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第二十五話 仲間を守るため
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それからすぐに2年生代表同士の戦いが始まろうとしていた。
辺りを見渡せばラリア側の真っ赤な旗がなびき大歓声が上がっている。だから、ガリアの青い旗も応援する声も近くにいるというのに全然聞こえない。
そんな敵陣真っ只中というのに、ガリア側の入場口から一人、堂々と闘技場中央へと歩く姿が見える。
エミルだ。
「エミル、すごいな。こんなにも堂々と」
俺がそう言うと、エラルドは冷静な口調で口を開いていた。
「そうか、アラスは本当に知らないんだな。あの人のことを。エミル先輩はな、4大魔法使いのフォールド家の生まれだが、それだけじゃない。あの人は幼少の頃に既に教科書に載っているような魔法を覚えているんだ。つまりは天才中の天才ってわけだな」
「だから、エミルは一人で闘技場中央に向かっているというわけか」
「そう言うことだな。一人でも十分ってことだろう。っま! そんなエミル先輩でも家督は継いでいないらしいけどな。現当主は姉らしいんだ。とんでもねーぜ、全く」
エラルドはブルっと体を震わせると、嘆息していた。
エミルはかなりの天才だということは、もう既に魔法の稽古で知っている。なのにそれよりも、強い姉がいるらしい。俺は武者震いした。
そんなことを言っている間にエミルとラリアの4人パーティーは対峙していた。
辺りは魔法のイルミネーションでエミルのブーイングでいっぱいだった。
そんな中、エミルは後ろを向き、俺たちに手を振っていた。
「何をやってるんだ! あの人は!!」
俺はそんな無防備なエミルに向かっている魔法の数々を手で指さした。
やっと、気づいたのかエミルは前を向いてくれた。
だが、既に遅かった。様々な魔法が既にエミルのすぐそばまできていた。
氷はエミルを凍らせて、火はエミルを焼き尽くし、風はエミルを切り刻む。
そんな悪い想像しかできなかった。
できなかったが、エミルのそばまできたそれらの魔法は何らかの障害にぶつかったのか、全て消え去っていた。
「エラルド、今のは何なんだ!?」
「さあな。俺に聞くなって、わかるわけねーだろ」
エミルは何も詠唱していなかったはずだ。指を鳴らしてもいない。なのに魔法が発動していた。
意味が分からない。一体何が起こっているんだ。
俺と同じく敵も驚いているようで、何やら話し合っているようだ。
そんな好機にもかかわらず、エミルは後ろで手を組んだままそいつらを見ていた。
「さて! そろそろ敵も汚い手をつかうわよ」
いつの間にかアーニャ先生は横にいてそう言っていた。
「先生、いつの間に。というか、驚くのでやめてください」
「ふふっ。面白い反応ね。だけどね、今はそれどころじゃないわ。しっかりとあなた達にも起こりえる、相手の汚い手を見なさい」
アーニャ先生がそう言うので、俺たちは再び視線を下にそらす。
「いいかしら。上位魔法が効かない敵がいたとしたら、次に魔法を使うのは馬鹿よ。だから次は魔道具を使うはず」
横でアーニャ先生の綺麗で透き通る声が聞こえてきたと思えば、確かに中央に位置する男は黒く丸い魔道具を地面に投げつけていた。
「さて、これは汚いラリアのことだから、きっと強力なものでしょう」
俺はその言葉を聞きながら、邪悪な煙幕の中から何が出てくるのか目を凝らしてた。
すると、中から人の形に近い何かの輪郭が見えてくる。
「デーモン......」
「ユラちゃん、正解! そう、あれはデーモンね」
「デーモン!? アーニャっち、デーモンってどういうことだよ!? そんなのありかよ」
エラルドは驚いていた。そして、俺もその言葉を知っている。
デーモンはダンジョン30層より深くに潜ると、時より出てくる強力なエネミー。
そして、彼らはそれを使役しているのだ。
「エラルドくん。汚いとか綺麗とかそう言う話じゃないの。勝てばいいのよ。あなたもその実力を秘めている。私はそう思うわ」
