした。
ちら、と隣を見ると、姫島屋先生は携帯電話をみている。何を見てるんだろう、アプリゲームでもしてるのかな。
姫島屋先生の携帯電話は、銀色ボディだ。ストラップなどは一切ついておらず、シンプルで硬派な、まさに姫島屋先生そのもののような印象を受ける。
「……どうした」
私の視線に気づいた姫島屋先生が、顔をあげた。
「何を見てるのかな、って思って」
「ああ。……空閑から、新しい情報が届いた」
「連絡先、いつ交換したんですか⁉」
そこなのか、と姫島屋先生がジト目で突っ込んだとき。
回廊から、美咲がやってきた。
以前よりも健康的で、晴れやかな表情をしている。私を見ると、ぱっと微笑んだけれど、姫島屋先生をみた瞬間、盛大に顔をしかめた。
屋上で彼女を発見したあと、姫島屋先生とふたりで美咲を家まで送ってきたのだし、姫島屋先生のことも好んでいると思っていたのに。この反応は意外だった。
美咲は、気を取り直したように私を見ると、私の向かい側に座った。ちらっと茶器を確認するけれど、見当たらないとわかると諦めたようで、再び、私と向き合う。
「先生、会いにきてくれたの? 休みの日にわざわざ。それとも、何か用事?」
「両方、かな。でも今日は、学校の先生としてじゃなくて、個人的に会いにきたの」
美咲は大きく目を見張ると、ふふ、と微笑んだ。その柔らかな笑みに、この子はこういうふうに笑える子なんだと、初めて知る。
このまま――この笑顔のまま、彼女が過ごしていけたらいいのに。
一瞬だけ、ここに来た目的に迷いが生じた。けれど、それは本当に一瞬で、私は残酷な現実を、彼女に確認する役目を忘れてはいない。
「聞きたいことがあって。いいかな?」
「うん。なに?」
「ほら、えっと。親に心配させたいから、池に落ちたふりをした……じゃない?」
美咲が、かすかに目を見張る。
ややのち、こくりと頷いた。
「どうして、あの『沈め池』だったの? 近くの川でもよかったのに。用水路なら、もっと見つかりやすかっただろうし。池は山の中だし、美咲……ちゃんの私物を発見するのが、遅くなってたかもしれないんだよ」
美咲の視線が、さっとずれた。
唇を噛んで俯く姿に、先ほどの笑みはない。
「きみの私物を発見したとき、池のほとりに争った形跡があった」
「えっ、そうなんですか⁉」
驚いたのは、私だった。
さらっと姫島屋先生が凄いことを言ってくれた。そういえばあの日、やけに地面を見ていたように思う。美咲の靴に気づいたのも姫島屋先生だ。
そういえば以前、気になることがある、と言っていたような。
「……気づいてたんですね。私の、嘘」
美咲は、ぽつりと呟いた。
どこか空虚な声音に、私の胸がぎゅっと潰れそうになる。けれど、本当に苦しいのは美咲本人だろう。
気まずい空気が流れ始めて、私は膝の上で拳を握り締める。
正直、なんのことか、私にはわからない。
私はただ、廃屋とあの池のことを、沙賀城美咲に聞きに来ただけ。そのとっかかりとして、姫島屋先生から、沈め池での一件から話題に持ち出すよう、助言されていたのだ。
ちら、と姫島屋先生をみる。
じっと、観察するように美咲をみていた。
何か考えがあるんだろうか。争った形跡があったなんて、私は今のいままで知らなかったけれど。
ここは、姫島屋先生に合わせた方がいいか。
ゴールデンウィーク初日、私と姫島屋先生は、ふたりで沙賀城家へとやってきた。今日はアポイントを取っていない、突然の訪問だ。
あくまで、個人的な用事としてやってきた。
インターフォンをならすと、前回と同じ使用人の声がして、美咲さんに会いたい旨を話す。少々お待ちください、との返事のあと、暫くして、やはり前回と同じ客間へ通された。
今日は、茶器類の用意がない。
