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黒鷲、燻る

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「はぁ…」



「シルヴィア様、今日はどうされますか?」

「ローザンヌ、今日は討伐隊にでも行くよ」


サムディの事件が合ってから中々気まずい時間を過ごしている。

とりあえず、身体を動かして気を紛らわしているがモヤモヤが晴れない。

女を取っかえ引っ変えしている、という事は噂で聞いていた。

だが、少しだけだ。
女性同士の噂話には、余り入った事が無かったからな。
実際、女性陣は自分もその取っかえ引っ変えの中にいつか入れるのでは無いかと目をギラギラさせていた者ばかりだった。

今のカミュを見ている限り、何だか嘘の様に感じてしまっていたので考えて来なかったのだ。

何で思い至らなかったのだろうか。
慣れているから軽々とそういう事が出来るのだという事に。


気乗らずに、今日も来客対応をする。
来客対応の際は一応実家から持って来た装飾の少ないが生地が良いドレスを着ている。
最初は恥ずかしかったが、カミュが迎えに来てくれた時に着ていた様な物なのでその内に慣れた。

カミュはいつも通りだ。

しかし、私が避けてしまったあの日から必要に近付いては来ない。
まぁ、私が後退ってしまっているからだろうが。

カミュに今日の予定を聞かれて、討伐隊へ行く事を伝えそそくさと部屋に戻る。


「シルヴィア様、お召し替えは如何致しましょう」

「そのまま訓練出来そうな物にする、着替えも同じ様なのを入れておいて」

「畏まりました」

ローザンヌは毎朝、可愛い服を何着か選んで持って来てくれているが私の意見を尊重してくれる。
此方に来てから余り着る事の無かった実家から持って来た服を着ている為に、気分も上がらない。
だが、私にはこれが一番なのだ。


「…シルヴィア様。烏滸がましい事は承知なのですが、カミーユ様に今のお気持ちを直接伝えてみるのはどうでしょう」

「今の気持ち?」

私が少し暗い顔をしたからだろうか、ローザンヌが今日は提案をして来た。


「はい。シルヴィア様のお心の内は私には分かりません…。
ですが、カミーユ様はシルヴィア様にはとても寛大なお方です。きっと受け入れて、理解してくれると思いますよ」

「それが出来たら良いのだが…、直接言い難い事案なんだ…」

「…左様でしたか。このローザンヌにも、それはお聞かせ願えない事でしょうか?」

「ローザンヌ…、ありがとう。もう少し考えが纏まったらお願いするかもしれない」

「畏まりました。お待ちしております」


ローザンヌの心遣いに心が少し温かくなると、扉を叩く音が聞こえる。

ローザンヌが確認をして、此方に戻ってくる。

「大奥様がシルヴィア様に会いに居らしてるそうです、どうなさいますか?」

「お義母様が?では、討伐隊へは今度にしよう。お招きしてくれ」

「畏まりました」




「シルヴィアちゃん、来ちゃった♪」

「いらっしゃいませ、お義母様。お出迎えも出来ず申し訳御座いません」

「良いのよ~、いつもこんな感じだから出迎えは気にしないでねっ。

今日はシルヴィアちゃんに着て欲しい物を持って来たの。
もう私ったら今、色々思い付いて止まらないのよ」

「そ、そうなのですね」

「カミーユから頼まれていた枚数分選んでね♪

皆様、お衣装をここへ」


お義母様が手を叩くと、客間が衣装部屋になった。

「ふふふ。さぁ、まずはどれにする?」


そう言うと目の前に衣装が何着か置かれた。


「お、お義母様……。もう少し、フリルやリボンの無いものをお願いします…」


「え?どうして?

あ、これならどう?シフォンの様な生地に薄いピンクのグラデーションがとても綺麗でしょう♪」

「これは…、可愛過ぎます」

「大丈夫、良いから着てみて♪」

「それは……」


私の顔が暗くなると、お義母様は小首を傾げている。

「シルヴィアちゃん、可愛いお洋服は嫌いじゃ無いのよね?」

「……大好きです」

「そうね…、ねぇシルヴィアちゃん。先に少しお茶にしない?」




好きな物を嫌いだ、とは言えなかった。

お義母様は私を席に座らせるとお茶の準備をさせた。

「お茶でも飲みましょう。ね?」

「…はい」

「この間は沢山着てくれたし、喜んでくれていた様に感じていたわ。

今日は余り乗り気では無いようね?」

「申し訳御座いません…」

「ふふ、謝らないで?私は少し、押しが強すぎるのよ。よく母に怒られたわ。

どうしてなのか、教えてくれるわね」


「…似合わないからです」

「似合わない?」

「はい。私には似合いません」

「カミーユは何と言っているの?」


「…カミュは似合わなくてもそう言ってはくれません」

「あら、あの子は似合わなかったらきっとそう言うわ」


「…ですが!カミュは女性にとても甘いのです…」


「えっ?」



実の親に言うべき事では無いかもしれないが、ボソリと本音を言ってしまった。
すると、お義母様は何故かとても驚いていた。

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