新人種の娘

如月あこ

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第三章 日々の暮らしと、『芳賀魔巌二』

3、

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「とにかく、身体を洗いに海辺に行きましょう。この時間だと、誰もいないと思うから。喉はどう? 喋れてるってことは、そこまで酷くないと思うんだけど。でも、皮膚に爪が食い込んだ跡があるし、包帯くらい巻いてあげる」
 うん、と頷いて、百合子に支えられながら海辺を目指した。
 小毬が思っている以上に自身の体力を奪われていたようで、ちょっとした石に何度も躓いた。そのたびに百合子が支えてくれるので転倒は免れたが、自分の惨めさが悔しくて顔をあげることもできなかった。
 地面を這いずったせいで、身体は泥まみれ。殴られたり蹴られたりと暴力をうけたこともあり、身体のあちこちに血がこびりついていた。痛い。泣きたい。けれど、なぜか涙はこぼれなかった。
 もし、こんな目に合うことがわかっていたら、飛龍島にはこなかっただろうか。そう自問して、胸中で首を振る。小毬は、何が待ち受けていたとしても、あのときトワと一緒に故郷を離れただろう。
「あんたって、意外と神経が図太いのね」
 ふいに、百合子が言った。
「泣きわめくものだと思った」
「泣きわめいても、どうにもならないもの」
「まぁ、そうね」
「私が悪いわけじゃないから。だから、私は何も失わない。私が何かを失うときは、加害者になったときだから」
 いつだって、自分にそう言い聞かせてきた。誰かにいじめられても、私は悪くないのだと。もしかしたら私にいじめられる原因があったのかもしれない。例えそれでも、いじめる側が悪いに決まっている。
 今回のこともそうだ。
 小毬は悪くない。悪いのは、あの青年たち。だから、小毬は何も失っていない。身体は怪我を負っても、小毬の魂は綺麗なまま――の、はずだ。
 百合子が、そう、と小さく呟いた。
 そして。
「少しだけ、見直したわ」
 百合子のその言葉に、小毬は救われた気がした。
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