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Ⅰ章.始まりの街カミエ
20.舞いと註文帳
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(……なんでこんな事になってるのやろ……)
そう考えながらも、霞は舞いに集中するように努めた。
右に回り左に回る。たおやかな腕の動きにともなって、風になびいた白衣の袂はまるで翼のように広がる。
右手に持つのは、束ねた榊。小さな鈴が複数ついており、動きに合わせて音を奏でる。
ゆったりした手の動きでも、白衣の袂が広がり小さな動きも大きく見える。閉じた袖口から伸びる白魚のような手は、指先までしなやかに伸びる。
霞の舞いに合わせるかのように、舞殿の周囲にはうっすらと霞がたなびき始めている。初夏のやや強めの日差しすら、たなびく霞によって柔らかく舞殿を包んでいる。
ここは三ノ宮山頂近く、睦月宮の中にある舞殿である。本来は二十四節姫以上が巫女神への歌舞音曲を捧げる場所であるが、なぜか霞はそこで舞いを舞っていた。
背後に流れる笛の音は、軽やかに…… そして儚く…… 流れる笛の音は、二十四節姫、雨月の奏でる竜笛の調べである。
竜笛は和楽器の中では広い音域を持っており、その音色は「舞い立ち昇る龍の鳴き声」ともいわれ、竜笛の名の由来ともなっている横笛の一種だ。
鈴の音と竜笛の奏でる調べに、初夏の日差しの中で煙霞が広がり、幻想的な様子を見せているが、舞う霞には戸惑いの表情が深い。
「雑念を持つな、煙霞に乱れが生じているぞ! 貴女は睦月様まで石像にするつもりか!」
厳しい声を霞にかけるのは、二十四節姫が一姫である立春であった。
睦月により招かれた宮の中、舞いを舞う事になり当惑する霞である。
まして、それを見る者が睦月であり、囃子方として、竜笛を奏でるのは雨月であり、神楽鈴は立春なのだから、自らの上司の奏でる楽曲で舞う訳なのだから、緊張しまくりである。
そんな霞の戸惑いをよそに、立春の持つ神楽鈴が音を奏で、霞に舞の変更を告げる。
「次、『榊の舞い 千石煙霞 操霞演武 退魔の舞い』!」
雨月の奏でる曲調が、やや激しいものへと変わる。途切れることなく、淀みもなく……
あわてて霞もそれまでの破邪の舞から退魔の舞へと切り替えるが、急な舞いの切り替えで舞に乱れが生じる。
舞の乱れは煙霞の乱れにつながり、内側に乱れた煙霞が立春の白衣をかすめると、その袂を一瞬にして石化させる。
その結果にやや厳しい目つきになった立春は、長い黒髪を三つ編みにし、メガネをかけたややきつそうな女性である。細身の身体に、神楽鈴を持ちリンと鳴らすたびに、霞に舞いの指示をだしている。
変更された退魔の舞いは、破邪の舞いと異なりその対象を妖魔・妖獣などの魔のものに特化する演舞である。破邪の舞と異なり、姿かたちのない悪霊なども浄化することができる分、そこに込める『祈力』の量はいっきに数倍以上に跳ね上がる。
雨月の奏でる笛の調べのテンポが速くなり、それに伴い霞の舞いも激しいものへと変わると、周囲を漂う『千石煙霞』が淡い輝きをおびだした。それは、漂う霞が退魔の力を持つほどの力を持ったことを意味している。
「次、『操霞演舞 その1 八重霞』!」
(ひいぃ、もう勘弁してくれへんやろか…… そろそろ限界なんやけど)
既に半泣きの霞であるが、その舞いを終える事は許されない。そして、舞に集中することによって、忘我の状態に霞は陥る。
聞こえる曲へ身体が自然に対応し、霞本人の思考は無くなる。いわゆるトランス状態に入った霞の舞に、睦月らの側付きの社人も一瞬心を奪われる。
舞いに応じて、漂う霞の濃度は濃くなり、幾重にも重なる霞は雲のように宮を漂う。
