ろくろな嫁~あやかし系上司が妻になります~

蒼真まこ

文字の大きさ
29 / 52
第三章

あなたを守りたい③

しおりを挟む
「美冬さん……」

 美冬の言葉に、抑えていた欲情が再び刺激される。草太は目を瞑った。

(ダメだ、もう。抑えられない)

 草太は美冬の肩を掴むと、そのまま強引に抱き寄せた。美冬の髪の香りが草太の火照りを呼び覚ます。

「私、草太くんが好き。大好き。だからお願い」

 美冬はそれ以上言葉を発せず、代わりに顔を少し上げ、そっと目を瞑った。 それが合図だった。草太もまた美冬が愛しくてたまらなかった。美冬の背中に手を回し、少しだけ体を上に傾けさせると、もう片方の手で美冬の頬に触れる。なめらかで暖かな肌だった。

「美冬さん、キスしますね」

 美冬は目を瞑ったまま、小さく頷いた。草太はゆっくりを顔を近づけていく。桃色の唇にふれようとした、その瞬間。

「や、やっぱり、無理っ!」

 その言葉と同時に、美冬の首がしゅるしゅると伸びていく。

「美冬さん!?」

 草太の腕の中に美冬の顔はなかった。長くて白い首だけが残っている。伸びた首の先に美冬の顔があり、草太を見下ろしていた。

「ごめんね、やっぱり無理かもぉ。草太くん、素敵すぎるもの」

 素敵と言われて嬉しかった。しかし直前でおあずけをくらった草太の気持ちはどうなるのか。美冬にキスしたいという気持ちはもう抑えられないというのに。白くてなめらかな首は、うねうねとうねり、草太の火照りをさらに刺激する。

「美冬さん、顔を下ろしてくれないと、ここにキスしますよ?」

 草太は美冬の首に、そっとキスをした。想像以上に柔らかな首だった。

「きゃうぅ!?」

 美冬の小さな悲鳴が頭上から聞こえた。その声がまた可愛らしい。草太はもう一度、首にキスをした。

「んっ、やぁ。くすぐったいわ」

 悶える美冬が、たまらなく可愛い。どうやら美冬の首はかなり敏感らしい。わずかにある草太の嗜虐性が刺激される。

「顔を下ろしてくれないと、首にもっとキスしますよ?」

 草太は顔をあげ、美冬に向かってにやりと笑った。抱いている美冬の体が、さらに熱を増すのを感じる。草太はもう一度、美冬の首にキスをしようと顔を近づけていく。

「わ、わかったわ。首を元に戻す。だからもう止めて。首は弱いの」
「わかりました」

 しゅるしゅると首は戻っていき、美冬は元の美しい姿になった。

「草太くんがこんなにも意地悪だなんて、知らなかったわ」
「一応、僕も男ですからね。好きな子はちょっとだけ意地悪したいんですよ」

 草太はわざと意地悪そうに笑った。美冬の顔が真っ赤に染まる。

「今度こそキスしますよ? 首じゃなくて唇に」

 美冬がこくんと頷いた。その様子を確認した草太は、「今度こそ」と思いながら、ゆっくりと顔を近づけていく。柔らかな唇にそっとキスをした。軽く触れただけの、おままごとのようなキスだったが、二人にとってはそれで十分だった。
 草太は強く、美冬を抱き締めた。美冬も草太の背中に手を回し、草太の抱擁を受け入れる。もう一度キスをした。今度はもう少しだけ、長く。月光が流れる雲によって遮られ、二人の姿を優しく隠してくれる。静かに目を開けると、美冬の美しい顔が寄り添っていた。二人はそのまま笑った。じゃれ合うようなファーストキスだった。それでもたまらなく幸せだった。

「美冬さん、好きです。あなたを大切にします」
「私もよ。あなたが好き」

 草太と美冬。二人の新しい関係は、ここから始まるのだ。



 「美冬さん、今度こそ家まで送っていきます」
「もう少し一緒にいたいわ」
「ダメです。これ以上一緒にいたら、美冬さんのこと頭から食べちゃいますよ。ガリガリって」
「やだ、怖い」

