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4.アレキサンドライトの輝き
27.『死界』2日目3日目
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結局というか当然というか、駐留軍の隊長であるヴェルンハルトさんとフローラさんとの話し合いによって、反帝国組織『ヴァリアント・ゲレーロ』の回答があるまで、ここ『ラモ・デ・シダーデ』の町に止まる事になりました。
話し合いが上手くいけば、補給路を襲われる心配はなくなりますし、開拓民として移住する人々の選抜も余裕を持って勧める事が出来ますから、良い事尽くめです。
交渉が決裂すれば、補給部隊の護衛を増やすなどの事前の処理が出来ますし、町の警備などの必要な資源の再計算が必要となります。どちらに転がっても、今よりはマシなのですから、こちらは待つだけですね。
そして、時間が出来た僕はシャルさんの魔道具の修復を行い、イリスさん達はアーネストさんの護衛のもと、周囲の探索に出る事になりました。イリスさん達だけで出かけるよりは、アーネストさんがいれば安心です。
『家出娘の天国』の中で、テーブルを工作台替わりにシャルさんの魔道具『アロンの杖・シャーリーEdtion28+』を再度確認します。
さすがに、10年間無調整というのは負担が大きすぎですね。見立てどおり、かなり痛んでいますが、幸いにして修復にかかる素材は、僕の手持ちとシャルさんの今までの冒険者としての活動で得た希少素材で何とかなりそうです。
調整作業には。シャルさんの魔力波長にあわせる必要がありますので、退屈でしょうがシャルさんは僕と一緒にお留守番です。
なんとかお昼前までに、亀裂や断裂した魔法回路の修復を完了させて、暴走を防ぐ為の安全弁を追加して完成です。
安全弁は魔力を大気中に逃がす形として、翼の形にしたので、柄頭に開いた白い両翼が付いた形になり外観も変更となりました。
「はぁ、やっと終りましたよ。『アロンの杖(改)・シャーリーEdtion29』です。ちゃんと目を開けて使ってくださいよ。いっそ、魔力を込めすぎたら本人に電気ショックが行くようにすれば良かったですかね?」
「おおおおぉ、めっちゃかっこええ~」
僕から『アロンの杖(改)・シャーリーEdtion29』を奪い取ったシャルさんは、あちこち見回して喜んでいます。
「こらうちのなんやね。誰にも渡さんでええんやね? てか、渡さんし!」
はいはい、誰も盗りませんよ。というか、調整済みですから、シャルさんにしか使えませんし。そうそう、安全弁について説明しておかないといけませんね。
「いいですか、新しく付いた翼の部分ですが、外側から10本の羽があるのがわかりますね?」
僕の説明に、うんうん頷くシャルさんは、ほんとアレクシアさんににてこういう仕草は大人の女性なのに、妙にかわいいですね。そんなシャルさんを見ながら話を続けます。
「外側から、初列風切が3枚、次に次列風切が5枚、最後に三列風切が2枚あって、これが魔力の込め具合の指標になります。普通に使う分には、羽を1枚も光らせない状態で使用してください」
シャルさんは左右の羽を数えたりしながら素直に聞いていますね。
「魔力を込め始めると、外側の初列風切から順に光り始めます。大事なのは、三列風切を光らせない事ですからね。
次列風切が光るほど魔力を込めれば、その1日2,3回しか魔法は放てないと思います。 三列風切が光るような魔法を使うと、恐らくその場で失神するはずですよ? 退避も不能になりますからね?」
僕は念押ししておきます。
「三列風切を光らせない事、良いですね?!」
大事な事なので2回言いました。まあ、あちこちに並列回路が元々組まれているので、そうそう暴走はしないと思いますが……
これだけ保護回路付いてる魔道具も珍しいですよ、きっとシャルさんは学生のうちから力の加減が出来ない人だったのでしょうね。
「ほな、うちは練習してくるわ。修復おおきに。後からお礼に飴ちゃんあげるなぁ」
そう言ってドアから出て行きます。しかも、しっかりと待っている間にシャワーまで使っていきましたよ、あの人……
その後イリスさん達が戻ってきて昼食となり、周囲に特に問題が無い事が確認されて2日目も終了となりました。
*****
3日目の昼を越えた当たりで、動きがでました。西街門外に、『ヴァリアント・ゲレーロ』の代表者10名が現われたのです。フローラさんと守備隊の隊長ヴェルンハルトさん、副官のシュテラさんの3名と、代表者のうち上位の方3名同士で、会議が行われています。
