19 / 42
第三章 初めての戦いと二人の秘密
突然の抱擁?
しおりを挟む
「おそれながらお聞きしますが、陛下が即位されて後宮に行かれるようになったのは、いつ頃のこと、でしゅか?」
「一年前に俺が皇帝に即位してからだ。俺の前に皇帝に即位していた兄が二年で崩御されてな。皇帝が崩御すると、後宮の妃も総入れ替えとなるのが常なのだが、それには金がかかる。国費を抑えるために、その次に皇帝となった俺がそのまま後宮も受け継ぐこととなった」
「ということは、元々は兄君のための後宮だったのですね」
「そうだ。兄の在位が二年だったとはいえ、まだ若い妃たちを出家させたり、実家に帰すのも申し訳ないと思ったのだ」
後宮の妃たちへの気遣いと、国費を節約するために兄の後宮を雷烈がそのまま受け継いだ。その判断が正しいものかどうかは星にはよくわからなかったが、後宮の妃たちはどう思ったのだろう。妃として仕える夫が兄から弟に代わってしまい、戸惑う者も多かったのではないだろうか?
(陛下を憎み、呪いをかけている存在は後宮の妃の誰かだろうか? でも栄貴妃や琳淑妃は今の陛下を心から慕っている様子だった。となると妃ではないものが呪いをかけている?)
呪いがかけられている限り、呪いのケモノは雷烈を狙ってくるはずだ。呪いを完全に無力化するには、呪いをかけたものを見つけだして、その呪いを止めさせなくてはいけない。
「後宮の中の者を調べる必要がありそうだな」
星の考えを見透かしたように、雷烈がさらりと言った。雷烈も後宮にいる者がもっとも怪しいと判断したようだ。
「以前も伝えたが、後宮は男子禁制の場所だ。星が女であることを隠し通すつもりなら、ひとりでは入れぬから気をつけよ。必ず俺と共に行くのだ」
星が先走りして、ひとりで後宮を調査しようとすると思ったのだろう。雷烈がくぎを刺すように告げた。
(なぜ陛下には私の思うことを見透かされてしまうのだろう?)
不思議に思っていると、雷烈が軽く微笑んだ。
「星はとても素直な人間のようだ。素直さは人間の美徳だが、思っていることが表情に出すぎるのはここでは危険だ。もう少し抑えるように」
「は、はい。気をつけ、ます」
隠されて育った星は、自分の感情を制御する方法を知らない。術者としての力と知識は兄の優から受け継いでいるが、感情の抑え方までは兄から教わっていなかった。
「素直な人間は俺にとって貴重だから、星にはあまり変わってほしくないところだがな」
雷烈が汗ばんだのまま寝台に腰を下ろした。
余裕の笑みを浮かべている雷烈であったが、体中からとめどなく汗が流れている。鬼の力を封印する際にかなりの痛みがあったはずだから、耐えるために大量に汗をかいていたのだ。
「すみません、気づかなくて。着替え、お手伝いしましょう、か?」
「気持ちだけ受け取っておこう。庸国の衣に慣れてないそなたには難しいだろうからな」
「そ、そうですね」
雷烈はふらつきながら立ち上がると、着ていた袍を無造作にはぎ取った。鍛え上げた雷烈の半裸身があらわとなり、汗をかいていることで、なまめかしいほどに艶めいていた。
「着替え、着替えと。ん? 星、どうしたのだ。顔が真っ赤になっているが」
「だ、だって。陛下、は、裸に……」
皇子だった頃から多くの宮女や宦官に世話をされていた雷烈と違い、星は人の裸身を見たことがない。兄の優が自分と違う体であることは知識として知っていたが、その体を見たことは一度もないのだ。
「星、ひょっとして男の体を見たことがないのか?」
「な、ないです。すみません、失礼いたし、ましゅ!」
雷烈が男であることはもちろんわかっていたが、これまで意識したことは一度もなかった。皇帝という尊い存在、という認識でしかない。それなのにいきなりたくましい裸の体を見せつけられ、星はすっかり混乱してしまった。