 狼の真似事をする草太に、ふふふと楽しそうに笑う美冬だが、半分は本当のことだった。

(これ以上一緒にいたら、自分を抑えられる自信ないよ。美冬さん、マジで可愛すぎるもん)

 草太の精一杯の自制心だった。美冬を大切にすると誓った以上、いきなり襲いたくはない。キスしようとしただけで、首が伸びてろくろ首状態になってしまった美冬だ。さらに関係を進展させようとしたら、首が戻らなくなってしまうかもしれない。想像以上に美冬は怖がりで、世間知らずな一面がある。だからこそ焦らずゆっくり関係を深めていきたい。

(本当は今夜一緒に過ごしたいところだけどね)

 なにより気がかりなのは美冬の父、宗次郎だ。交際の許可が出てないのに、いきなり一晩を共に過ごしてしまったら。娘を溺愛する宗次郎がどうでてくるのか、想像するだけで恐ろしい。

(でも美冬さんと共に生きていくつもりなら、社長ともうまく付き合っていけるようにならないと)

 社長であり美冬の父である宗次郎が、最初の難関だろう。なんとか交際を許してもらわなくては、美冬との関係は進められない。

(今までの僕なら、社長みたいなタイプは真っ先に避けてただろうな)

 末っ子で甘ったれ気質のある草太にとって、宗次郎は天敵のような存在だ。それでも立ち向かっていこうとする理由は、ひとつしかない。草太は自分の傍らに立つ美冬を見た。草太の横で、満ち足りた顔で微笑んでいる。

(この人を守りたい。美冬さんには笑顔でいてほしい)

 そのためには、どんな難関でも頑張って突破してやる。
 草太は彼なりに覚悟を決めていた。それは草太の男としての意地でもあった。

「草太くん、大好き」

 美冬が体を寄せてきた。体を沿わせるようにぴったりと。豊かな胸が草太の脇に当たり、彼女のスタイルの良さが伝わってくる。抑え込んだ草太の欲望が容赦なく刺激される。

「つ……美冬さん、ダメですよ。帰りますよ」
「わかってる。でもあと少しだけ」

 美冬はさらに体を密着させてくる。美冬の香水の香りが、草太の鼻孔をくすぐる。この行為が男をどれだけ刺激する行為か、世間知らずな美冬はわかっていないのだ。

(僕、どこまで我慢できるかなぁ?)

 覚悟を決めたはずの草太だったが、無邪気な美冬に翻弄されるところは変わらないのであった。
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

椿の国の後宮のはなし

犬噛 クロ
キャラ文芸
架空の国の後宮物語。 若き皇帝と、彼に囚われた娘の話です。 有力政治家の娘・羽村 雪樹(はねむら せつじゅ)は「男子」だと性別を間違われたまま、自国の皇帝・蓮と固い絆で結ばれていた。 しかしとうとう少女であることを気づかれてしまった雪樹は、蓮に乱暴された挙句、後宮に幽閉されてしまう。 幼なじみとして慕っていた青年からの裏切りに、雪樹は混乱し、蓮に憎しみを抱き、そして……? あまり暗くなり過ぎない後宮物語。 雪樹と蓮、ふたりの関係がどう変化していくのか見守っていただければ嬉しいです。 ※2017年完結作品をタイトルとカテゴリを変更+全面改稿しております。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

おにぎり屋さんの裏稼業 〜お祓い請け賜わります〜

瀬崎由美
キャラ文芸
高校2年生の八神美琴は、幼い頃に両親を亡くしてからは祖母の真知子と、親戚のツバキと一緒に暮らしている。 大学通りにある屋敷の片隅で営んでいるオニギリ屋さん『おにひめ』は、気まぐれの営業ながらも学生達に人気のお店だ。でも、真知子の本業は人ならざるものを対処するお祓い屋。霊やあやかしにまつわる相談に訪れて来る人が後を絶たない。 そんなある日、祓いの仕事から戻って来た真知子が家の中で倒れてしまう。加齢による力の限界を感じた祖母から、美琴は祓いの力の継承を受ける。と、美琴はこれまで視えなかったモノが視えるようになり……。 ★第8回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

処理中です...