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甘辛みたらしだんご
愛するあなたと優しき時を
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「え、え? な、んで……」
聡美を傷つけないように、無理して甘いみたらしだんごを食べていたことを、いつのまにか彼女は知っていたのだ。
「なんで、って。そんなの気づくに決まってるじゃない。将也くん、無理して笑ってるけど、すごく嫌そうな顔でみたらしだんごを食べるんだもの。好きな人の変化を見過ごすわけないでしょ」
どうやらバレバレだったらしい。上手に隠していたつもりでいたのは俺だけだったのだ。
「おかしいなって思って調べたの。そうしたら、将也くんの出身地のみたらしだんごと、わたしが好きなみたらしだんごは少し違うみたいだって気づいてしまった。お醤油の味がしっかりついてるみたらしだんごなのよね?」
そうだったのか。とっくに知っていたのだ、聡美は。
「だから将也くんがいずれわたしに真実を話してくれるって思ってたの。なのにどれだけ待ってもあなたは私に何も話してくれないじゃない。わたしが買ってくるみたらしだんごを、必死に食べてる将也くんの姿を見てたら、ああ、この人とは無理なのかもって……」
「そんなことないっ!」
即答だった。そこだけは断じて受け入れるわけにはいかなかった。
「俺が黙ってたのは申し訳ないって思うけど。でもそれは聡美を悲しませたくなかったからなんだ。聡美は甘めのみたらしだんごが大好きなんだろ? いつも美味しそうに食べる聡美が可愛くてたまらなくて、ずっと見ていたかった。だけどそこで俺が『実は……』って話したら、聡美は悲しむだろ? だから言えなかった。それに聡美と一緒に甘めのみたらしだんごをずっと食べてたら、俺の味覚も変わるかもって期待もあったんだ。でも……」
そこで一度話を止め、俯いてしまった。
「でも俺の味覚は変わらなかった。聡美と同じように、甘めのみたらしだんごを好きになれたら良かったのに……」
変えられない自分も、聡美に何も言えなかった自分も嫌だった。
「そんなの、あたりまえじゃない」
「え……?」
聡美の返答は意外なものだった。
「将也くん、人の好みって簡単に変えられるものじゃないわよ。それは食べ物だって同じ。小さい時から好んで食べていたものを、さくっと嫌いになって新しいものを好きになるなんて器用なこと、なかなかできやしないわ。それより良いところを認め合って、互いの個性を受け入れるべきなんじゃないの?」
聡美の言う通りだった。
俺は聡美のためと言いながらも、事実を告げることから逃げていただけなのだ。
「正直言うとね。わたし、この三年間で将也くんのこと何度もあきらめようって思った。わたしの大好きなみたらしだんごを無理して食べる人とは一緒にいられないもの。でもあなたは甘党の人のことを一度も否定したことはなかったし、わたしのこともすごく大切にしてくれた。本当は苦手なのに、わたしのために甘めのみたらしだんごを必死に食べるのは、わたしを思えばこそだものね。将也くんは不器用だけど、すごく優しい人なんだって思ったら、どうしても嫌いになれなかった……」
聡美の頬が、ほんのり赤く染まっていく。
「いつまでも真実を話してくれない将也くんのこと、さっさと嫌いになって、別の人を好きになればよかった?」
聡美は唇をとがらせ、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
その仕草がたまらなく可愛くて、気づけば彼女を抱きよせていた。
「ごめんな、聡美。俺たち、もっと話しあうべきだよな。お互いの好きなものを、育ってきた時間を。君とまっすぐに向き合うことができなかった臆病者の俺を許してほしい」
「将也くん……」
抱き寄せた聡美の顔を両手でそっとつつみこむ。
「俺も聡美が大好きだ。三年前も今も、聡美のことが可愛くてたまらないんだ。甘党の聡美と辛党の俺。全然違う二人だけど、良かったらこれからも一緒に生きてほしい」
「それは、プロポーズなの? プロポーズなら、もうちょっとかっこよく決めてほしかったな。サプライズとか」
サプライズなんて何も考えてなかった。
たしかにプロポーズなら、もう少しロマンチックにするべきだったかも。
「えーっと。善処させていただきます。プロポーズの言葉は次回また改めて」
「いいわよ。もう一度聞いちゃったもの。将也ってば、本当に不器用なんだから。でもそんなところが可愛くて好きなんだけど、ね」
聡美が幸せそうに微笑んだ。
意気地なしで不器用な俺だけど、聡美だけはどうしても失いたくなかったんだ。
「聡美様、不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
体を寄せ合い、共に笑った。
「将也、あなたが好きなみたらしだんご、今度食べさせてね。どんな味が気になるの」
「いいよ。連れてってあげる。俺が育った街にさ。紹介したい人や場所がたくさんあるんだ」
「わぁ、楽しみ。わたしね、甘いものも大好きだけど、実は辛いものも好きだったりするのよ。甘辛両党派なんだから!」
清楚な見た目で弱々しく感じる聡美だったけれど、本当は俺よりずっと我慢強くて、心の広い女性なのかもしれない。そんな彼女に、生涯頭が上がらない気がするのは俺だけだろうか。
でもそんな人生も、案外悪くないのかもしれないと思うのだった。
了
聡美を傷つけないように、無理して甘いみたらしだんごを食べていたことを、いつのまにか彼女は知っていたのだ。
