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第四章 二人で立ち向かおう
若き皇帝は男色嗜好?
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皇帝雷烈に目覚め始めた鬼の力を封印するようになってから、星は雷烈に付き従う形で共に過ごすことが多くなった。家臣との朝議の時間など、星が入って行けない場所の場合は、終わるまで控えて待つことが常となった。
星が雷烈に付き従うようになったのは、雷烈の鬼の力が強くなることが増えており、星が封印術で鬼の力を抑えるためだった。神経を使うからか、朝議の後も鬼の力が強くなり、爪が長く伸びたり目が赤くなる鬼化が進んでしまうことがあったため、星ができるだけ早く対処しているのだ。
周囲の者は皇帝が和国の陰陽師を特別に気に入ってしまった、と思っているようだ。若い皇帝なのに後宮の妃に子どもができないのは、男色嗜好だったからではないかと勝手な噂までする者までいた。
星にとっては事実無根もいいところだが、自分が何のために雷烈のそばにいるのか正直に話すわけにもいかず、皇帝と御親密だなと宦官にからかわれても黙って耐えるしかなかった。
「星、不機嫌さが表情に出ているぞ。感情を抑えるように話しただろう」
「ですが、陛下。私と陛下が特別に親密などと言われるのは我慢なりません。そんな関係ではないというのに」
「事情があるかどうかも考えず、好き勝手に言う者たちは気にするなと前に伝えたこと忘れたか?」
雷烈が兄や姉を殺して皇帝に即位したのだと噂する者がいることは、雷烈から聞いて知っている。良き皇帝になるため、深夜まで政務に勤しんでいる雷烈の思いなど想像したこともない者たちなのだろう。酷すぎる噂であっても、雷烈はまったく気にしていない。皇帝として良き統治をしていけば、いずれ噂は消えていくと考えているのだ。雷烈の心意気はすばらしいと思うが、星が雷烈と同じように考えられるどうかはまた別の話なのだった。
「私は陛下のようにはできません。未熟者ですから」
むすっとした星が唇をとがらせると、雷烈は声をあげて笑った。
「噂話は悪いことばかりではないぞ。星は庸国の言葉にすっかり慣れて、流暢に話せるようになったからな」
星をからかってくる宦官たちに言い返すうちに、星は庸国の言葉にも慣れて、誰との意思疎通も問題なくできるようになっていた。
だからといって、どれだけ嘲笑されても気にしないようにするのは、なかなかできることではない。
「ところで星よ。そなたの昔の話をまた聞かせてもらってもよいか?」
ここは話を変えるべきと判断したのか、雷烈は星の過去のことを質問してきた。
雷烈の鬼の力を封印する際はふたりだけになってしまうので、自然とお互いのことで会話することが増えてきたのだ。
「かまいませんが、私のことはほぼお話ししましたよ?」
「気になるところがいくつかあるのだ。天御門家で男女の双子は不吉とされたそうだが、それは何か理由があってのことか? 庸国でも双子は生まれているし、なぜそのようになったのか知っておきたいのだ。星にとっては辛い話かもしれんが、今後の統治のために話してもらえないだろうか?」
興味本位で聞きたいわけではなく、一国を統べる皇帝として聞きたいと言われては断れないように思えた。
「私も兄から聞いただけなので詳しくは知りませんが……。天御門家の初代当主が男女の双子だったそうです。初代当主が凶悪な化け物を封印するために初めて呪封術を使ったのですが、その際に当主の双子の妹が事故で亡くなってしまったのだとか。それ以降、天御門家では男女の双子は不吉とされるようになったそうです」
政務をこなす雷烈の手が、ぴたりと止まった。気になることがあったようだ。
「ふむ。初代当主の妹が亡くなった事故とはなんだったのだろうな?」
「わかりません。兄の優も調べたことがあるそうですが、初代当主の妹の文献がひとつも残っていないため、何もわからなかったようです。ただ初代当主の日記は残っていて、そこには当主の妹のことが少し書かれていたみたいです」
「何が書かれていたのだ?」
「えーっと。『妹を守ってやれなかった。もう二度とあの悲劇をおこしてはならぬ』といったことが書いてあったと兄から聞きました」
「なるほど……」
天御門家初代当主が日記に遺した言葉の意味は、星にはよくわからない。だが雷烈には何か思うところがあったのか、腕を組んで考え始めてしまった。
(優は初代当主の妹のことを調べていたのよね。双子を不吉とする理由を知りたいからと。それで初代当主の日記を発見したと教えてくれたんだった。初代当主の日記を見てから、優は私に世の中のことや庸国のことを積極的に教えてくれるようになった気がする……)
優はもうこの世にはいないため、兄が何を思っていたのか今となっては知りようもない。だが優が、双子の妹の星を大切に思っていたのは紛れもない事実であり、星が幸せになれるよう願っていたこともまた真実なのだ。
(優を殺した悪鬼に復讐するために庸国に来たけれど。きっと優は復讐なんて望んでない……)
優の敵討ちを止めるつもりはない。庸国に行きたいと言っていた兄の無念を晴らしてあげたいからだ。
(優を殺した悪鬼はこの国にいる。復讐を果たせるときは、そう遠くないかもしれない。悪鬼に討つことができた後、私はどうしたらいいのだろう?)