「はぁ!? 意味が分からねーって! 流石にデーモンは無理だ! エミル先輩でも、そして俺たちでも!」
怒りで眉間に血管を浮き上がらせながら言うエラルドに、アーニャ先生は微笑していた。
「本当にそうかしら? 私はあなた達ならできるって思ったから許可を出した。そして、あの子なら大丈夫。私より強いから」
「そうだよ、エラルド。俺たちならできる」
「おいおい、アラス! お前最近どこかおかしいぞ!? デーモンだぞ、デーモン!! 交流とかそういう次元の話じゃもはやねえ。こんなの宣戦布告をしているようなもんだ」
エラルドは俺の肩をゆすっていた。それをユラは止めようと、エラルドの手を除ける。
「それは間違いないよ、エラルド。これは俺たちとガリアとラリアの戦争だ。そうでしょう、エミルのお姉さん」
するとアーニャは嘆息した。
「気づかれてしまったみたいね」
「おいおい、一体どういうことだ!?」
「馬鹿エラルドは本当に察しが悪い! 他人があの子なんて親し気に言うわけないじゃない」
「ユラちゃんの言う通り! 大正解です! 私はエミルの姉でフォールド家の現当主かつガリアの最高指導者アーニャ・フォールド。別名 エリス・フォールド」
拍手をしながら満面の笑みでそう言うエリス。
「いっみわかんねーよ!! アーニャっちが最高指導者で、エミルのお姉さんで。って...... 最高指導者?」
エラルドは頭を抱えながら、エリスを見ていた。
「そうよ、エラルドくん。そして、アラスくん。君はどこまで知っているのかな?」
「実のところ、何も知りません。ただ、アーニャ先生。いや、あなたが裏にいたことは『許可』という言葉で気づいた」
俺がそう言うとエリスは笑っていた。
「はは。私としたことが、ミスをしてしまったようだな」
わざとらしく頭を抱えたエリスは、指の隙間から俺をちらりと見ると、
「だが、まぁいいだろう。今知られたところで、リーフェ助ける。それは変わらないのだろう?」
「ああ、仲間は助ける」
「なら、ここでばれたところで私の都合も変わらない。だろう?」
そう言って闘技場中央を指さすエミル。
闘技場中央を見ると、エミルはやはりこちらに手を振っていた。その横には4人の死体が横たわっている。
「なぁ、アラス。君は私との約束を守ってはくれるよな」
「学年一のクラスにすることでしたか?」
そう言うとエリスは再び笑い出す。
「ああ、そう言えばそんなことも言ったか。だが、忘れていないか。『私の期待に応える生徒になれ』と」
「そんなの、どうとでもとれるし、約束じゃねーぞ、アーニャっち!」
俺が発言しようとしようとしたところエラルドは口をはさんだ。
「エラルド。君は何も分かっていない。それに私はエリスだ」
「そんなのどうでもいいだろ――」
「私が君の、貧しい両親に対して多額のお金を送った代わりに要求したことはなんだ。『一生懸命、これから入る人物を支え、私の手足となり働く』それが条件だったろう? 忘れたのか?」
「くっ!!」
エラルドは何か弱みを握らているのか、下唇を噛んでいた。
「期待に応えるとは、どういうことですか?」
「それはすぐにわかる。だから、約束は果たせ」
エリスはそう言うと、闘技場の控室に続く道を指さしていた。
俺は指さした方向へと歩きだす。
これからリーフェを助ける以上のことが待っているに違いない。
それはきっとラリアとガリアの対することになるだろう。
だって俺は行き過ぎた血統主義も実力主義も変えたいから。
幸いにも今の俺は一人じゃない。ユラやエラルド、そしてリーフェがいる。
ユラは俺の左側をエラルドは俺の右側を歩いてくれている。
そう、俺にはこんなにも力強い仲間がいるのだ。
そんなことを考えていると、闘技場中央へと続く通路の反対側から白銀の髪を揺らしながら微笑を浮かべる女が近づいていた。
「アラスくん、見てくれていたかな?」
「エミル。君は敵側なのか?」
予想外の質問だったのか、エミルはしばらく思考停止していた。
だが、気づいたのか、再び笑顔になると、
