男装呪封師と鬼の皇帝〜秘された少女は後宮で開花する〜

蒼真まこ

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第二章 星と天御門家

兄との別れ

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 優さえいてくれれば、何があろうと生きていける。
 星のささやかな夢と希望は、おそろしい鬼の襲撃によって壊されてしまう。

 天御門家の本宅が、突如おぞましい鬼に襲われたのである。
 突然の襲撃に、優と星兄妹の父である天御門家当主はなす術なく殺されてしまった。当主と共に戦った天御門家の者たちも次々と鬼によって殺されていく。

 次代当主である優は必死に応戦したが、次々と死んでいく仲間を救うことさえできなかった。凶悪な鬼の前では防御するのが精一杯だったのだ。激しい攻防戦の末に、いったん鬼は退いたが、まだ近くにいると優は気配から理解していた。

「兄様!」
「星? どうしてここへ」

 傷だらけの優の体にすがりついてきたのは、隠されて生きてきた優の双子の妹、星だった。

「優が危ないって空の星々が教えてくれたの。私が優を守る!」
「無理だよ、星。敵は恐ろしい鬼なんだから戦えるわけない」
「じゃあ私が鬼を封印する。天御門家は呪封師じゅふうしの一族なのでしょう? 鬼だって封印できるはずだわ」

 優から教わったのは陰陽師としての占星術や式神を使う簡単な封印術で、天御門家の呪封師の技を星は教わっていなかった。

「いいかい、星。呪封師というのは、そんなに簡単なものではないんだ。命がけで行う危険な封印術なんだ。可愛い妹にそんなことさせたくない」

 父から呪封師について学んでいた優は、封印術がどれほど危険なものかよく理解している。とりわけ双子の女児である星が呪封師になれば、過酷な運命が待っていることも。

「私だって天御門家の人間だもの。呪封師になれるはずよ。優と一緒に呪封師として生きていきたいの」
「星、おまえにはこれ以上辛い思いをさせたくないんだよ」

 隠されて生きてきた星は親の愛というものを知らない。星にとって家族は優だけなのだ。兄と共に生きられるのなら、どんなに危険なことでも引き受ける覚悟だった。

「だめだ、星。危ないっ!」

 強い風にあおられたと思った瞬間。妹に覆いかぶさるように、優が星を抱きしめた。

「くぅぅ……」

優が苦しそうに顔をゆがめ、ごぼりと吐血とけつした。鬼が投げた金棒が、星の体を貫いたのだ。鬼が妹を狙っていると気づき、優は咄嗟に星を守ったのだ。

「優っ!!」

 たったひとりの兄を助けるために、掟を破って別宅の館を飛び出してきたのに、逆に優に守られてしまうだなんて。自分の浅はかな行動を悔いたが、どれだけ嘆いても優の出血は止まらない。

「優、しっかりして!」

 かくりと倒れてしまった兄をどうにか助け起こそうとしたが、優の体からは血がとめどなくあふれてくる。動かせばさらに出血してしまうだろう。

「ああ、どうしたら……」

 優を助けたいのに、その方法がわからない。涙だけ流れてくる。泣いたってどうにもならないのに、涙をこぼすことしかできない自分が情けなかった。

「星、僕はもうダメだ。君だけでも生きてくれ……」
「いやよ。優が、兄様がいなくなったら私は生きていけない」
「星は強い子だ。兄様はよく知ってる。さぁ、手をだして……」

 言われるまま優に手を差し出すと、優は妹の白い手をぎゅっと握りしめた。

「封印術天の印・解」

 優の手から星へと、兄の知識と呪封師としての力が星の中へと流れこんでくる。自分の命が長くないことを悟った優は、妹にすべての力と知識を託すことにしたのだ。

「僕の力を星にあげる。天御門家と僕の力が、星を守っていけるはずだから。呪封師としての力は僕より星のほうがずっと上なんだ。僕の祓い術と星の封印術とで僕たち兄妹は最強の呪封師になれるはずだったんだよ。でも僕はもう一緒にいてあげられない、から……」

「いやよ。私と優のふたりで庸国へ行こうって。私には優しかいないの」
「僕はもういけない。僕は空の星となって、母様と一緒に君をまもり……」

 星の手を握っていた優の手が、力なくすべり落ちていく。地に落ちた手と、優の体はピクリとも動かなくなった。

「優? ねぇ、返事をして。ねぇってば」

 どれだけ体をゆすってみても、兄は微動だにしない。口元に顔を寄せてみたが、吐息も途切れている。息をしない体が何を意味するのか、世間知らずな星でも理解できてしまう。
 ただひとり、自分を愛してくれた双子の兄は天に召されてしまったのだと。

「いやよ……。いや~~っっ!!」

 たったひとり生き残ってしまった星。
 星の半身とたったひとりの家族を失った悲しみと絶望が、星の体を支配していく。

 激しい慟哭どうこくと共に、自分の力が一気に解放されていくのを感じる。それは危険なことだと星はうっすら気づいたが、もはや止めることさえできなかった。



 
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