寝所を飛び出ていくつもりが、封印術に全力を使った星の体は思った以上に疲弊していた。駆け出した瞬間、つるりと足を滑らせてしまった。
「きゃっ」
後ろにひっくり返る形となり、頭をぶつけると思った星は頭を抱えるようにして身を縮めた。
ところがいつまで経っても、頭に痛みを感じられない。それどころか大きな何かに体を支えられていた。
「星、大丈夫か?」
気づけば星は、上半身が裸となった雷烈に抱かれていた。転ぶ寸前の星を、雷烈が咄嗟に守ってくれたのだ。
「はい、だいじょうぶ……って、えええっ!?」
裸の雷烈の体が、自分に密着している。そのうえ、雷烈の美しい顔が星をじっと見つめている。心配してくれているのはわかるが、あまりに至近距離だった。汗ばんだ雷烈の体から強烈な男の色香を感じ、星は目まいがしそうだ。
「どうした、星。気分が悪いのか?」
「ら、らいしょうぶです。どうかお放しくだ、しゃい」
星はすっかり狼狽していた。顔も体も、湯気がでそうなほど熱くなっているのを感じる。どうにか手を離してもらいたいのに、なぜか雷烈は星をがっしりと抱いたままだ。やがて雷烈は星を見つめながら微笑んだ。
「男の姿をしているから、女であることを捨てているかと思ったが、可愛らしい反応をするものだ」
「か、かわいい……?」
一度も言われたことがない言葉だった。恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだ。
「どれ」
悪戯心がわいたのか、雷烈は星の顎をくいっともちあげた。
「よく見れば、顔立ちもなかなか愛らしい。男の姿も悪くはないが」
星という少女に興味を抱いたのか、雷烈は星を離してくれそうもない。
封印術で疲れたところに、皇帝からの突然の抱擁。転びそうになった星を救うためとわかっていても、もはや何も考えられなかった。
「星? どうした、星よ」
皇帝陛下の呼びかけを聞きながら、星はかくりと気を失ってしまった。
「一年前に俺が皇帝に即位してからだ。俺の前に皇帝に即位していた兄が二年で崩御されてな。皇帝が崩御すると、後宮の妃も総入れ替えとなるのが常なのだが、それには金がかかる。国費を抑えるために、その次に皇帝となった俺がそのまま後宮も受け継ぐこととなった」
「ということは、元々は兄君のための後宮だったのですね」
「そうだ。兄の在位が二年だったとはいえ、まだ若い妃たちを出家させたり、実家に帰すのも申し訳ないと思ったのだ」
後宮の妃たちへの気遣いと、国費を節約するために兄の後宮を雷烈がそのまま受け継いだ。その判断が正しいものかどうかは星にはよくわからなかったが、後宮の妃たちはどう思ったのだろう。妃として仕える夫が兄から弟に代わってしまい、戸惑う者も多かったのではないだろうか?
(陛下を憎み、呪いをかけている存在は後宮の妃の誰かだろうか? でも栄貴妃や琳淑妃は今の陛下を心から慕っている様子だった。となると妃ではないものが呪いをかけている?)
呪いがかけられている限り、呪いのケモノは雷烈を狙ってくるはずだ。呪いを完全に無力化するには、呪いをかけたものを見つけだして、その呪いを止めさせなくてはいけない。
「後宮の中の者を調べる必要がありそうだな」
星の考えを見透かしたように、雷烈がさらりと言った。雷烈も後宮にいる者がもっとも怪しいと判断したようだ。
「以前も伝えたが、後宮は男子禁制の場所だ。星が女であることを隠し通すつもりなら、ひとりでは入れぬから気をつけよ。必ず俺と共に行くのだ」
星が先走りして、ひとりで後宮を調査しようとすると思ったのだろう。雷烈がくぎを刺すように告げた。
(なぜ陛下には私の思うことを見透かされてしまうのだろう?)