僕達は政治絡みに関わるつもりはありませんが、万が一に備えて隣室でシャルさん、アーネストさん達と僕達6人は待機しています。ただし、正面の座席には、『ヴァリアント・ゲレーロ』の残り7人も居ますけどね。
「おい、白いの……」
むっ? 気安く声をかけてきたお面男を、僕はジト目で見ます。右手が自然と後ろ、ヒップホルスターに伸びますが、イリスさんの囁きで辛うじて自制します。
「……何か用ですか? 僕はあなたに用はありませんよ」
僕は素っ気無い態度をとりますが、相手は意に介さないようですね。
「ふっ、白いのは見た目と下着位かと思えば、頭の中も真っ白なのか」
くっ、コイツあの時の奴だ。理解した途端、羞恥に顔が火照るのが判りますが、左右からユイとイリスが僕の手を握っているので、二人の手の冷たさで冷静を保てます。
「どなたか存じませんが、女子の下着をあげつらって、馬鹿にする態度はいかがなものかと思いますわ」
イリスさんの声の温度が、絶対零度にまで下がります。仮面男をみる二人の眼差しも、剣呑な雰囲気ですね。
「「クロエ、殺しますか?」」
エマ&ジェシーの問いかけに、おもわず微笑んで「良いよ♪」と言いたくなります。ユーリアちゃんも無言で短弓をとりださないのっ。急速に悪化する雰囲気の中、シャルさんの間延びしたような声が、流れました。
「ほらほら、子供のいう事にいちいち反応したらあかんやろ」
そして、他の6人のお面男達をみて、花開くようなにこやかな笑顔を見せて、言葉を続けます。心なしかお面男達が赤面したように見えるから不思議ですね。
「そちらも、きちんとお子様の面倒を見てくれな困りまっせ」
「おい、まてよ。俺はお子様じゃねぇ」
お子様扱いされた最初のお面男は、明らかに動揺していますね。お面の所為で顔色はわかりませんが、黒髪から見える耳が朱に染まっているのが判ります。それを見て、僕達(少なくても僕と、イリスさんとユイ)の怒りの温度は下がります。
むぅ、危ないですね。あまり自分が馬鹿にされても頭に来なかったのですが、コイツに言われると妙に腹が立ちますね。
「N º 5、控えろ。そちらも未熟者をからかうのは、程ほどに願いたい」
先頭にいたお面男の言葉に、最初のお面男(N º 5というらしいですね)は不満そうではありますが、口を閉じます。
シャルさんはどや顔でN º 5を見た後、足を組みなおします。今日のシャルさんは、いかにも魔法使い風のローブですが、胸元の強調されたデザインの上衣に、深いスリットの入ったスカートが扇情的です。その所為か、お面男達も今一ついつも通りとはいかないようですね。むぅ、これが女の武器の運用の一つなのでしょうか?
黙ったまましばしの時が過ぎ、会議の行われていた部屋の扉が開きます。フローラさんと並んで部屋に入ってきた仮面の女性は、僕たちの前で仮面を外します。そこには、黒髪に凛々しいながらも美しさを伴った、女騎士とも言える女性の顔が見えます。
「皆の者、話し合いは定まった。我々『ヴァリアント・ゲレーロ』が復興した土地は、クラウディウス公爵家令嬢エリーゼの名の元に、正式にセロ・アスル領として所領として認定される。
我々が彼らに提供する物は特にない。ただ故国の故地を復興するだけである。彼らが我々に望むのは唯2つのみ」
女騎士さんが、お面男達を見ながら言いました。
「一つは、『黒死病』にならずに開拓を進めること。もう一つは、5年後より貴族として国庫に税を納めることだ」
お面男達が身じろぎしますが、女騎士さんは続けます。
「属国扱いに不満はあろうが、我等にしても彼女らにしても今争うのは両者の為にならぬ。われらが我等の所領を健全と育むうちに、帝国が倒れるかもしれぬ。
何れの国家も永遠に存在する事などありえぬ点で、我とエリーゼ嬢の考えは一致しておる。ならばまずは双方健全な国土を得るまでの、いわば休戦というわけだ」
女騎士さんの演説が終ったようなので、フローラさんが言葉を続けました。
「まずは双方の目的、国土の開拓において最大の障害となる『黒死病』の対策方法を、皆様に持ち帰っていただき、実践をお願いします。お互い、復興に注げる資源としての民の人数には制限がありますので、この地に投入された民を減らさぬようにすることが、お互いの目的を達成する要となります」
こうして、両者の停戦は結ばれたのでした。
*****
イリスさん、ユイ、ユーリアちゃんが、元お面男達に『黒死病』対策を説明している間、僕はフローラさんと女騎士ヴァネッサさんと一緒に、メイドさんの入れてくれた紅茶を頂いています。
