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私の事を『愛らしい』と言った?
「君の事を好きになる人間は幾らでもいる」
「え、え?」
どうやら、気の所為では無い様だ。
そして、この話しに続きが有るので更に困惑をする。
「…君には自覚が無いみたいだな。彼は君に多少也とも好意を抱いた」
「ババガント様が…?」
「そうだ。君は俺の婚約者なので早々覆る事は無いが、まだ婚約者だ。何とでも出来てしまう可能性が有る」
「そんなっ!」
嫌です!と叫び掛けてグッと留めたので喉が変な音がした。
こんなに素敵な方の婚約者になれたのに、もう知らない頃に戻る事は出来ない。
「…俺も出来ればずっと君に傍に居て欲しい。
もし、他に好きな人が出来たら教えてくれたら良い。正式に妻になったら…、多少遊んでくれても構わない。
さあ、君。ロレッタを無事に連れ帰ってくれ」
「え…」
ゴンッと鈍器で頭を打たれた様な強い衝撃が起きた。嬉しい言葉と同時に、こんなにも直ぐに奈落の底まで突き落とす言葉が有るとは。
だが馬車の有る門迄いつの間にやら着いてしまい、エル様は私を従者に任せようと従者と話しを始めた。
だが、私が余りにも驚いた顔をしていたからだろう。直ぐに振り返ったエル様と目が合い、彼も驚いた様な顔をした。
「ロレッタ!?すまない…、言い過ぎてしまったか?」
そう彼が優しく頬を拭うので、自分が泣いているのだと気付き、ショックからは立ち直れてはいないが一気に恥ずかしくなってしまう。
「い、いえっ!も、申し訳御座いません…っ。勝手に出てしまって、いるのです。
こ、れはっ…私が悪いので…、では、エル様のお帰りをお待ちしております」
笑えているだろうか。
言葉を詰まらせながらも何とか文書にして、必死に笑顔を作る。
そして、無理矢理塞き止めた涙がいつ決壊してもおかしくは無いので、失礼には値するがくるりと方向転換をして従者の方を促し馬車に乗り込む。
「ロレッタ!」
エル様の声が聞こえたが、問答無用で扉を閉めて引き込もる。
暫くすると、ゆっくりと馬車が動き出した。
「……う…ふっ………っ…」
動き出した安堵感で崩壊した涙腺が猛威を振るう。従者の方に聞かれて報告されてはいけないので、手で口を塞ぎ声を殺した。
只、悲しかった。
ババガント様の事は私が悪い。だが、妻になれば好きな人が出来ても、遊んでも構わないというのは何とも貴族らしい。
私の両親は、大の恋愛結婚だ。ずっと、仲の良い二人を見て育って来た。
自覚は無かったが、私も自然と両親の様に成りたいと願っていた様だ。
エル様が私に対して恋愛感情を持っていない事は知っているし、望まない。
故に愛されずとも、密かに愛そう。と思っていた。
それすらも突き放された気がして、胸がズキズキと痛む。
私がエル様を好きな事を、彼は知らないのに。
信じて貰えていないのだと、次々と溢れる黒い感情に支配されてしまう。
『好き』という気持ちがこれ程までに厄介な物だとは。
「…少しだけ…っ…、泣くのは、今日だけよ……」
自分に言い聞かせる様に、自らをギュッと抱き締める。
辛い時こそ笑わなければ。
そう、教えて頂いたのに。
今日だけは、今日だけは
許して下さい。
止まるか心配だったが、アンバート家に着く頃には何とか涙を止めて笑顔を作り、中へと入る事が出来た。
「只今戻りました」
挨拶をして、顔を上げるとお義母様とマグオット様が待って下さって居た。
「お帰りなさ~い、ロレッタちゃん♪エルは私のお手紙読んだかし、ら…?どうしたの、ロレッタちゃん。目が赤いわ?」
「お帰り、ロレッタちゃん。おや、本当だね」
「あ、えっと!目にゴミが入って、擦ってしまったので…それだと思います。エル様にはしっかりとお渡ししました!マグオット様はお休みですか?」
「そうだよ。ちょっとだけ次の仕事まで日にちが有ってね。相談事次いでに帰ってきたんだ」
「そうでしたか、お義母様もマグオット様もお出迎えありがとうございます。では、少し疲れてしまったので部屋に向かいますね」
指摘はされたが、気付かれなくて良かった。
二人はまだ何か話したそうだったが、余り長く話すとポロリと弱音を吐いてしまいそうで早々にお断りを入れて私は部屋に戻る事にした。
今日はもう何も考えずに、眠りに就きたい。
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