つれづれなるおやつ

蒼真まこ

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甘辛みたらしだんご

愛とは甘きものですか

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「将也くん、みたらしだんご食べないの?」

 大好きなみたらしだんごを手土産に、聡美は俺のアパートにやってくる。
 甘いものが苦手な俺とはいえ、恋人の好きな菓子を否定するつもりは一切ない。美味しそうに食べている彼女の顔を見ているだけで俺も幸せな気持ちになれるし、可愛いからずっと見ていたいと思う。

「将也くん、一緒に食べようよ。ね?」

 聡美は俺と一緒にみたらしだんごを食べたいのだ。美味しさと感動を、恋人である俺と分かち合いたいのだろう。
 その思いはとても嬉しい。応えてあげたいと思うじゃないか、彼女を大切に思うならば。

「じゃ、じゃあ一本もらうね」
「どうぞ、どうぞ」

 あーんと口を開ける可愛らしい聡美を横目で見つめながら、俺もほぼ同時にみたらしだんごにかぶりつく。
 もっちりとした白い団子に、とろりとあまじょっぱい醤油系のあんがたっぷりと絡まっている。
 最初の一口目は、「ああ、美味いな」と思う。さすがは三代続いた名店だ。
 二口目をぱくり。口の中に砂糖の甘みがじわじわと拡がっていく。

 うう、甘い……。

 三口目と四口目は一気にいく。口の中に感じ始めた甘さに怯んでしまう前に、食べ切ってしまいたいのだ。

 うぁぁ、あまい。甘すぎる……。

 甘いものが苦手な俺にとっては、甘さ控えめなみたらしだんごであっても、一本食べ切るのはなかなかの苦行なのだ。とろみのついたあんが口の中にいつまでも残っている気がするし、二本目はとても食べる気がしない。

 あくまで俺個人の口の中の事情であって、聡美の好きなみたらしだんごを否定するつもりは全くない。
 たまになら一緒に食べてもいいと思う。
 だが聡美は俺のところに来るとき、みたらしだんごを手土産にすることが多い。
 毎回ではないとはいえ、聡美は週に一回以上は来るし、月で計算すれば毎月四本以上は甘い(俺にとっては)みたらしだんごを聡美と共に食べていることになる。
 これがだんだんと辛くなってきてしまったのだ。

 それでも三年近く、何も言わずに聡美と共にみたらしだんごを食べ続けた。彼女はとびっきりの笑顔で、俺は無言で。
 食べ終えた後は、作り笑いにならないように気をつけながら、聡美と笑顔で「おいしいね」と語り合う。
 彼女は本当に幸せそうに微笑むし、その笑顔を守ってあげたいと思う。
 だからこそ言えない。
 俺が好むみたらしだんごと聡美が好きなみたらしだんごは違うもので、俺には甘すぎるんだ……なんて言えるはずないじゃないか。

 聡美のことは変わらず好きだし、将来のことも考えているほど大切な存在だ。
 彼女のことを好きだと思えば思うほど、「聡美が好きなみたらしだんごは俺には甘すぎて苦手なんだ」とはとても伝えられないのだ。

 結婚を考えている相手ならば、正直に言うべきなのかもしれない。だが聡美は確実に傷つくことになる。

「そうだったの……。ごめんね、無理して食べさせて」
 
 優しい聡美のことだから、心底申し訳ないという顔をするだろう。聡美にそんな哀しい表情をさせたくない。
 ならば俺ひとりが黙っていればいいという結論となる。

 そんなわけで聡美への愛情とみたらしだんごとの間で葛藤し、ひとり悶々と悩む三年間となってしまった。



 

  
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