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第三章 初めての戦いと二人の秘密
二人の過去
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気を失っていた星が目を覚ますと、なぜだか皇帝陛下の寝台に寝かされていた。慌てて体を起こそうとすると、雷烈が制して止めた。
「そのままそこで寝ていろ。俺が朝議に出ている間、星はずっと意識を失っていたのだぞ」
ということは、雷烈が朝議に出ている間、星は皇帝の寝台で寝ていたことになる。立場を考えればとんでもないことだった。
「封印術を使って疲れていたのに、からかってしまって悪かったな。星が意識を失ったのは俺のせいだ」
半裸身となった雷烈に抱かれたいた自分を思い出し、再び顔が熱くなる。
真っ赤になった星を見て、雷烈は微笑みながら言った。
「兄がいたのなら、幼い頃に兄の裸くらい見たことあるだろう?」
「兄とは共に暮らしていませんでした、から」
「兄妹なのにか? 何やら事情がありそうだな。おまえが辛そうだったから、あえて聞かなかったが、そろそろ話してもらえないだろうか」
過去のことを話すつもりはなかったが、雷烈に女であることを知られているし、今後のためにも事情を説明しておくのは良いことかもしれないと思った。
「私は兄とは別の場所で育てられました。双子の女児は不吉だといわれて」
生まれてからのことを、そして庸国に来るまでの事情を、星はぽつりぽつりと話し始めた。要所だけ話すつもりだったが、雷烈が頷きながらしっかりと話を聞いてくれるので、いつしかすべてのことを夢中で伝えてしまったいた。
(ひょっとして私は、誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない)
隠されて生きてきた星にとって、家族といえるのは優だけだった。友だちは書物であったが、知識は与えてくれても、話を聞いてくれることはない。呪封師の修行で忙しかった優にあれこれ聞かせるわけにもいかず、星は心の内にあふれる思いや孤独を誰にも話せなかった。
「双子の兄の敵を討つためにたったひとりで庸国に来たのか。ずいぶんと辛い思いをしてきたのだな……」
雷烈の優しい言葉は、凍てついた星の心を癒してくれる気がした。
「辛い思いをしてきたが、それでも星は頑張って生きてきた。だからこそここにいる。星の封印術のおかげで俺は鬼の血を受け継ぎながらも、皇帝としてやっていけそうだ。ありがとう、礼を言う」
よもやお礼を言われるとは思わなかった。封印術への感謝の言葉であることはわかっていたが、星の過去を全て受け入れたうえで、「生きていてくれてありがとう」と伝えてくれている気がした。
(ありがとう、って言われたの、初めてだわ。不思議な響き)
初めて聞く感謝の言葉に、復讐とは違う、別の希望が心の奥底に芽生え始めるのを感じる。体の内側が、ほんのり温かくなるように思えた。
「星にばかり過去の話をさせるのは対等ではないからな。俺のことも話してやろう」
今度は自分の番とでも言うように、雷烈は自分の過去を話し始めた。
「俺には兄や姉がいた。母の身分は下級の妃だったから、兄たちからは、ずいぶんと虐められたものだ。まぁ、おとなしくやられる俺ではないがな」
いたずらっ子のような表情をした雷烈は、楽しそうに話を続ける。
「兄に桶で水をかけられれば、お返しに泥水を丁寧に作ってぶっかけてやった。俺を落とすための落とし穴を作っているのを見つけたら、逆にそこに兄を蹴り落としてやったな。猫の死骸を宮殿の前に置かれたら、抱きかかえて兄のところへ行き、『共に埋葬いたしましょう!』と叫んで地の果てまで追いかけてやったわ。最終的には兄が泣いて詫びてくることもあったぞ」
虐められていたというより、虐め返す日々だ。末っ子の弟にそれほど反撃されたら、兄の面目は丸潰れだったことだろう。
「兄や姉からは嫌われていたが、俺は兄たちが嫌いではなかったよ。兄の誰かが皇帝となったら、オレは僻地に土地だけもらって、のんびり生きていこうと思っていた。兄の邪魔になりたくなかったからな。だが……」
雷烈の表情から、すっと笑みが消えた。
「即位したばかりの兄は二年で崩御してしまった。他国に嫁いだ姉も、事故で亡くなったと聞いた。不幸の連鎖のようだったよ。父は息子たちの悲報に嘆き悲しみ、病で倒れてしまった。亡くなる寸前、最後の息子となった俺に、『庸国と民を守る良き皇帝となれ』と言い遺して天に召された」