不思議に思っていると、雷烈が軽く微笑んだ。
「星はとても素直な人間のようだ。素直さは人間の美徳だが、思っていることが表情に出すぎるのはここでは危険だ。もう少し抑えるように」
「は、はい。気をつけ、ます」
隠されて育った星は、自分の感情を制御する方法を知らない。術者としての力と知識は兄の優から受け継いでいるが、感情の抑え方までは兄から教わっていなかった。
「素直な人間は俺にとって貴重だから、星にはあまり変わってほしくないところだがな」
雷烈が汗ばんだのまま寝台に腰を下ろした。
余裕の笑みを浮かべている雷烈であったが、体中からとめどなく汗が流れている。鬼の力を封印する際にかなりの痛みがあったはずだから、耐えるために大量に汗をかいていたのだ。
「すみません、気づかなくて。着替え、お手伝いしましょう、か?」
「気持ちだけ受け取っておこう。庸国の衣に慣れてないそなたには難しいだろうからな」
「そ、そうですね」
雷烈はふらつきながら立ち上がると、着ていた袍を無造作にはぎ取った。鍛え上げた雷烈の半裸身があらわとなり、汗をかいていることで、なまめかしいほどに艶めいていた。
「着替え、着替えと。ん? 星、どうしたのだ。顔が真っ赤になっているが」
「だ、だって。陛下、は、裸に……」
皇子だった頃から多くの宮女や宦官に世話をされていた雷烈と違い、星は人の裸身を見たことがない。兄の優が自分と違う体であることは知識として知っていたが、その体を見たことは一度もないのだ。
「星、ひょっとして男の体を見たことがないのか?」
「な、ないです。すみません、失礼いたし、ましゅ!」
雷烈が男であることはもちろんわかっていたが、これまで意識したことは一度もなかった。皇帝という尊い存在、という認識でしかない。それなのにいきなりたくましい裸の体を見せつけられ、星はすっかり混乱してしまった。
寝所を飛び出ていくつもりが、封印術に全力を使った星の体は思った以上に疲弊していた。駆け出した瞬間、つるりと足を滑らせてしまった。
「きゃっ」
後ろにひっくり返る形となり、頭をぶつけると思った星は頭を抱えるようにして身を縮めた。
ところがいつまで経っても、頭に痛みを感じられない。それどころか大きな何かに体を支えられていた。
「星、大丈夫か?」
気づけば星は、上半身が裸となった雷烈に抱かれていた。転ぶ寸前の星を、雷烈が咄嗟に守ってくれたのだ。
「はい、だいじょうぶ……って、えええっ!?」
裸の雷烈の体が、自分に密着している。そのうえ、雷烈の美しい顔が星をじっと見つめている。心配してくれているのはわかるが、あまりに至近距離だった。汗ばんだ雷烈の体から強烈な男の色香を感じ、星は目まいがしそうだ。
「どうした、星。気分が悪いのか?」
「ら、らいしょうぶです。どうかお放しくだ、しゃい」
星はすっかり狼狽していた。顔も体も、湯気がでそうなほど熱くなっているのを感じる。どうにか手を離してもらいたいのに、なぜか雷烈は星をがっしりと抱いたままだ。やがて雷烈は星を見つめながら微笑んだ。
「男の姿をしているから、女であることを捨てているかと思ったが、可愛らしい反応をするものだ」
「か、かわいい……?」
一度も言われたことがない言葉だった。恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだ。
「どれ」
悪戯心がわいたのか、雷烈は星の顎をくいっともちあげた。
「よく見れば、顔立ちもなかなか愛らしい。男の姿も悪くはないが」
星という少女に興味を抱いたのか、雷烈は星を離してくれそうもない。
封印術で疲れたところに、皇帝からの突然の抱擁。転びそうになった星を救うためとわかっていても、もはや何も考えられなかった。
「星? どうした、星よ」
皇帝陛下の呼びかけを聞きながら、星はかくりと気を失ってしまった。
3
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる