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第2章 これから始まる共同生活

二十日目① 異世界転移前日談 夢の中で 

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 久しぶりに夢を見た。
 こっちの世界に来てから、怒涛の日々?だったので、夢なんて見てなかったと思う。
 でも、今日に限って鮮明に覚えていた。
 夢の始まりは……俺が両親を失た高校2年生の夏の日だった。





 その日はいつもより妙に暑かった。
 セミの鳴き声がけたたましく鳴り響く。
 グラウンドには生徒や保護者の応援の声が木霊している。
 俺はサッカー部の一員として試合に参加していた。
 といっても、とりわけ上手いわけでもなく、スーパーサブ的な役割だったりする。
 必要ないときはベンチウォーマーってやつだ。
 まあ、ベンチに座れるだけましだろっていつも言われるけど、試合に出れないんじゃあまり変わらない気がしてならなかった。
 炎天下の中で行われた試合は一進一退の攻防となり、両校の応援に熱が入ってく。
 時間は14時を過ぎ、気温はすでに35℃を超える暑さ。
 いくらベンチに日影があろうが、照り付ける太陽の日差しと暑さに、会場中の人々が汗を流す。
 暑さに負けない気迫のこもったプレーで熱戦が続く。
 そして試合は両校譲らず、結果は引き分けとなった。
 悔し涙なんて物は一切なかった。
 どこか冷めた心は〝今回もか〟としか思えなかった。
 
「今日は残念だったな。練習試合とはいえ試合に出れなかったしな。」
「父さん、しかたないよ。あんな感じの試合だと俺が出る事なんてないって。」

 父さんも元サッカー部で、俺にいろいろと教えてくれている。
 蹴り方から走り方、攻め方守り方、手の上手な抜き方なんかも。
 自分の仕事も忙しいだろうに、練習にも付き合ってくれる自慢の父親だ。

「でもお父さん。海人を出せば少しは試合の流れが変わったんじゃないの?」
「そうはいってもな……あれだけ譲らずの試合だと下手に変えてバランス崩す恐れもあるからな。監督も迷ったんだと思うよ?そりゃ、海人が試合に出ているところは見たかったけど、終わったことは仕方がない。だったら次出られるように練習をするだけだ。な、海人。」

 そう言うと父さんは俺の頭をガシガシと撫でてくる。
 これがいつもの父さんの慰め方だ。
 俺が試合に出られないことを気に病んでいると思っているから。
 
 母さんは俺がサッカー部に入ったことで、サッカーに興味を持ち、今では日本代表の大ファンだ。
 時間があれば家族で応援に行ったり、もし行けなくてもテレビの前でユニホームを着て応援するほどだ。
 父さんも母さんも俺にとってはかけがえのない、よき理解者だ。

 俺たちサッカー部員はバスでの移動となっているので、会場前で両親と別れたのだった。



 それから約2時間後、無事俺たちは学校に到着した。
 到着したころにはみんなヘトヘトで、歩く足の重さと言ったらなかった。
 そして学校へ着くとお決まりとなっていた反省会を行い、解散となった。
 
 ただ、今日はやはりどこか違っていた。
 お決まりの反省会はいつもと違い議論が白熱していた。
 いつもなら10分くらいで終わるはずのところが、30分以上かかってしまった。
 それだけ今回は得るものが大きかったんだと思う(レギュラー陣としては)。
 サブの俺からすると、いつもと変わらない試合でしかなかった。
 監督もレギュラー陣も、いつもと変わらない動きしかしてなかったからだ。
 ぎりぎりまで引いて守って、ボールを取ったらカウンターを仕掛ける。
 縦に長いパスを蹴りだして、また大きく前に。
 最後はちょこちょこと走ってシュート。
 一点取ったらあとは亀の子戦法。
 引いて守って意地でもその一点を守るきる。
 そして取り返されたら俺の出番。
 取り返せなきゃ俺のせいにされるという、なんともスケープゴート感が半端ないスーパーサブ扱いだ。
 これをどう反省して次に生かせって言うんだといつも思う。
 白熱した理由だって、ディフェンスの動き出しが遅いとか、中盤が崩れたとか。
 むしろ、目くそ鼻くそを笑うって言葉を理解した方がいいんじゃないかとさえ思ってしまった。
 まぁ、試合に出れなかった俺はそれ以下だってことなんだけどね。

 そんな無駄に長い反省会を終え、両親と合流して自宅へと帰ることになった。
 父さんの運転で帰る途中、二人に今日の反省会について話すと落胆の声が漏れて聞こえた。
 父さんも一度監督へ話したことがある。
 攻めるサッカーを子供たちにやらせてみてはと。
 それからというもの、俺の試合出場機会はめっきり減ってしまった。
 最初は父さんに反発したけど、理由を聞いて納得してしまった。
 あぁ、このチームはダメなんだなって。

 それでもサッカーを続ける理由は、大学で大好きなサッカーを続けたいからだ。
 きっと大学では違ったサッカーができると信じて……

 他愛もない話をしながら帰宅していた。
 そして、そんなん他愛もない日常がいつまでも続くと、何の疑いもなく俺は思っていた。



 突如響き渡るクラクションとブレーキの音。
 いきなり襲い掛かってきた衝撃。
 鼻につくガソリンとオイルが混じったような匂い。
 薄れゆく意識の中で感じたのは、それが最後だった。



 気が付くと俺は見知らぬ部屋にいた。
 体は動かすことができない。
 かすかに聞こえる音は、ぴっぴっぴっという規則正しい音だけだった。
 ぼんやりとした頭で、何があったのか考えてみたが、全くわからなかった。
 ただ、このまま眠りたいと思っただけだった。

 そしてまた、俺の意識は遠のいていくのだった。
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