おそらく雷烈は皇帝になるつもりはなかったのだ。様々な事情が重なり、皇帝に即位することとなってしまった。
「家臣どもが裏で俺をなんと噂しているか、知っているか?」
星は静かに首を横に振る。
雷烈は天を仰ぎ、ささやくように告げた。
「帝位に就くために、兄や父を殺した極悪非道な鬼皇帝だとさ。オレは企んだことはないし、そんな証拠もないがな。噂の出どころはどこだか知らんが、いちいち否定して回るのも面倒なので放置してる」
前皇帝であった兄が若くして亡くなり、弟の皇子が皇帝となった。好き勝手に噂話を楽しむには、ちょうどよい設定だったのだろう。
「ひどいです……。陛下はなりたくて皇帝になられたわけではない、のに」
星の目から見た雷烈という男は、自らの欲望のために人を、ましてや身内を殺す人間のようには思えなかった。立場や境遇は違えど、雷烈もまた星と同じように兄を大事に思っていたのだから。
「噂話を信じる奴らは、好きに言わせておけばいい。冷酷無比な男と思われていたほうが、家臣たちになめられなくてすむしな」
自分のことを悪く言う者たちを責めることなく、むしろ前向きに捉える。雷烈は人や天の神をむやみに恨んだりしなかった。
「そんなわけで俺は皇帝として、この国と民を守っていかねばならない。そのためには鬼の力がこれ以上覚醒されては困る。これからも封印を頼むぞ、星」
「はい、承り、ましゅる!」
「星の言葉使いも少しずつでいいから、直していってくれるとありがたいな」
「そ、そんなに変でしか?」
「うむ、おもに語尾がな。まぁ、その話し方も微笑ましくて愛らしくはあるのだが」
「あ、愛らしい……?」
またも言われたことのない言葉を伝えられ、星の顔は熱くなっていく。女の子らしい褒め言葉など、無縁の生活だったのだから。
(皇帝として尊敬すべき方ではあるけれど、何かと私をからかうのは止めてもらいたいわ)
頬をぷぅっとふくらませながら、星は皇帝雷烈をにらみつける。
「おふざけはほどほどに、お願い、します!」
「お? 今の発音はなかなかきれいだったぞ。その膨らんだ顔も可愛いな」
「もう! やめてください、ってば」
抗議しながらも、星は雷烈のことを頭から否定する気にはなれないのだった。
(雷烈様のお力に、少しでもなれたら嬉しい)
互いの目的のためとはいえ、星は雷烈という男を支えていける喜びを感じ始めていた。
気を失っていた星が目を覚ますと、なぜだか皇帝陛下の寝台に寝かされていた。慌てて体を起こそうとすると、雷烈が制して止めた。
「そのままそこで寝ていろ。俺が朝議に出ている間、星はずっと意識を失っていたのだぞ」
ということは、雷烈が朝議に出ている間、星は皇帝の寝台で寝ていたことになる。立場を考えればとんでもないことだった。
「封印術を使って疲れていたのに、からかってしまって悪かったな。星が意識を失ったのは俺のせいだ」
半裸身となった雷烈に抱かれたいた自分を思い出し、再び顔が熱くなる。
真っ赤になった星を見て、雷烈は微笑みながら言った。
「兄がいたのなら、幼い頃に兄の裸くらい見たことあるだろう?」
「兄とは共に暮らしていませんでした、から」
「兄妹なのにか? 何やら事情がありそうだな。おまえが辛そうだったから、あえて聞かなかったが、そろそろ話してもらえないだろうか」
過去のことを話すつもりはなかったが、雷烈に女であることを知られているし、今後のためにも事情を説明しておくのは良いことかもしれないと思った。
「私は兄とは別の場所で育てられました。双子の女児は不吉だといわれて」
生まれてからのことを、そして庸国に来るまでの事情を、星はぽつりぽつりと話し始めた。要所だけ話すつもりだったが、雷烈が頷きながらしっかりと話を聞いてくれるので、いつしかすべてのことを夢中で伝えてしまったいた。
(ひょっとして私は、誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない)
隠されて生きてきた星にとって、家族といえるのは優だけだった。友だちは書物であったが、知識は与えてくれても、話を聞いてくれることはない。呪封師の修行で忙しかった優にあれこれ聞かせるわけにもいかず、星は心の内にあふれる思いや孤独を誰にも話せなかった。
「双子の兄の敵を討つためにたったひとりで庸国に来たのか。ずいぶんと辛い思いをしてきたのだな……」
雷烈の優しい言葉は、凍てついた星の心を癒してくれる気がした。
