24 / 24
甘辛みたらしだんご
愛するあなたと優しき時を
しおりを挟む
「え、え? な、んで……」
聡美を傷つけないように、無理して甘いみたらしだんごを食べていたことを、いつのまにか彼女は知っていたのだ。
「なんで、って。そんなの気づくに決まってるじゃない。将也くん、無理して笑ってるけど、すごく嫌そうな顔でみたらしだんごを食べるんだもの。好きな人の変化を見過ごすわけないでしょ」
どうやらバレバレだったらしい。上手に隠していたつもりでいたのは俺だけだったのだ。
「おかしいなって思って調べたの。そうしたら、将也くんの出身地のみたらしだんごと、わたしが好きなみたらしだんごは少し違うみたいだって気づいてしまった。お醤油の味がしっかりついてるみたらしだんごなのよね?」
そうだったのか。とっくに知っていたのだ、聡美は。
「だから将也くんがいずれわたしに真実を話してくれるって思ってたの。なのにどれだけ待ってもあなたは私に何も話してくれないじゃない。わたしが買ってくるみたらしだんごを、必死に食べてる将也くんの姿を見てたら、ああ、この人とは無理なのかもって……」
「そんなことないっ!」
即答だった。そこだけは断じて受け入れるわけにはいかなかった。
「俺が黙ってたのは申し訳ないって思うけど。でもそれは聡美を悲しませたくなかったからなんだ。聡美は甘めのみたらしだんごが大好きなんだろ? いつも美味しそうに食べる聡美が可愛くてたまらなくて、ずっと見ていたかった。だけどそこで俺が『実は……』って話したら、聡美は悲しむだろ? だから言えなかった。それに聡美と一緒に甘めのみたらしだんごをずっと食べてたら、俺の味覚も変わるかもって期待もあったんだ。でも……」
そこで一度話を止め、俯いてしまった。
「でも俺の味覚は変わらなかった。聡美と同じように、甘めのみたらしだんごを好きになれたら良かったのに……」
変えられない自分も、聡美に何も言えなかった自分も嫌だった。
「そんなの、あたりまえじゃない」
「え……?」
聡美の返答は意外なものだった。
「将也くん、人の好みって簡単に変えられるものじゃないわよ。それは食べ物だって同じ。小さい時から好んで食べていたものを、さくっと嫌いになって新しいものを好きになるなんて器用なこと、なかなかできやしないわ。それより良いところを認め合って、互いの個性を受け入れるべきなんじゃないの?」
聡美の言う通りだった。
俺は聡美のためと言いながらも、事実を告げることから逃げていただけなのだ。
「正直言うとね。わたし、この三年間で将也くんのこと何度もあきらめようって思った。わたしの大好きなみたらしだんごを無理して食べる人とは一緒にいられないもの。でもあなたは甘党の人のことを一度も否定したことはなかったし、わたしのこともすごく大切にしてくれた。本当は苦手なのに、わたしのために甘めのみたらしだんごを必死に食べるのは、わたしを思えばこそだものね。将也くんは不器用だけど、すごく優しい人なんだって思ったら、どうしても嫌いになれなかった……」
聡美の頬が、ほんのり赤く染まっていく。
「いつまでも真実を話してくれない将也くんのこと、さっさと嫌いになって、別の人を好きになればよかった?」
聡美は唇をとがらせ、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
その仕草がたまらなく可愛くて、気づけば彼女を抱きよせていた。
「ごめんな、聡美。俺たち、もっと話しあうべきだよな。お互いの好きなものを、育ってきた時間を。君とまっすぐに向き合うことができなかった臆病者の俺を許してほしい」
「将也くん……」
抱き寄せた聡美の顔を両手でそっとつつみこむ。
「俺も聡美が大好きだ。三年前も今も、聡美のことが可愛くてたまらないんだ。甘党の聡美と辛党の俺。全然違う二人だけど、良かったらこれからも一緒に生きてほしい」
「それは、プロポーズなの? プロポーズなら、もうちょっとかっこよく決めてほしかったな。サプライズとか」
サプライズなんて何も考えてなかった。
たしかにプロポーズなら、もう少しロマンチックにするべきだったかも。
「えーっと。善処させていただきます。プロポーズの言葉は次回また改めて」
「いいわよ。もう一度聞いちゃったもの。将也ってば、本当に不器用なんだから。でもそんなところが可愛くて好きなんだけど、ね」
聡美が幸せそうに微笑んだ。
意気地なしで不器用な俺だけど、聡美だけはどうしても失いたくなかったんだ。
「聡美様、不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
体を寄せ合い、共に笑った。
「将也、あなたが好きなみたらしだんご、今度食べさせてね。どんな味が気になるの」
「いいよ。連れてってあげる。俺が育った街にさ。紹介したい人や場所がたくさんあるんだ」
「わぁ、楽しみ。わたしね、甘いものも大好きだけど、実は辛いものも好きだったりするのよ。甘辛両党派なんだから!」
清楚な見た目で弱々しく感じる聡美だったけれど、本当は俺よりずっと我慢強くて、心の広い女性なのかもしれない。そんな彼女に、生涯頭が上がらない気がするのは俺だけだろうか。
でもそんな人生も、案外悪くないのかもしれないと思うのだった。
了
聡美を傷つけないように、無理して甘いみたらしだんごを食べていたことを、いつのまにか彼女は知っていたのだ。
「なんで、って。そんなの気づくに決まってるじゃない。将也くん、無理して笑ってるけど、すごく嫌そうな顔でみたらしだんごを食べるんだもの。好きな人の変化を見過ごすわけないでしょ」
どうやらバレバレだったらしい。上手に隠していたつもりでいたのは俺だけだったのだ。
