つれづれなるおやつ

蒼真まこ

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甘辛みたらしだんご

愛とは時に辛きものですか?

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 大切な聡美のために、三年間甘いみたらしだんごに耐えたが、ある晩ついに限界が来てしまった。

 その日の俺は残業でひどく疲れていた。よろめきながらアパートに到着すると、部屋に明かりがついていた。
 聡美が来ているんだとすぐにわかった。渡した合鍵で中に入り、俺の帰りを待っていてくれたのだろう。

「将也くん、お帰りなさい。お仕事お疲れ様」

 疲れ切った俺に笑顔で、「お帰りなさい」と言ってくれる。恋人という存在のありがたさに感謝しながら、聡美をそっと抱きしめる。彼女の温もりがたまらなく嬉しかった。

「お疲れの将也くんのために、みたらしだんごを買ってきたよ」

 みたらしだんごを得意気に見せる聡美。その気持ちは本当に嬉しい。だが今は……。

「一緒にみたらしだんごを食べたら、疲れもふっとぶよ」

 聡美はそうなのだろう。だから頻繁にみたらしだんごを買ってくるのだ。

「ごめん、聡美。みたらしだんご今はいいよ。悪いけど持って帰って」
「え? で、でも将也くんと一緒に食べたくて……」
「ありがとう。でも本当にいいんだ」
「せっかく買ってきたんだもの。ね、一緒に……」

 今日はいらないと言っているのに、聡美はなぜか引き下がらない。どうしても俺と一緒に好物のみたらしだんごを食べたいようだ。その強情さに、だんだんと苛ついてきてしまった。

「将也くん、一口だけでも……」
「いらないって言ってるだろ」
「でも……」

「欲しくない」とだけ伝えれば十分なのに、疲れ切って苛ついていた俺は、ついに言ってしまった。

「聡美が買ってくるみたらしだんごは甘くて苦手なんだよ。無理に食べさせんな!」

 三年もの間、我慢してきた思いが、とうとう口からこぼれ落ちてしまった。
 しまった、言い過ぎたと気づいたときには、聡美の目に涙がたまっていた。

「ごめん、聡美。俺は……」

 聡美の白い頬に、はらはらと涙が流れていく。

「将也くんのバカ……。もう知らない」

 吐き捨てるように呟くと、聡美は背を向け、アパートから飛び出ていってしまった。

「待ってくれ、聡美!」

 時刻はすでに真夜中。こんな時間に聡美をひとりで歩かせるなんて危険だ。
 慌てて聡美の後を追って、外に走っていく。

「聡美、どこだ?」

 周囲を見渡しながら、しばし走ると、近くのコンビニの駐車場に聡美は立っていた。

「ごめん、聡美。俺が悪かった!」

 彼女の傍へ走り寄ると、聡美の肩をそっと両手でつつみ込んだ。
 唇をかみしめた聡美はやや下を向き、何も答えようとしない。

「ここは冷えるし、俺のアパートに戻ろう。なっ?」

 どうにか彼女を落ち着かせたくて、俺の部屋へと誘う。
 聡美は無言のまま、こくりと頷いた。
 聡美の小柄な背中を支えながら、どうにかアパートへ連れ帰ることができた。

「本当にごめんな。俺のためにみたらしだんごを買ってくてくれたのに。今から一緒に食べよう」

 聡美をなんとかなだめたくて、今度は俺から彼女に、みたらしだんごを一緒に食べようと伝えてみた。

「将也くん……」

 聡美がようやく俺を呼んでくれたのが嬉しい。こくこくと頷きながら、彼女に返事をした。

「なんだい、聡美」

 聡美はゆっくりと顔をあげた。いつになく真剣な眼差しにどきりとした。

「将也くん、わたしが何にも気づいてないと思った?」
「え……?」
「将也くん、私が好きなみたらしだんご、本当は嫌いなんでしょう?」

 驚きの発言だった。
 まさか聡美が気づいていたなんて……。









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