退魔の舞いで漂う霞は、人間に対してその効果を発揮せず、魔のみを石化させる。だが、魔物はその身を邪悪な瘴気でまとった存在だ。
瘴気を打ち破る程度の威力がなければ、自身の『祈力』、体力が削られるだけで何の効果もなく、場合によっては攻撃されたと周囲の魔を活性化させることもある両刃の剣となる。現在の霞では、相手の瘴気の強さがわからず、全力をださねばならない分消耗は激しい。
汗が頬を伝う頃には、忘我の域へと達した霞は何も考えず、奏でられる音楽に合わせて、ただひたすらに舞い踊る。そして、立春からの最後の指示が飛んだ……
「『操霞演舞 その2 波濤』!」
両の手を振り下ろすと同時に、霞を中心に渦巻いた『八重霞』が波のように広がり、輝く霞が氷晶山からカミエの街全体を覆う。
氷晶山の真上から見る事ができる者が居れば、輝く霞が同心円状に広がり、街壁の内側へと波のように押し寄せ、威力を弱めながら再び街から宮社へと引くように寄せ消えていくのが見えたであろう。
舞殿の中心で、霞は片膝をついて荒い息を吐いた。
『八重霞』は、周囲の霞の量を数倍に増やす術であり、舞いによって術式を形成する霞にとっての負担は大きい。
さらに、『波濤』は煙霞を波のように押し出し、周囲の者を飲み込み石化させる術である。自分自身を中心に、爆発的に『祈力』を押し広げるのは、かなり高度な技術が必要なのだ。
(それにしても、いきなり呼び出されてなんなん? うち、なんかしたやろか?)
霞が呼吸を整えながらゆるゆると立ち上がると、拍手の音がした。
そちらを見ると、睦月と雨水が拍手をしており、立春の表情も先ほどよりも和らいでいるようにみえた。
ふらつく身体で霞が一礼すると、睦月が立春を咎めるように話す。
「ほら、だから大丈夫といったでしょう? この娘は若いけど結構やれる子なのよ。立春は少しも信用してくれないんですもの」
「七十二候の席は若い娘たちの目標ですし、若くして目標を達成してしまった娘が、次の目標を見つけるまで、多少ぼんやりして見えるものでしょう?」
睦月と雨水がどうやら霞を擁護してくれているようだが、そもそも霞はなぜそんなことになっているのかが分かっておらず、首をかしげた。
とはいえ、霞よりもはるかに高位の人たちであり、むやみに口を開くわけにもいかず、三人の前に伏礼する。
「確かに、周囲の者が言うほどたるみきったわけではないようですが…… 七十二候の席を温めるだけでは困ります。
才ある者が上を目指してもらわねば、我々がいつまでもお役を離れる事が出来ぬではありませんか」
立春の言葉で、睦月と雨水はくすくすと笑う。なんだかんだといいながらも、霞に期待しているのは立春も同じようだ。
「霞さん、良い舞いでしたよ。
立春、この娘は厳しく言うだけでは反発するだけですわよ。かといって、甘やかして時を無駄にさせる訳にもまいりませんわね……」
睦月の言葉に頭を下げる立春であったが、霞としては七十二候の席でさえ過分な地位と思っているのに、さらに上を目指せと言われるとは思いもしていなかった。
「……そうですわ! 雨水、アレを持ってきて下さらない?」
思案していた睦月が、良い事を思いついたとばかりに両の手を打ち合わせると、小気味よい音がした。唯それだけなのに、なぜかこの場の空気が澄んでいく気がするのも、十二月姫の実力のなせる技なのだろう。
睦月に指示された雨水が宮へともどり、再び何かをもって現れる。睦月はそれを霞に示しながら、それが何かを説明した。
「霞さん、あなたも知っていると思うけど、七十二候以上の位を勤め上げた巫女は、お役御免の時にいくつかのお願いを聞いてもらえる事はしっているでしょう?」