それ以外は、座布団も敷いてあるし、前と何ら変わりはなかった。
私は、姫島屋先生と並んで正座をし、座布団に座った。机を挟んだ向こう側に沙賀城美咲が座れるように。
緊張に、嫌な汗をかきはじめる。落ち着かせるために、何度か深呼吸をした。
ちら、と隣を見ると、姫島屋先生は携帯電話をみている。何を見てるんだろう、アプリゲームでもしてるのかな。
姫島屋先生の携帯電話は、銀色ボディだ。ストラップなどは一切ついておらず、シンプルで硬派な、まさに姫島屋先生そのもののような印象を受ける。
「……どうした」
私の視線に気づいた姫島屋先生が、顔をあげた。
「何を見てるのかな、って思って」
「ああ。……空閑から、新しい情報が届いた」
「連絡先、いつ交換したんですか⁉」
そこなのか、と姫島屋先生がジト目で突っ込んだとき。
回廊から、美咲がやってきた。
以前よりも健康的で、晴れやかな表情をしている。私を見ると、ぱっと微笑んだけれど、姫島屋先生をみた瞬間、盛大に顔をしかめた。
屋上で彼女を発見したあと、姫島屋先生とふたりで美咲を家まで送ってきたのだし、姫島屋先生のことも好んでいると思っていたのに。この反応は意外だった。
美咲は、気を取り直したように私を見ると、私の向かい側に座った。ちらっと茶器を確認するけれど、見当たらないとわかると諦めたようで、再び、私と向き合う。
「先生、会いにきてくれたの? 休みの日にわざわざ。それとも、何か用事?」
「両方、かな。でも今日は、学校の先生としてじゃなくて、個人的に会いにきたの」
美咲は大きく目を見張ると、ふふ、と微笑んだ。その柔らかな笑みに、この子はこういうふうに笑える子なんだと、初めて知る。
このまま――この笑顔のまま、彼女が過ごしていけたらいいのに。
一瞬だけ、ここに来た目的に迷いが生じた。けれど、それは本当に一瞬で、私は残酷な現実を、彼女に確認する役目を忘れてはいない。
「聞きたいことがあって。いいかな?」
「うん。なに?」
「ほら、えっと。親に心配させたいから、池に落ちたふりをした……じゃない?」
美咲が、かすかに目を見張る。
ややのち、こくりと頷いた。
「どうして、あの『沈め池』だったの? 近くの川でもよかったのに。用水路なら、もっと見つかりやすかっただろうし。池は山の中だし、美咲……ちゃんの私物を発見するのが、遅くなってたかもしれないんだよ」
美咲の視線が、さっとずれた。
唇を噛んで俯く姿に、先ほどの笑みはない。
「きみの私物を発見したとき、池のほとりに争った形跡があった」
「えっ、そうなんですか⁉」
驚いたのは、私だった。
さらっと姫島屋先生が凄いことを言ってくれた。そういえばあの日、やけに地面を見ていたように思う。美咲の靴に気づいたのも姫島屋先生だ。
そういえば以前、気になることがある、と言っていたような。
「……気づいてたんですね。私の、嘘」
美咲は、ぽつりと呟いた。
どこか空虚な声音に、私の胸がぎゅっと潰れそうになる。けれど、本当に苦しいのは美咲本人だろう。
気まずい空気が流れ始めて、私は膝の上で拳を握り締める。
正直、なんのことか、私にはわからない。
私はただ、廃屋とあの池のことを、沙賀城美咲に聞きに来ただけ。そのとっかかりとして、姫島屋先生から、沈め池での一件から話題に持ち出すよう、助言されていたのだ。
ちら、と姫島屋先生をみる。
じっと、観察するように美咲をみていた。
何か考えがあるんだろうか。争った形跡があったなんて、私は今のいままで知らなかったけれど。
ここは、姫島屋先生に合わせた方がいいか。
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