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第一章

五、

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 妖怪の存在について否定的な人が多いことも知っているし、肯定してもらいたい気持ちもある。かなりある。めちゃくちゃある。
   とはいえ、麻野が学びにきたのは民俗学であって、妖怪は趣味の範囲を出ない。ゆえに、真っ先にやるべきことは、妖怪との交友可能証明ではない。
 麻野の妖怪に関しての質問や考えに、律儀に答えてくれる神田教授も、こまめに「課題をやっているのか」「講義には出ているのか」などを、麻野に聞いてくるのだから、よほど麻野が妖怪にかまけているように見えているのだろう。
 そんな心配をされているようでは、麻野が妖怪と友達になれるかのなんたるかを論文や課題にまとめたとしても、信じてもらえないかもしれない。
「よし、しーちゃんに『やるぞー』って気合を聞いてもらおう」
 ころころと目的が変わるが、結局、静子に会いにいくことに変わりはない。
 麻野にとって、目的が変わるのはいつものことだった。
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