睦月の言葉に、霞はうなづいた。七十二候であれば一つ、二十四節姫であれば三つ、そして十二月姫では最大で五つまでの報酬を受け取る事ができる。むろん、あまり無茶なものは認められないが、お役御免後にどこそこの町に屋敷を賜りたいなどという程度であればかなえられるものだ。
霞がうなづくのをみて、睦月がさらに言葉を続けた。
「でもね、自分が欲しかったものが、先にお役を御免になる先輩たちにとられてしまう可能性が無いわけじゃないの。特にそれが希少なら余計に……
それが元で争いになることもありますわ。それを避けるためのものが、この『註文帳』ですのよ。既に註文帳に書かれていないものであれば、先に書いた人に優先権が与えられるの。
貴女のような人には、無理にさせるよりも、ニンジンをぶら下げておいた方が頑張ってくれるでしょうし」
にこやかにほほ笑む睦月に、霞は内心で『自分は馬かいな』と思わぬでもなかった。しかし強制されてお役目に精進させられるよりは、ご褒美の方が動きやすいと思う自分もいるのは確かである。
そして、あることに気付いて、霞は睦月に質問をしてみた。
「……これって、何を書いてもええのでっしゃろか? 例えば付き人やらも……」
それを聞いて、立春が口をはさんだ。
「以前にも側付きの社人を書いた者はいたようだし、記入することは可能だな。一応記入された者には、他者は干渉しないという事が不文律となっている事だし。
それに、記入するのは相手の名が必要で、お役目の名を書いても意味はない。最低限、名を知る程度にはお互いの付き合いがあることが必須となるな。
だが、お役御免の時に相手の同意が必要となるし、そこで相手に拒否されれば貴重な一枠を無駄にすることになるので、人の名を書くことは推奨せんぞ」
その言葉を聞いて、霞は再び考える。今後の事を……
そして、そんな霞を生暖かい目でみつめる睦月ら面々……
「決めました! 今ここで記入してもよろしいのでしょうか?」
「えっ、えぇ。今記入していくのは構いませんが、良く考えてから書いた方が良いのではありませんか?
これは他者と被らない様に、他の人も見るものですし……」
戸惑ったような雨水の声だが、霞はためらう事無くなくうなづいた。そして、雨水の側付きが筆を用意する間も、何かを決心したように一人ごちた。
「……これなら手遅れちゅうことはあらへんやろう。今以上やかましなるかもわからへんけど、よけいな競争相手ぇ増やすよりはマシやで……」
数分後、『註文帳』に記入した後、意気揚々と歩きさる霞を見送る睦月たちの表情は複雑な色を浮かべていた。
『註文帳』に霞が記入していったのはただ一行……
そこには『北斗』と真名が書かれていたのである……
そう考えながらも、霞は舞いに集中するように努めた。
右に回り左に回る。たおやかな腕の動きにともなって、風になびいた白衣の袂はまるで翼のように広がる。
右手に持つのは、束ねた榊。小さな鈴が複数ついており、動きに合わせて音を奏でる。
ゆったりした手の動きでも、白衣の袂が広がり小さな動きも大きく見える。閉じた袖口から伸びる白魚のような手は、指先までしなやかに伸びる。
霞の舞いに合わせるかのように、舞殿の周囲にはうっすらと霞がたなびき始めている。初夏のやや強めの日差しすら、たなびく霞によって柔らかく舞殿を包んでいる。
ここは三ノ宮山頂近く、睦月宮の中にある舞殿である。本来は二十四節姫以上が巫女神への歌舞音曲を捧げる場所であるが、なぜか霞はそこで舞いを舞っていた。
背後に流れる笛の音は、軽やかに…… そして儚く…… 流れる笛の音は、二十四節姫、雨月の奏でる竜笛の調べである。
竜笛は和楽器の中では広い音域を持っており、その音色は「舞い立ち昇る龍の鳴き声」ともいわれ、竜笛の名の由来ともなっている横笛の一種だ。