「おかしいなって思って調べたの。そうしたら、将也くんの出身地のみたらしだんごと、わたしが好きなみたらしだんごは少し違うみたいだって気づいてしまった。お醤油の味がしっかりついてるみたらしだんごなのよね?」
そうだったのか。とっくに知っていたのだ、聡美は。
「だから将也くんがいずれわたしに真実を話してくれるって思ってたの。なのにどれだけ待ってもあなたは私に何も話してくれないじゃない。わたしが買ってくるみたらしだんごを、必死に食べてる将也くんの姿を見てたら、ああ、この人とは無理なのかもって……」
「そんなことないっ!」
即答だった。そこだけは断じて受け入れるわけにはいかなかった。
「俺が黙ってたのは申し訳ないって思うけど。でもそれは聡美を悲しませたくなかったからなんだ。聡美は甘めのみたらしだんごが大好きなんだろ? いつも美味しそうに食べる聡美が可愛くてたまらなくて、ずっと見ていたかった。だけどそこで俺が『実は……』って話したら、聡美は悲しむだろ? だから言えなかった。それに聡美と一緒に甘めのみたらしだんごをずっと食べてたら、俺の味覚も変わるかもって期待もあったんだ。でも……」
そこで一度話を止め、俯いてしまった。
「でも俺の味覚は変わらなかった。聡美と同じように、甘めのみたらしだんごを好きになれたら良かったのに……」
変えられない自分も、聡美に何も言えなかった自分も嫌だった。
「そんなの、あたりまえじゃない」
「え……?」
聡美の返答は意外なものだった。
「将也くん、人の好みって簡単に変えられるものじゃないわよ。それは食べ物だって同じ。小さい時から好んで食べていたものを、さくっと嫌いになって新しいものを好きになるなんて器用なこと、なかなかできやしないわ。それより良いところを認め合って、互いの個性を受け入れるべきなんじゃないの?」
聡美の言う通りだった。
俺は聡美のためと言いながらも、事実を告げることから逃げていただけなのだ。
「正直言うとね。わたし、この三年間で将也くんのこと何度もあきらめようって思った。わたしの大好きなみたらしだんごを無理して食べる人とは一緒にいられないもの。でもあなたは甘党の人のことを一度も否定したことはなかったし、わたしのこともすごく大切にしてくれた。本当は苦手なのに、わたしのために甘めのみたらしだんごを必死に食べるのは、わたしを思えばこそだものね。将也くんは不器用だけど、すごく優しい人なんだって思ったら、どうしても嫌いになれなかった……」
聡美の頬が、ほんのり赤く染まっていく。
「いつまでも真実を話してくれない将也くんのこと、さっさと嫌いになって、別の人を好きになればよかった?」
聡美は唇をとがらせ、ぷいっとそっぽを向いてしまった。
その仕草がたまらなく可愛くて、気づけば彼女を抱きよせていた。
「ごめんな、聡美。俺たち、もっと話しあうべきだよな。お互いの好きなものを、育ってきた時間を。君とまっすぐに向き合うことができなかった臆病者の俺を許してほしい」
「将也くん……」
抱き寄せた聡美の顔を両手でそっとつつみこむ。
「俺も聡美が大好きだ。三年前も今も、聡美のことが可愛くてたまらないんだ。甘党の聡美と辛党の俺。全然違う二人だけど、良かったらこれからも一緒に生きてほしい」
「それは、プロポーズなの? プロポーズなら、もうちょっとかっこよく決めてほしかったな。サプライズとか」
サプライズなんて何も考えてなかった。
たしかにプロポーズなら、もう少しロマンチックにするべきだったかも。
「えーっと。善処させていただきます。プロポーズの言葉は次回また改めて」
「いいわよ。もう一度聞いちゃったもの。将也ってば、本当に不器用なんだから。でもそんなところが可愛くて好きなんだけど、ね」
聡美が幸せそうに微笑んだ。
意気地なしで不器用な俺だけど、聡美だけはどうしても失いたくなかったんだ。
「聡美様、不束者ですが、どうぞよろしくお願い致します」
「こちらこそよろしくお願いしますわ」
体を寄せ合い、共に笑った。
「将也、あなたが好きなみたらしだんご、今度食べさせてね。どんな味が気になるの」
「いいよ。連れてってあげる。俺が育った街にさ。紹介したい人や場所がたくさんあるんだ」
「わぁ、楽しみ。わたしね、甘いものも大好きだけど、実は辛いものも好きだったりするのよ。甘辛両党派なんだから!」
清楚な見た目で弱々しく感じる聡美だったけれど、本当は俺よりずっと我慢強くて、心の広い女性なのかもしれない。そんな彼女に、生涯頭が上がらない気がするのは俺だけだろうか。
でもそんな人生も、案外悪くないのかもしれないと思うのだった。
了
0
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(7件)
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
最後のお話は甘々でしたね。みたらしだんごは私も砂糖醤油しか体験していませんが、ほっこりしました。
お読みいただきありがとうございます。
最後は少しいそぎ足の連載となりましたが、良い経験になりましたので、また書いてみたいと思います。感想ありがとうございました!
最後に兄妹再会がかなってめでたしめでたしになり、ほっとしました。
お読みいただきありがとうございます!
悲しい過去はありましたが、思い出のソフトクリームで絆を取り戻し、生きる希望を抱いていく物語にしたいなと思いました。感想ありがとうございました。
子の耳目が及ぶ場所で夫婦喧嘩をするのもろくでなしですが、子に八つ当たりするとあっては救いようがないですね。
両親の話は胸糞悪いエピソードですみません。兄と妹の絆を描いていきたいと思います。