「ああ、私の姉のことかな? 今まで言わなかったことは謝るよ。だってエリスは怖いの。でも、敵とか味方とかよくわからないけど、なんとなくわかった気がするかな。お姉ちゃんは昔から、狂っているから」
そう言うと、俺の手を握る。
「だから私から言っておこう。アラスくんに狂ったことをするのはやめってって。だが、ああ見えても私の姉だ。あまり嫌わないで欲しい」
どうやらエミルは本当に分からないようだった。
エミルはそう言うと、俺たちに微笑んでいた。
そして俺たちはそんなエミルに何も言うことは出来なかった。
エミルの姉が生死をかけた試合の許可を出し、なにやら裏でコソコソとしているなんてことを言えるわけがない。
「どうしたのかな? まさか、未だに私のことを淫乱で狂乱な魔女なんてこと思っているんじゃないだろうね?」
その空気を察したのかエミルはそう言っていた。
「いや! 違うんです! その...... リーフェのことを考えると......」
機転の利くエラルドがいてよかった。本当にそう思った。
エラルドがそう言うと、エミルは納得してくれたのか、すんなりと俺たちを通してくれた。
「まったく、本当に意味が分からねーぜ。だけど、この先に真実があるんだよな」
「ああ、おそらく」
「かっー! 全身武者震いがするぜ! いや、ただ恐怖で震えているだけかもしれねー」
「私もです。死の匂いが充満しすぎていて、もうどうにかなりそうです」
「ユラ! それはお前の趣味だろうが!」
「違います、馬鹿エラルド! たしかに最高ですけど、死の恐怖が、知ってはいけない何かが待っている感じがして。これ以上先に進みたくないの」
ユラの言う通り、この通路の先にある太陽の光で見えない闘技場の中央に行けば、もう後戻りはできない。
死ぬかもしれない、知りたくない真実を知ってしまう恐怖、そしてもう戻ることができない選択が待っている気がして、足が震える。
だが、俺はいかなければならない。リーフェを救いに、俺自身の過去のために。
「二人とも、行こう」
「ああ!」
「うん!」
俺たちは闘技場中央へと出る通路の壁に寄りかかっているリーフェを加え、闘技場中央へと向かった。
辺りを見渡せばラリア側の真っ赤な旗がなびき大歓声が上がっている。だから、ガリアの青い旗も応援する声も近くにいるというのに全然聞こえない。
そんな敵陣真っ只中というのに、ガリア側の入場口から一人、堂々と闘技場中央へと歩く姿が見える。
エミルだ。
「エミル、すごいな。こんなにも堂々と」
俺がそう言うと、エラルドは冷静な口調で口を開いていた。
「そうか、アラスは本当に知らないんだな。あの人のことを。エミル先輩はな、4大魔法使いのフォールド家の生まれだが、それだけじゃない。あの人は幼少の頃に既に教科書に載っているような魔法を覚えているんだ。つまりは天才中の天才ってわけだな」
「だから、エミルは一人で闘技場中央に向かっているというわけか」
「そう言うことだな。一人でも十分ってことだろう。っま! そんなエミル先輩でも家督は継いでいないらしいけどな。現当主は姉らしいんだ。とんでもねーぜ、全く」
エラルドはブルっと体を震わせると、嘆息していた。
エミルはかなりの天才だということは、もう既に魔法の稽古で知っている。なのにそれよりも、強い姉がいるらしい。俺は武者震いした。
そんなことを言っている間にエミルとラリアの4人パーティーは対峙していた。
辺りは魔法のイルミネーションでエミルのブーイングでいっぱいだった。
そんな中、エミルは後ろを向き、俺たちに手を振っていた。
「何をやってるんだ! あの人は!!」
俺はそんな無防備なエミルに向かっている魔法の数々を手で指さした。
やっと、気づいたのかエミルは前を向いてくれた。
だが、既に遅かった。様々な魔法が既にエミルのすぐそばまできていた。
氷はエミルを凍らせて、火はエミルを焼き尽くし、風はエミルを切り刻む。
そんな悪い想像しかできなかった。
できなかったが、エミルのそばまできたそれらの魔法は何らかの障害にぶつかったのか、全て消え去っていた。
「エラルド、今のは何なんだ!?」