「なんで、って。そんなの気づくに決まってるじゃない。将也くん、無理して笑ってるけど、すごく嫌そうな顔でみたらしだんごを食べるんだもの。好きな人の変化を見過ごすわけないでしょ」
どうやらバレバレだったらしい。上手に隠していたつもりでいたのは俺だけだったのだ。
「おかしいなって思って調べたの。そうしたら、将也くんの出身地のみたらしだんごと、わたしが好きなみたらしだんごは少し違うみたいだって気づいてしまった。お醤油の味がしっかりついてるみたらしだんごなのよね?」
そうだったのか。とっくに知っていたのだ、聡美は。
「だから将也くんがいずれわたしに真実を話してくれるって思ってたの。なのにどれだけ待ってもあなたは私に何も話してくれないじゃない。わたしが買ってくるみたらしだんごを、必死に食べてる将也くんの姿を見てたら、ああ、この人とは無理なのかもって……」
「そんなことないっ!」
即答だった。そこだけは断じて受け入れるわけにはいかなかった。
「俺が黙ってたのは申し訳ないって思うけど。でもそれは聡美を悲しませたくなかったからなんだ。聡美は甘めのみたらしだんごが大好きなんだろ? いつも美味しそうに食べる聡美が可愛くてたまらなくて、ずっと見ていたかった。だけどそこで俺が『実は……』って話したら、聡美は悲しむだろ? だから言えなかった。それに聡美と一緒に甘めのみたらしだんごをずっと食べてたら、俺の味覚も変わるかもって期待もあったんだ。でも……」
そこで一度話を止め、俯いてしまった。
「でも俺の味覚は変わらなかった。聡美と同じように、甘めのみたらしだんごを好きになれたら良かったのに……」
変えられない自分も、聡美に何も言えなかった自分も嫌だった。
「そんなの、あたりまえじゃない」
「え……?」
聡美の返答は意外なものだった。
「将也くん、人の好みって簡単に変えられるものじゃないわよ。それは食べ物だって同じ。小さい時から好んで食べていたものを、さくっと嫌いになって新しいものを好きになるなんて器用なこと、なかなかできやしないわ。それより良いところを認め合って、互いの個性を受け入れるべきなんじゃないの?」
聡美の言う通りだった。
俺は聡美のためと言いながらも、事実を告げることから逃げていただけなのだ。
「正直言うとね。わたし、この三年間で将也くんのこと何度もあきらめようって思った。わたしの大好きなみたらしだんごを無理して食べる人とは一緒にいられないもの。でもあなたは甘党の人のことを一度も否定したことはなかったし、わたしのこともすごく大切にしてくれた。本当は苦手なのに、わたしのために甘めのみたらしだんごを必死に食べるのは、わたしを思えばこそだものね。将也くんは不器用だけど、すごく優しい人なんだって思ったら、どうしても嫌いになれなかった……」
聡美の頬が、ほんのり赤く染まっていく。
「いつまでも真実を話してくれない将也くんのこと、さっさと嫌いになって、別の人を好きになればよかった?」
聡美は唇をとがらせ、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
その仕草がたまらなく可愛くて、気づけば彼女を抱きよせていた。
「ごめんな、聡美。俺たち、もっと話しあうべきだよな。お互いの好きなものを、育ってきた時間を。君とまっすぐに向き合うことができなかった臆病者の俺を許してほしい」
「将也くん……」
抱き寄せた聡美の顔を両手でそっとつつみこむ。
「俺も聡美が大好きだ。三年前も今も、聡美のことが可愛くてたまらないんだ。甘党の聡美と辛党の俺。全然違う二人だけど、良かったらこれからも一緒に生きてほしい」
「それは、プロポーズなの? プロポーズなら、もうちょっとかっこよく決めてほしかったな。サプライズとか」
サプライズなんて何も考えてなかった。
たしかにプロポーズなら、もう少しロマンチックにするべきだったかも。
「えーっと。善処させていただきます。プロポーズの言葉は次回また改めて」
「いいわよ。もう一度聞いちゃったもの。将也ってば、本当に不器用なんだから。でもそんなところが可愛くて好きなんだけど、ね」
聡美が幸せそうに微笑んだ。
意気地なしで不器用な俺だけど、聡美だけはどうしても失いたくなかったんだ。
「聡美様、不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
体を寄せ合い、共に笑った。
「将也、あなたが好きなみたらしだんご、今度食べさせてね。どんな味が気になるの」
「いいよ。連れてってあげる。俺が育った街にさ。紹介したい人や場所がたくさんあるんだ」
「わぁ、楽しみ。わたしね、甘いものも大好きだけど、実は辛いものも好きだったりするのよ。甘辛両党派なんだから!」
清楚な見た目で弱々しく感じる聡美だったけれど、本当は俺よりずっと我慢強くて、心の広い女性なのかもしれない。そんな彼女に、生涯頭が上がらない気がするのは俺だけだろうか。
でもそんな人生も、案外悪くないのかもしれないと思うのだった。
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みんなの感想(7件)
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最後のお話は甘々でしたね。みたらしだんごは私も砂糖醤油しか体験していませんが、ほっこりしました。
お読みいただきありがとうございます。
最後は少しいそぎ足の連載となりましたが、良い経験になりましたので、また書いてみたいと思います。感想ありがとうございました!
最後に兄妹再会がかなってめでたしめでたしになり、ほっとしました。
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