鈴の音と竜笛の奏でる調べに、初夏の日差しの中で煙霞が広がり、幻想的な様子を見せているが、舞う霞には戸惑いの表情が深い。
「雑念を持つな、煙霞に乱れが生じているぞ! 貴女は睦月様まで石像にするつもりか!」
厳しい声を霞にかけるのは、二十四節姫が一姫である立春であった。
睦月により招かれた宮の中、舞いを舞う事になり当惑する霞である。
まして、それを見る者が睦月であり、囃子方として、竜笛を奏でるのは雨月であり、神楽鈴は立春なのだから、自らの上司の奏でる楽曲で舞う訳なのだから、緊張しまくりである。
そんな霞の戸惑いをよそに、立春の持つ神楽鈴が音を奏で、霞に舞の変更を告げる。
「次、『榊の舞い 千石煙霞 操霞演武 退魔の舞い』!」
雨月の奏でる曲調が、やや激しいものへと変わる。途切れることなく、淀みもなく……
あわてて霞もそれまでの破邪の舞から退魔の舞へと切り替えるが、急な舞いの切り替えで舞に乱れが生じる。
舞の乱れは煙霞の乱れにつながり、内側に乱れた煙霞が立春の白衣をかすめると、その袂を一瞬にして石化させる。
その結果にやや厳しい目つきになった立春は、長い黒髪を三つ編みにし、メガネをかけたややきつそうな女性である。細身の身体に、神楽鈴を持ちリンと鳴らすたびに、霞に舞いの指示をだしている。
変更された退魔の舞いは、破邪の舞いと異なりその対象を妖魔・妖獣などの魔のものに特化する演舞である。破邪の舞と異なり、姿かたちのない悪霊なども浄化することができる分、そこに込める『祈力』の量はいっきに数倍以上に跳ね上がる。
雨月の奏でる笛の調べのテンポが速くなり、それに伴い霞の舞いも激しいものへと変わると、周囲を漂う『千石煙霞』が淡い輝きをおびだした。それは、漂う霞が退魔の力を持つほどの力を持ったことを意味している。
「次、『操霞演舞 その1 八重霞』!」
(ひいぃ、もう勘弁してくれへんやろか…… そろそろ限界なんやけど)
既に半泣きの霞であるが、その舞いを終える事は許されない。そして、舞に集中することによって、忘我の状態に霞は陥る。
聞こえる曲へ身体が自然に対応し、霞本人の思考は無くなる。いわゆるトランス状態に入った霞の舞に、睦月らの側付きの社人も一瞬心を奪われる。
舞いに応じて、漂う霞の濃度は濃くなり、幾重にも重なる霞は雲のように宮を漂う。
退魔の舞いで漂う霞は、人間に対してその効果を発揮せず、魔のみを石化させる。だが、魔物はその身を邪悪な瘴気でまとった存在だ。
瘴気を打ち破る程度の威力がなければ、自身の『祈力』、体力が削られるだけで何の効果もなく、場合によっては攻撃されたと周囲の魔を活性化させることもある両刃の剣となる。現在の霞では、相手の瘴気の強さがわからず、全力をださねばならない分消耗は激しい。
汗が頬を伝う頃には、忘我の域へと達した霞は何も考えず、奏でられる音楽に合わせて、ただひたすらに舞い踊る。そして、立春からの最後の指示が飛んだ……
「『操霞演舞 その2 波濤』!」
両の手を振り下ろすと同時に、霞を中心に渦巻いた『八重霞』が波のように広がり、輝く霞が氷晶山からカミエの街全体を覆う。
氷晶山の真上から見る事ができる者が居れば、輝く霞が同心円状に広がり、街壁の内側へと波のように押し寄せ、威力を弱めながら再び街から宮社へと引くように寄せ消えていくのが見えたであろう。
舞殿の中心で、霞は片膝をついて荒い息を吐いた。
『八重霞』は、周囲の霞の量を数倍に増やす術であり、舞いによって術式を形成する霞にとっての負担は大きい。
さらに、『波濤』は煙霞を波のように押し出し、周囲の者を飲み込み石化させる術である。自分自身を中心に、爆発的に『祈力』を押し広げるのは、かなり高度な技術が必要なのだ。
(それにしても、いきなり呼び出されてなんなん? うち、なんかしたやろか?)
霞が呼吸を整えながらゆるゆると立ち上がると、拍手の音がした。
そちらを見ると、睦月と雨水が拍手をしており、立春の表情も先ほどよりも和らいでいるようにみえた。
ふらつく身体で霞が一礼すると、睦月が立春を咎めるように話す。
「ほら、だから大丈夫といったでしょう? この娘は若いけど結構やれる子なのよ。立春は少しも信用してくれないんですもの」
「七十二候の席は若い娘たちの目標ですし、若くして目標を達成してしまった娘が、次の目標を見つけるまで、多少ぼんやりして見えるものでしょう?」
睦月と雨水がどうやら霞を擁護してくれているようだが、そもそも霞はなぜそんなことになっているのかが分かっておらず、首をかしげた。
とはいえ、霞よりもはるかに高位の人たちであり、むやみに口を開くわけにもいかず、三人の前に伏礼する。
「確かに、周囲の者が言うほどたるみきったわけではないようですが…… 七十二候の席を温めるだけでは困ります。
才ある者が上を目指してもらわねば、我々がいつまでもお役を離れる事が出来ぬではありませんか」
立春の言葉で、睦月と雨水はくすくすと笑う。なんだかんだといいながらも、霞に期待しているのは立春も同じようだ。
「霞さん、良い舞いでしたよ。
立春、この娘は厳しく言うだけでは反発するだけですわよ。かといって、甘やかして時を無駄にさせる訳にもまいりませんわね……」
睦月の言葉に頭を下げる立春であったが、霞としては七十二候の席でさえ過分な地位と思っているのに、さらに上を目指せと言われるとは思いもしていなかった。
「……そうですわ! 雨水、アレを持ってきて下さらない?」
思案していた睦月が、良い事を思いついたとばかりに両の手を打ち合わせると、小気味よい音がした。唯それだけなのに、なぜかこの場の空気が澄んでいく気がするのも、十二月姫の実力のなせる技なのだろう。
睦月に指示された雨水が宮へともどり、再び何かをもって現れる。睦月はそれを霞に示しながら、それが何かを説明した。
「霞さん、あなたも知っていると思うけど、七十二候以上の位を勤め上げた巫女は、お役御免の時にいくつかのお願いを聞いてもらえる事はしっているでしょう?」
睦月の言葉に、霞はうなづいた。七十二候であれば一つ、二十四節姫であれば三つ、そして十二月姫では最大で五つまでの報酬を受け取る事ができる。むろん、あまり無茶なものは認められないが、お役御免後にどこそこの町に屋敷を賜りたいなどという程度であればかなえられるものだ。
霞がうなづくのをみて、睦月がさらに言葉を続けた。
「でもね、自分が欲しかったものが、先にお役を御免になる先輩たちにとられてしまう可能性が無いわけじゃないの。特にそれが希少なら余計に……
それが元で争いになることもありますわ。それを避けるためのものが、この『註文帳』ですのよ。既に註文帳に書かれていないものであれば、先に書いた人に優先権が与えられるの。
貴女のような人には、無理にさせるよりも、ニンジンをぶら下げておいた方が頑張ってくれるでしょうし」
にこやかにほほ笑む睦月に、霞は内心で『自分は馬かいな』と思わぬでもなかった。しかし強制されてお役目に精進させられるよりは、ご褒美の方が動きやすいと思う自分もいるのは確かである。
そして、あることに気付いて、霞は睦月に質問をしてみた。
「……これって、何を書いてもええのでっしゃろか? 例えば付き人やらも……」
それを聞いて、立春が口をはさんだ。
「以前にも側付きの社人を書いた者はいたようだし、記入することは可能だな。一応記入された者には、他者は干渉しないという事が不文律となっている事だし。
それに、記入するのは相手の名が必要で、お役目の名を書いても意味はない。最低限、名を知る程度にはお互いの付き合いがあることが必須となるな。
だが、お役御免の時に相手の同意が必要となるし、そこで相手に拒否されれば貴重な一枠を無駄にすることになるので、人の名を書くことは推奨せんぞ」
その言葉を聞いて、霞は再び考える。今後の事を……
そして、そんな霞を生暖かい目でみつめる睦月ら面々……
「決めました! 今ここで記入してもよろしいのでしょうか?」
「えっ、えぇ。今記入していくのは構いませんが、良く考えてから書いた方が良いのではありませんか?
これは他者と被らない様に、他の人も見るものですし……」
戸惑ったような雨水の声だが、霞はためらう事無くなくうなづいた。そして、雨水の側付きが筆を用意する間も、何かを決心したように一人ごちた。
「……これなら手遅れちゅうことはあらへんやろう。今以上やかましなるかもわからへんけど、よけいな競争相手ぇ増やすよりはマシやで……」
数分後、『註文帳』に記入した後、意気揚々と歩きさる霞を見送る睦月たちの表情は複雑な色を浮かべていた。
『註文帳』に霞が記入していったのはただ一行……
そこには『北斗』と真名が書かれていたのである……
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