「辛い思いをしてきたが、それでも星は頑張って生きてきた。だからこそここにいる。星の封印術のおかげで俺は鬼の血を受け継ぎながらも、皇帝としてやっていけそうだ。ありがとう、礼を言う」
よもやお礼を言われるとは思わなかった。封印術への感謝の言葉であることはわかっていたが、星の過去を全て受け入れたうえで、「生きていてくれてありがとう」と伝えてくれている気がした。
(ありがとう、って言われたの、初めてだわ。不思議な響き)
初めて聞く感謝の言葉に、復讐とは違う、別の希望が心の奥底に芽生え始めるのを感じる。体の内側が、ほんのり温かくなるように思えた。
「星にばかり過去の話をさせるのは対等ではないからな。俺のことも話してやろう」
今度は自分の番とでも言うように、雷烈は自分の過去を話し始めた。
「俺には兄や姉がいた。母の身分は下級の妃だったから、兄たちからは、ずいぶんと虐められたものだ。まぁ、おとなしくやられる俺ではないがな」
いたずらっ子のような表情をした雷烈は、楽しそうに話を続ける。
「兄に桶で水をかけられれば、お返しに泥水を丁寧に作ってぶっかけてやった。俺を落とすための落とし穴を作っているのを見つけたら、逆にそこに兄を蹴り落としてやったな。猫の死骸を宮殿の前に置かれたら、抱きかかえて兄のところへ行き、『共に埋葬いたしましょう!』と叫んで地の果てまで追いかけてやったわ。最終的には兄が泣いて詫びてくることもあったぞ」
虐められていたというより、虐め返す日々だ。末っ子の弟にそれほど反撃されたら、兄の面目は丸潰れだったことだろう。
「兄や姉からは嫌われていたが、俺は兄たちが嫌いではなかったよ。兄の誰かが皇帝となったら、オレは僻地に土地だけもらって、のんびり生きていこうと思っていた。兄の邪魔になりたくなかったからな。だが……」
雷烈の表情から、すっと笑みが消えた。
「即位したばかりの兄は二年で崩御してしまった。他国に嫁いだ姉も、事故で亡くなったと聞いた。不幸の連鎖のようだったよ。父は息子たちの悲報に嘆き悲しみ、病で倒れてしまった。亡くなる寸前、最後の息子となった俺に、『庸国と民を守る良き皇帝となれ』と言い遺して天に召された」
おそらく雷烈は皇帝になるつもりはなかったのだ。様々な事情が重なり、皇帝に即位することとなってしまった。
「家臣どもが裏で俺をなんと噂しているか、知っているか?」
星は静かに首を横に振る。
雷烈は天を仰ぎ、ささやくように告げた。
「帝位に就くために、兄や父を殺した極悪非道な鬼皇帝だとさ。オレは企んだことはないし、そんな証拠もないがな。噂の出どころはどこだか知らんが、いちいち否定して回るのも面倒なので放置してる」
前皇帝であった兄が若くして亡くなり、弟の皇子が皇帝となった。好き勝手に噂話を楽しむには、ちょうどよい設定だったのだろう。
「ひどいです……。陛下はなりたくて皇帝になられたわけではない、のに」
星の目から見た雷烈という男は、自らの欲望のために人を、ましてや身内を殺す人間のようには思えなかった。立場や境遇は違えど、雷烈もまた星と同じように兄を大事に思っていたのだから。
「噂話を信じる奴らは、好きに言わせておけばいい。冷酷無比な男と思われていたほうが、家臣たちになめられなくてすむしな」
自分のことを悪く言う者たちを責めることなく、むしろ前向きに捉える。雷烈は人や天の神をむやみに恨んだりしなかった。
「そんなわけで俺は皇帝として、この国と民を守っていかねばならない。そのためには鬼の力がこれ以上覚醒されては困る。これからも封印を頼むぞ、星」
「はい、承り、ましゅる!」
「星の言葉使いも少しずつでいいから、直していってくれるとありがたいな」
「そ、そんなに変でしか?」
「うむ、おもに語尾がな。まぁ、その話し方も微笑ましくて愛らしくはあるのだが」
「あ、愛らしい……?」
またも言われたことのない言葉を伝えられ、星の顔は熱くなっていく。女の子らしい褒め言葉など、無縁の生活だったのだから。
(皇帝として尊敬すべき方ではあるけれど、何かと私をからかうのは止めてもらいたいわ)
頬をぷぅっとふくらませながら、星は皇帝雷烈をにらみつける。
「おふざけはほどほどに、お願い、します!」
「お? 今の発音はなかなかきれいだったぞ。その膨らんだ顔も可愛いな」
「もう! やめてください、ってば」
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