二人の間に和やかな話が続いていますが、僕は気になる事があって、つい口を挟んでしまいます。
「フローラさん、先ほどヴァネッサさんが仰ったように、彼らが開拓というか復興する土地を『セロ・アスル領』とすることに問題はないのですか?」
ヴァネッサさんが僕とフローラさんを見つめています。
「エリーゼお嬢様は、こう言われました。『クラウディウス公爵家が言われたのは、セロ・アスルの故地を復興せよと。ならば復興する者達が、クラウディウス領に住む者でなくても良いでしょう。ヴァリアント・ゲレーロの方々が望むなら、彼らが復興した土地は彼らの所領としても問題ないでしょう』とのことです。
実際、我々が領民を投入したとしても、『黒死病』の危険がある以上、こちらの指示に従う人を選抜する必要があります。
あまり、名誉欲や広い土地を所有したい人は困るのですよ。彼らは、ルールを守らないでしょうから」
フローラさんは、肯くヴァネッサさんをみて続けました。
「その点彼女達であれば、自分達の故地を開拓・復興する意欲は旺盛です。ただ復興を急ぐあまり、『黒死病』の対策をとりつつ進めていただく必要がありますが、私達が民を投入するよりは、よほど安全でしょう」
「我々としても、戦うだけでは兵も民も減っていくだけだった。国の大本となる民が居なくなれば、王族や貴族などなんの価値も無いのでな。
そして、なにより我々は開拓民とは異なり、既にこの地に根付いている。子供や幼子もそれなりに居るのだから、エリーゼ殿が領民をこちらに移住させるより、はるかに多くの土地を復興し、セロ・アスルの領土を増やせるとみこんだのだ」
その言葉に僕も納得します。もともと、小国だったセロ・アスルですが、黒死病の所為で辺境の村や町しか人は生き残っていません。100人移民を送り込み、食料や住居を支援するなら、今現在居住している数千人を活用したほうがの幅は狭く、その分十分な量の支援を送る事ができるでしょう。結果は、早期の復興ならば、エリーゼさんの考えどおりで問題はないでしょうね。
その後、両者で犯罪者の対応についても話し合われました。フォレスト・フォートから入ってくる人間は必ずしもこちらの思惑通りに動く人ばかりではありません。そういう人達が問題を起こして、両者の全面的な争いにならないようにする為です。
政治的な話が多くなったので、僕は辞去することにし、その場を離れたのでした。
話し合いが上手くいけば、補給路を襲われる心配はなくなりますし、開拓民として移住する人々の選抜も余裕を持って勧める事が出来ますから、良い事尽くめです。
交渉が決裂すれば、補給部隊の護衛を増やすなどの事前の処理が出来ますし、町の警備などの必要な資源の再計算が必要となります。どちらに転がっても、今よりはマシなのですから、こちらは待つだけですね。
そして、時間が出来た僕はシャルさんの魔道具の修復を行い、イリスさん達はアーネストさんの護衛のもと、周囲の探索に出る事になりました。イリスさん達だけで出かけるよりは、アーネストさんがいれば安心です。
『家出娘の天国』の中で、テーブルを工作台替わりにシャルさんの魔道具『アロンの杖・シャーリーEdtion28+』を再度確認します。
さすがに、10年間無調整というのは負担が大きすぎですね。見立てどおり、かなり痛んでいますが、幸いにして修復にかかる素材は、僕の手持ちとシャルさんの今までの冒険者としての活動で得た希少素材で何とかなりそうです。
調整作業には。シャルさんの魔力波長にあわせる必要がありますので、退屈でしょうがシャルさんは僕と一緒にお留守番です。
なんとかお昼前までに、亀裂や断裂した魔法回路の修復を完了させて、暴走を防ぐ為の安全弁を追加して完成です。
安全弁は魔力を大気中に逃がす形として、翼の形にしたので、柄頭に開いた白い両翼が付いた形になり外観も変更となりました。
「はぁ、やっと終りましたよ。『アロンの杖(改)・シャーリーEdtion29』です。ちゃんと目を開けて使ってくださいよ。いっそ、魔力を込めすぎたら本人に電気ショックが行くようにすれば良かったですかね?」
「おおおおぉ、めっちゃかっこええ~」
僕から『アロンの杖(改)・シャーリーEdtion29』を奪い取ったシャルさんは、あちこち見回して喜んでいます。
「こらうちのなんやね。誰にも渡さんでええんやね? てか、渡さんし!」
はいはい、誰も盗りませんよ。というか、調整済みですから、シャルさんにしか使えませんし。そうそう、安全弁について説明しておかないといけませんね。
