男装呪封師と鬼の皇帝〜秘された少女は後宮で開花する〜

蒼真まこ

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第三章 初めての戦いと二人の秘密

突然の抱擁?

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「おそれながらお聞きしますが、陛下が即位されて後宮に行かれるようになったのは、いつ頃のこと、でしゅか?」

「一年前に俺が皇帝に即位してからだ。俺の前に皇帝に即位していた兄が二年で崩御されてな。皇帝が崩御すると、後宮の妃も総入れ替えとなるのが常なのだが、それには金がかかる。国費を抑えるために、その次に皇帝となった俺がそのまま後宮も受け継ぐこととなった」
「ということは、元々は兄君のための後宮だったのですね」
「そうだ。兄の在位が二年だったとはいえ、まだ若い妃たちを出家させたり、実家に帰すのも申し訳ないと思ったのだ」

 後宮の妃たちへの気遣いと、国費を節約するために兄の後宮を雷烈がそのまま受け継いだ。その判断が正しいものかどうかは星にはよくわからなかったが、後宮の妃たちはどう思ったのだろう。妃として仕える夫が兄から弟に代わってしまい、戸惑う者も多かったのではないだろうか?

(陛下を憎み、呪いをかけている存在は後宮の妃の誰かだろうか? でも栄貴妃や琳淑妃は今の陛下を心から慕っている様子だった。となると妃ではないものが呪いをかけている?)

 呪いがかけられている限り、呪いのケモノは雷烈を狙ってくるはずだ。呪いを完全に無力化するには、呪いをかけたものを見つけだして、その呪いを止めさせなくてはいけない。

「後宮の中の者を調べる必要がありそうだな」

 星の考えを見透かしたように、雷烈がさらりと言った。雷烈も後宮にいる者がもっとも怪しいと判断したようだ。

「以前も伝えたが、後宮は男子禁制の場所だ。星が女であることを隠し通すつもりなら、ひとりでは入れぬから気をつけよ。必ず俺と共に行くのだ」

 星が先走りして、ひとりで後宮を調査しようとすると思ったのだろう。雷烈がくぎを刺すように告げた。

(なぜ陛下には私の思うことを見透かされてしまうのだろう?)

 不思議に思っていると、雷烈が軽く微笑んだ。

「星はとても素直な人間のようだ。素直さは人間の美徳だが、思っていることが表情に出すぎるのはここでは危険だ。もう少し抑えるように」
「は、はい。気をつけ、ます」

 隠されて育った星は、自分の感情を制御する方法を知らない。術者としての力と知識は兄の優から受け継いでいるが、感情の抑え方までは兄から教わっていなかった。

「素直な人間は俺にとって貴重だから、星にはあまり変わってほしくないところだがな」

 雷烈が汗ばんだのまま寝台に腰を下ろした。
 余裕の笑みを浮かべている雷烈であったが、体中からとめどなく汗が流れている。鬼の力を封印する際にかなりの痛みがあったはずだから、耐えるために大量に汗をかいていたのだ。

「すみません、気づかなくて。着替え、お手伝いしましょう、か?」
「気持ちだけ受け取っておこう。庸国の衣に慣れてないそなたには難しいだろうからな」
「そ、そうですね」

 雷烈はふらつきながら立ち上がると、着ていたほうを無造作にはぎ取った。鍛え上げた雷烈の半裸身があらわとなり、汗をかいていることで、なまめかしいほどに艶めいていた。

「着替え、着替えと。ん? 星、どうしたのだ。顔が真っ赤になっているが」
「だ、だって。陛下、は、裸に……」

 皇子だった頃から多くの宮女や宦官に世話をされていた雷烈と違い、星は人の裸身を見たことがない。兄の優が自分と違う体であることは知識として知っていたが、その体を見たことは一度もないのだ。

「星、ひょっとして男の体を見たことがないのか?」
「な、ないです。すみません、失礼いたし、ましゅ!」

 雷烈が男であることはもちろんわかっていたが、これまで意識したことは一度もなかった。皇帝という尊い存在、という認識でしかない。それなのにいきなりたくましい裸の体を見せつけられ、星はすっかり混乱してしまった。

 寝所を飛び出ていくつもりが、封印術に全力を使った星の体は思った以上に疲弊していた。駆け出した瞬間、つるりと足を滑らせてしまった。

「きゃっ」

 後ろにひっくり返る形となり、頭をぶつけると思った星は頭を抱えるようにして身を縮めた。
 ところがいつまで経っても、頭に痛みを感じられない。それどころか大きな何かに体を支えられていた。

「星、大丈夫か?」

 気づけば星は、上半身が裸となった雷烈に抱かれていた。転ぶ寸前の星を、雷烈が咄嗟に守ってくれたのだ。

「はい、だいじょうぶ……って、えええっ!?」

 裸の雷烈の体が、自分に密着している。そのうえ、雷烈の美しい顔が星をじっと見つめている。心配してくれているのはわかるが、あまりに至近距離だった。汗ばんだ雷烈の体から強烈な男の色香を感じ、星は目まいがしそうだ。

「どうした、星。気分が悪いのか?」
「ら、らいしょうぶです。どうかお放しくだ、しゃい」

 星はすっかり狼狽していた。顔も体も、湯気がでそうなほど熱くなっているのを感じる。どうにか手を離してもらいたいのに、なぜか雷烈は星をがっしりと抱いたままだ。やがて雷烈は星を見つめながら微笑んだ。

「男の姿をしているから、女であることを捨てているかと思ったが、可愛らしい反応をするものだ」
「か、かわいい……?」

 一度も言われたことがない言葉だった。恥ずかしさで頭がおかしくなりそうだ。

「どれ」

 悪戯心がわいたのか、雷烈は星の顎をくいっともちあげた。

「よく見れば、顔立ちもなかなか愛らしい。男の姿も悪くはないが」

 星という少女に興味を抱いたのか、雷烈は星を離してくれそうもない。
 封印術で疲れたところに、皇帝からの突然の抱擁。転びそうになった星を救うためとわかっていても、もはや何も考えられなかった。

「星? どうした、星よ」

 皇帝陛下の呼びかけを聞きながら、星はかくりと気を失ってしまった。



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