「さあな。俺に聞くなって、わかるわけねーだろ」
エミルは何も詠唱していなかったはずだ。指を鳴らしてもいない。なのに魔法が発動していた。
意味が分からない。一体何が起こっているんだ。
俺と同じく敵も驚いているようで、何やら話し合っているようだ。
そんな好機にもかかわらず、エミルは後ろで手を組んだままそいつらを見ていた。
「さて! そろそろ敵も汚い手をつかうわよ」
いつの間にかアーニャ先生は横にいてそう言っていた。
「先生、いつの間に。というか、驚くのでやめてください」
「ふふっ。面白い反応ね。だけどね、今はそれどころじゃないわ。しっかりとあなた達にも起こりえる、相手の汚い手を見なさい」
アーニャ先生がそう言うので、俺たちは再び視線を下にそらす。
「いいかしら。上位魔法が効かない敵がいたとしたら、次に魔法を使うのは馬鹿よ。だから次は魔道具を使うはず」
横でアーニャ先生の綺麗で透き通る声が聞こえてきたと思えば、確かに中央に位置する男は黒く丸い魔道具を地面に投げつけていた。
「さて、これは汚いラリアのことだから、きっと強力なものでしょう」
俺はその言葉を聞きながら、邪悪な煙幕の中から何が出てくるのか目を凝らしてた。
すると、中から人の形に近い何かの輪郭が見えてくる。
「デーモン......」
「ユラちゃん、正解! そう、あれはデーモンね」
「デーモン!? アーニャっち、デーモンってどういうことだよ!? そんなのありかよ」
エラルドは驚いていた。そして、俺もその言葉を知っている。
デーモンはダンジョン30層より深くに潜ると、時より出てくる強力なエネミー。
そして、彼らはそれを使役しているのだ。
「エラルドくん。汚いとか綺麗とかそう言う話じゃないの。勝てばいいのよ。あなたもその実力を秘めている。私はそう思うわ」
「はぁ!? 意味が分からねーって! 流石にデーモンは無理だ! エミル先輩でも、そして俺たちでも!」
怒りで眉間に血管を浮き上がらせながら言うエラルドに、アーニャ先生は微笑していた。
「本当にそうかしら? 私はあなた達ならできるって思ったから許可を出した。そして、あの子なら大丈夫。私より強いから」
「そうだよ、エラルド。俺たちならできる」
「おいおい、アラス! お前最近どこかおかしいぞ!? デーモンだぞ、デーモン!! 交流とかそういう次元の話じゃもはやねえ。こんなの宣戦布告をしているようなもんだ」
エラルドは俺の肩をゆすっていた。それをユラは止めようと、エラルドの手を除ける。
「それは間違いないよ、エラルド。これは俺たちとガリアとラリアの戦争だ。そうでしょう、エミルのお姉さん」
するとアーニャは嘆息した。
「気づかれてしまったみたいね」
「おいおい、一体どういうことだ!?」
「馬鹿エラルドは本当に察しが悪い! 他人があの子なんて親し気に言うわけないじゃない」
「ユラちゃんの言う通り! 大正解です! 私はエミルの姉でフォールド家の現当主かつガリアの最高指導者アーニャ・フォールド。別名 エリス・フォールド」
拍手をしながら満面の笑みでそう言うエリス。
「いっみわかんねーよ!! アーニャっちが最高指導者で、エミルのお姉さんで。って...... 最高指導者?」
エラルドは頭を抱えながら、エリスを見ていた。
「そうよ、エラルドくん。そして、アラスくん。君はどこまで知っているのかな?」
「実のところ、何も知りません。ただ、アーニャ先生。いや、あなたが裏にいたことは『許可』という言葉で気づいた」
俺がそう言うとエリスは笑っていた。
「はは。私としたことが、ミスをしてしまったようだな」
わざとらしく頭を抱えたエリスは、指の隙間から俺をちらりと見ると、
「だが、まぁいいだろう。今知られたところで、リーフェ助ける。それは変わらないのだろう?」
「ああ、仲間は助ける」
「なら、ここでばれたところで私の都合も変わらない。だろう?」
そう言って闘技場中央を指さすエミル。
闘技場中央を見ると、エミルはやはりこちらに手を振っていた。その横には4人の死体が横たわっている。
「なぁ、アラス。君は私との約束を守ってはくれるよな」
「学年一のクラスにすることでしたか?」
そう言うとエリスは再び笑い出す。
「ああ、そう言えばそんなことも言ったか。だが、忘れていないか。『私の期待に応える生徒になれ』と」
「そんなの、どうとでもとれるし、約束じゃねーぞ、アーニャっち!」
俺が発言しようとしようとしたところエラルドは口をはさんだ。
「エラルド。君は何も分かっていない。それに私はエリスだ」
「そんなのどうでもいいだろ――」
「私が君の、貧しい両親に対して多額のお金を送った代わりに要求したことはなんだ。『一生懸命、これから入る人物を支え、私の手足となり働く』それが条件だったろう? 忘れたのか?」
「くっ!!」
エラルドは何か弱みを握らているのか、下唇を噛んでいた。
「期待に応えるとは、どういうことですか?」
「それはすぐにわかる。だから、約束は果たせ」
エリスはそう言うと、闘技場の控室に続く道を指さしていた。
俺は指さした方向へと歩きだす。
これからリーフェを助ける以上のことが待っているに違いない。
それはきっとラリアとガリアの対することになるだろう。
だって俺は行き過ぎた血統主義も実力主義も変えたいから。
幸いにも今の俺は一人じゃない。ユラやエラルド、そしてリーフェがいる。
ユラは俺の左側をエラルドは俺の右側を歩いてくれている。
そう、俺にはこんなにも力強い仲間がいるのだ。
そんなことを考えていると、闘技場中央へと続く通路の反対側から白銀の髪を揺らしながら微笑を浮かべる女が近づいていた。
「アラスくん、見てくれていたかな?」
「エミル。君は敵側なのか?」
予想外の質問だったのか、エミルはしばらく思考停止していた。
だが、気づいたのか、再び笑顔になると、
「ああ、私の姉のことかな? 今まで言わなかったことは謝るよ。だってエリスは怖いの。でも、敵とか味方とかよくわからないけど、なんとなくわかった気がするかな。お姉ちゃんは昔から、狂っているから」
そう言うと、俺の手を握る。
「だから私から言っておこう。アラスくんに狂ったことをするのはやめってって。だが、ああ見えても私の姉だ。あまり嫌わないで欲しい」
どうやらエミルは本当に分からないようだった。
エミルはそう言うと、俺たちに微笑んでいた。
そして俺たちはそんなエミルに何も言うことは出来なかった。
エミルの姉が生死をかけた試合の許可を出し、なにやら裏でコソコソとしているなんてことを言えるわけがない。
「どうしたのかな? まさか、未だに私のことを淫乱で狂乱な魔女なんてこと思っているんじゃないだろうね?」
その空気を察したのかエミルはそう言っていた。
「いや! 違うんです! その...... リーフェのことを考えると......」
機転の利くエラルドがいてよかった。本当にそう思った。
エラルドがそう言うと、エミルは納得してくれたのか、すんなりと俺たちを通してくれた。
「まったく、本当に意味が分からねーぜ。だけど、この先に真実があるんだよな」
「ああ、おそらく」
「かっー! 全身武者震いがするぜ! いや、ただ恐怖で震えているだけかもしれねー」
「私もです。死の匂いが充満しすぎていて、もうどうにかなりそうです」
「ユラ! それはお前の趣味だろうが!」
「違います、馬鹿エラルド! たしかに最高ですけど、死の恐怖が、知ってはいけない何かが待っている感じがして。これ以上先に進みたくないの」
ユラの言う通り、この通路の先にある太陽の光で見えない闘技場の中央に行けば、もう後戻りはできない。
死ぬかもしれない、知りたくない真実を知ってしまう恐怖、そしてもう戻ることができない選択が待っている気がして、足が震える。
だが、俺はいかなければならない。リーフェを救いに、俺自身の過去のために。
「二人とも、行こう」
「ああ!」
「うん!」
俺たちは闘技場中央へと出る通路の壁に寄りかかっているリーフェを加え、闘技場中央へと向かった。
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