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第2章 これから始まる共同生活

二十七日目① 宣戦布告?

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 俺の部屋に朝日が差し込み目が覚めた。
 ゆっくりと起きあがると、誰かがいた痕跡があった。

 確かにエルダはここにいた。
 
 それを証明するかのように、そのわずかな温もりだけがそこに残されていた。

「お父さん……か……」

 つい漏れ出た言葉で考えさせたられた。
 はたしてエルダはここに居たいのだろうか……
 俺のそばにいたいのだろうか……
 本当はすぐにでも父親を捜しに行きたいのではと。

 そして、思うこと。
 俺はきっとエルダが〝好き〟なんだ。
 昨日の一件でそれを明確に認識した。

 攫われたと思った時の焦燥感と憤り。
 エルダの姿を見つけた時のあの強烈な安堵感。
 どれをとっても答えの行き着く先は〝好き〟という感情。

 だからこそ、エルダの自由を最大限に尊重したい。
 エルダがここにいる理由、それは俺の護衛とパーティーメンバー。
 ただそれだけだ。
 そう、ただの同居人だ。

 ……
 …………
 ………………

 よし決めた!!
 エルダにこの思いを伝えよう。
 そしてエルダの考えを教えてもらおう。

 ちゃんと話して、ちゃんと決めて……
 そしてちゃんと前に進もう!!



 意を決した俺は、リビングへと降りていった。

「おはようエルダ。」
「おはようカイト。」

 ……

 会話が続かない……
 その間にもエルダは朝食の準備を進めていた。
 俺も朝食の準備を手伝った。

 朝食中もお互いうまく会話できず、終始無言での食事となってしまった。

「あのさ、エルダ。大事な話が有るんだ。」
「どうしたの改まって?」

 良し言うぞ!!
 言うんだ!!

「エルダ……。実は俺、エル……」

ドンドンドン!!

「カイト君いる!?」

 あぁ~~~もう!!これからだってのに!!
 俺は食事を中断して、ノックの音がする入り口まで移動した。

ガチャ

「おはようございますキャサリンさん。どうしたんですか、こんな朝早くに。」
「ごめんなさい。至急の要件があって来たの。今時間良い?」

 血相を変えたキャサリンさんが突然やってきた。
 ここまで慌てたキャサリンさんを見たのは初めてだ。

「カイト、とりあえず中に入ってもらったら?」
「そうだな。キャサリンさん、話は中で聞かせてもらいますね。」
「お邪魔しますね。」

 エルダがお茶を準備する間に、俺たちはリビングのソファーに移動した。
 キッチンからエルダが戻り、お茶を一啜りしたキャサリンさんが事の次第を話し始めた。

「まず初めに伝えなくてはいけないことは、国王と宰相が魔人国に対して、宣戦布告をしようとしているわ。」
「は?ちょっと待って。じゃあ、あの噂本当だったんだ。エルダどう思う?」
「そうね……。本当にどうしようもない阿保としか言えないわね……」

 キャサリンさんは朝一番でシャバズのおっちゃんから聞いた情報らしい。
 俺はその情報に本気で耳を疑った。

①本日正午を持って魔人国に宣戦布告を行う。
②各ギルドへは戦時特別命令を施行。すべての国民は王国の配下とし、命令に従うこと。
③国王直轄部隊の命令は国王の命令と同意義のものとす。
④命令違反者は危険分子とし、国王直轄部隊の判断により拘束または殺傷するものとす。

 んな阿保な……
 これって完全に、戦争をダシにした独裁政権の確立じゃないか。
 何を考えているんだ?

「キャサリンさん……。これ、大真面目で言ってます?むしろ馬鹿なんですか?」
「残念ながら本気みたいよ?今のところ、ほぼすべての閣僚と騎士団・魔法師団各団長が止めに入っているけど、どうなることか……」

 ちょっとまて、それってつまり……

「カイト……まずいわね。これって完全に予定が崩れるわよ。ダンジョンが使えないんじゃどうにもできないもの。」
「それなんだよな……。ほんと、いらないことしかしないな、ここの国王。」

 エルダも同じことを考えたらしい。
 それにしても本当に困った。
 計画が丸つぶれになっちまうじゃないか……

「今のところ、各ギルドマスターが緊急会議を開いて対応に当たってるわ。各ギルド共にこの法案には反対の姿勢を貫く方針よ。ただ問題もあるの……」

 キャサリンさんの顔が暗くなっていく。
 むしろ、怒りっというより呆れが強くなってきている気がしてならない。
 本当に信用無いなこの国……

「議会の貴族院が賛成に回るそうよ。魔人国が手に入ればそれだけ領土が増えるし、ダンジョンの管理権限を奪い取れると本気で考えているみたいね。」
「え?本気でそんなこと考えてるの?」
「お偉方は本気みたいね。」

 さすがに頭が痛くなってきた……
 いったい誰がそんな夢物語を吹聴して回ったんだ?
 どう考えたって無理だろうに。
 さらに俺を無理やり召喚した挙句、俺の足引っ張るとか何考えてんだ?
 いや、考えてないからこうなるのか。

「で、俺たちにこの話をした本当の理由は何ですか?」
「わかる?」

 そりゃそうだ。
 でなきゃ、最近仲良くさせてもらってるとは言え、俺やエルダはただの冒険者だ。
 こんな政治的な話に加わるような存在じゃない。
 なら答えは簡単だ。
 何かをやらせようとしているってことだろう。

「簡単に言えば、早急に強くなってもらうわ。そして、王国よりも先に勇者を押さえる。あと、宣戦布告はこちらで圧力をかけて抑えるから。その間にね。」

 また無茶を言いなさる。
 ただ、それだとこちらにしかメリットがない……

「で、それだけじゃないでしょ?」
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