「いいですか、新しく付いた翼の部分ですが、外側から10本の羽があるのがわかりますね?」
僕の説明に、うんうん頷くシャルさんは、ほんとアレクシアさんににてこういう仕草は大人の女性なのに、妙にかわいいですね。そんなシャルさんを見ながら話を続けます。
「外側から、初列風切が3枚、次に次列風切が5枚、最後に三列風切が2枚あって、これが魔力の込め具合の指標になります。普通に使う分には、羽を1枚も光らせない状態で使用してください」
シャルさんは左右の羽を数えたりしながら素直に聞いていますね。
「魔力を込め始めると、外側の初列風切から順に光り始めます。大事なのは、三列風切を光らせない事ですからね。
次列風切が光るほど魔力を込めれば、その1日2,3回しか魔法は放てないと思います。 三列風切が光るような魔法を使うと、恐らくその場で失神するはずですよ? 退避も不能になりますからね?」
僕は念押ししておきます。
「三列風切を光らせない事、良いですね?!」
大事な事なので2回言いました。まあ、あちこちに並列回路が元々組まれているので、そうそう暴走はしないと思いますが……
これだけ保護回路付いてる魔道具も珍しいですよ、きっとシャルさんは学生のうちから力の加減が出来ない人だったのでしょうね。
「ほな、うちは練習してくるわ。修復おおきに。後からお礼に飴ちゃんあげるなぁ」
そう言ってドアから出て行きます。しかも、しっかりと待っている間にシャワーまで使っていきましたよ、あの人……
その後イリスさん達が戻ってきて昼食となり、周囲に特に問題が無い事が確認されて2日目も終了となりました。
*****
3日目の昼を越えた当たりで、動きがでました。西街門外に、『ヴァリアント・ゲレーロ』の代表者10名が現われたのです。フローラさんと守備隊の隊長ヴェルンハルトさん、副官のシュテラさんの3名と、代表者のうち上位の方3名同士で、会議が行われています。
僕達は政治絡みに関わるつもりはありませんが、万が一に備えて隣室でシャルさん、アーネストさん達と僕達6人は待機しています。ただし、正面の座席には、『ヴァリアント・ゲレーロ』の残り7人も居ますけどね。
「おい、白いの……」
むっ? 気安く声をかけてきたお面男を、僕はジト目で見ます。右手が自然と後ろ、ヒップホルスターに伸びますが、イリスさんの囁きで辛うじて自制します。
「……何か用ですか? 僕はあなたに用はありませんよ」
僕は素っ気無い態度をとりますが、相手は意に介さないようですね。
「ふっ、白いのは見た目と下着位かと思えば、頭の中も真っ白なのか」
くっ、コイツあの時の奴だ。理解した途端、羞恥に顔が火照るのが判りますが、左右からユイとイリスが僕の手を握っているので、二人の手の冷たさで冷静を保てます。
「どなたか存じませんが、女子の下着をあげつらって、馬鹿にする態度はいかがなものかと思いますわ」
イリスさんの声の温度が、絶対零度にまで下がります。仮面男をみる二人の眼差しも、剣呑な雰囲気ですね。
「「クロエ、殺しますか?」」
エマ&ジェシーの問いかけに、おもわず微笑んで「良いよ♪」と言いたくなります。ユーリアちゃんも無言で短弓をとりださないのっ。急速に悪化する雰囲気の中、シャルさんの間延びしたような声が、流れました。
「ほらほら、子供のいう事にいちいち反応したらあかんやろ」
そして、他の6人のお面男達をみて、花開くようなにこやかな笑顔を見せて、言葉を続けます。心なしかお面男達が赤面したように見えるから不思議ですね。
「そちらも、きちんとお子様の面倒を見てくれな困りまっせ」
「おい、まてよ。俺はお子様じゃねぇ」
お子様扱いされた最初のお面男は、明らかに動揺していますね。お面の所為で顔色はわかりませんが、黒髪から見える耳が朱に染まっているのが判ります。それを見て、僕達(少なくても僕と、イリスさんとユイ)の怒りの温度は下がります。
むぅ、危ないですね。あまり自分が馬鹿にされても頭に来なかったのですが、コイツに言われると妙に腹が立ちますね。
「N º 5、控えろ。そちらも未熟者をからかうのは、程ほどに願いたい」
先頭にいたお面男の言葉に、最初のお面男(N º 5というらしいですね)は不満そうではありますが、口を閉じます。
シャルさんはどや顔でN º 5を見た後、足を組みなおします。今日のシャルさんは、いかにも魔法使い風のローブですが、胸元の強調されたデザインの上衣に、深いスリットの入ったスカートが扇情的です。その所為か、お面男達も今一ついつも通りとはいかないようですね。むぅ、これが女の武器の運用の一つなのでしょうか?
黙ったまましばしの時が過ぎ、会議の行われていた部屋の扉が開きます。フローラさんと並んで部屋に入ってきた仮面の女性は、僕たちの前で仮面を外します。そこには、黒髪に凛々しいながらも美しさを伴った、女騎士とも言える女性の顔が見えます。
「皆の者、話し合いは定まった。我々『ヴァリアント・ゲレーロ』が復興した土地は、クラウディウス公爵家令嬢エリーゼの名の元に、正式にセロ・アスル領として所領として認定される。
我々が彼らに提供する物は特にない。ただ故国の故地を復興するだけである。彼らが我々に望むのは唯2つのみ」
女騎士さんが、お面男達を見ながら言いました。
「一つは、『黒死病』にならずに開拓を進めること。もう一つは、5年後より貴族として国庫に税を納めることだ」
お面男達が身じろぎしますが、女騎士さんは続けます。
「属国扱いに不満はあろうが、我等にしても彼女らにしても今争うのは両者の為にならぬ。われらが我等の所領を健全と育むうちに、帝国が倒れるかもしれぬ。
何れの国家も永遠に存在する事などありえぬ点で、我とエリーゼ嬢の考えは一致しておる。ならばまずは双方健全な国土を得るまでの、いわば休戦というわけだ」
女騎士さんの演説が終ったようなので、フローラさんが言葉を続けました。
「まずは双方の目的、国土の開拓において最大の障害となる『黒死病』の対策方法を、皆様に持ち帰っていただき、実践をお願いします。お互い、復興に注げる資源としての民の人数には制限がありますので、この地に投入された民を減らさぬようにすることが、お互いの目的を達成する要となります」
こうして、両者の停戦は結ばれたのでした。
*****
イリスさん、ユイ、ユーリアちゃんが、元お面男達に『黒死病』対策を説明している間、僕はフローラさんと女騎士ヴァネッサさんと一緒に、メイドさんの入れてくれた紅茶を頂いています。
二人の間に和やかな話が続いていますが、僕は気になる事があって、つい口を挟んでしまいます。
「フローラさん、先ほどヴァネッサさんが仰ったように、彼らが開拓というか復興する土地を『セロ・アスル領』とすることに問題はないのですか?」
ヴァネッサさんが僕とフローラさんを見つめています。
「エリーゼお嬢様は、こう言われました。『クラウディウス公爵家が言われたのは、セロ・アスルの故地を復興せよと。ならば復興する者達が、クラウディウス領に住む者でなくても良いでしょう。ヴァリアント・ゲレーロの方々が望むなら、彼らが復興した土地は彼らの所領としても問題ないでしょう』とのことです。
実際、我々が領民を投入したとしても、『黒死病』の危険がある以上、こちらの指示に従う人を選抜する必要があります。
あまり、名誉欲や広い土地を所有したい人は困るのですよ。彼らは、ルールを守らないでしょうから」
フローラさんは、肯くヴァネッサさんをみて続けました。
「その点彼女達であれば、自分達の故地を開拓・復興する意欲は旺盛です。ただ復興を急ぐあまり、『黒死病』の対策をとりつつ進めていただく必要がありますが、私達が民を投入するよりは、よほど安全でしょう」
「我々としても、戦うだけでは兵も民も減っていくだけだった。国の大本となる民が居なくなれば、王族や貴族などなんの価値も無いのでな。
そして、なにより我々は開拓民とは異なり、既にこの地に根付いている。子供や幼子もそれなりに居るのだから、エリーゼ殿が領民をこちらに移住させるより、はるかに多くの土地を復興し、セロ・アスルの領土を増やせるとみこんだのだ」
その言葉に僕も納得します。もともと、小国だったセロ・アスルですが、黒死病の所為で辺境の村や町しか人は生き残っていません。100人移民を送り込み、食料や住居を支援するなら、今現在居住している数千人を活用したほうがの幅は狭く、その分十分な量の支援を送る事ができるでしょう。結果は、早期の復興ならば、エリーゼさんの考えどおりで問題はないでしょうね。
その後、両者で犯罪者の対応についても話し合われました。フォレスト・フォートから入ってくる人間は必ずしもこちらの思惑通りに動く人ばかりではありません。そういう人達が問題を起こして、両者の全面的な争いにならないようにする為です。
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