宿願を果たしたら、星は天に召された兄の優のところへ自分も行こうと思っていた。現世に未練など何もなかったからだ。
(でも今は、私を必要としてくださる方がいる……。お互いの秘密を守るためだけれど)
腕を組んで考え込んでいる雷烈を、気づかれないようにそっと見つめた。
雷烈は男色嗜好などと噂されているが、星は雷烈と共に過ごすのが嫌いではなかった。雷烈は皇帝だからと星を見下したりしないし、星の悲しい過去に同情して、気持ちに寄り添ってくれている。時に素直で純真すぎる星のことをからかうことはあるが、後でちゃんと詫びてくれるし、星が本気で嫌がることは絶対にしない。
(私、この方と一緒に過ごすことが楽しいのかもしれない。だから妙な関係と噂されるのが嫌でたまらないんだ)
雷烈の美しい顔を見つめながら星があれこれ思案していると、腕を組んで考え込むのを止めた雷烈と目が合ってしまった。
「ん? ずいぶんと熱っぽい視線で俺のことを眺めていたようだな、星」
「ち、ちがいます。いつまでボーっとされてるのかな、って思ってただけです」
「本当は俺に見惚れていたのだろう? 正直に言えば許してやるぞ」
「ちがいますってば!」
望んで雷烈と共に過ごすことになったわけではないが、今しばらくはこのままでもいいかもしれないと思う星だった。
星が雷烈に付き従うようになったのは、雷烈の鬼の力が強くなることが増えており、星が封印術で鬼の力を抑えるためだった。神経を使うからか、朝議の後も鬼の力が強くなり、爪が長く伸びたり目が赤くなる鬼化が進んでしまうことがあったため、星ができるだけ早く対処しているのだ。
周囲の者は皇帝が和国の陰陽師を特別に気に入ってしまった、と思っているようだ。若い皇帝なのに後宮の妃に子どもができないのは、男色嗜好だったからではないかと勝手な噂までする者までいた。
星にとっては事実無根もいいところだが、自分が何のために雷烈のそばにいるのか正直に話すわけにもいかず、皇帝と御親密だなと宦官にからかわれても黙って耐えるしかなかった。
「星、不機嫌さが表情に出ているぞ。感情を抑えるように話しただろう」
「ですが、陛下。私と陛下が特別に親密などと言われるのは我慢なりません。そんな関係ではないというのに」
「事情があるかどうかも考えず、好き勝手に言う者たちは気にするなと前に伝えたこと忘れたか?」
雷烈が兄や姉を殺して皇帝に即位したのだと噂する者がいることは、雷烈から聞いて知っている。良き皇帝になるため、深夜まで政務に勤しんでいる雷烈の思いなど想像したこともない者たちなのだろう。酷すぎる噂であっても、雷烈はまったく気にしていない。皇帝として良き統治をしていけば、いずれ噂は消えていくと考えているのだ。雷烈の心意気はすばらしいと思うが、星が雷烈と同じように考えられるどうかはまた別の話なのだった。
「私は陛下のようにはできません。未熟者ですから」
むすっとした星が唇をとがらせると、雷烈は声をあげて笑った。
「噂話は悪いことばかりではないぞ。星は庸国の言葉にすっかり慣れて、流暢に話せるようになったからな」
星をからかってくる宦官たちに言い返すうちに、星は庸国の言葉にも慣れて、誰との意思疎通も問題なくできるようになっていた。
だからといって、どれだけ嘲笑されても気にしないようにするのは、なかなかできることではない。
「ところで星よ。そなたの昔の話をまた聞かせてもらってもよいか?」
ここは話を変えるべきと判断したのか、雷烈は星の過去のことを質問してきた。
雷烈の鬼の力を封印する際はふたりだけになってしまうので、自然とお互いのことで会話することが増えてきたのだ。
「かまいませんが、私のことはほぼお話ししましたよ?」
「気になるところがいくつかあるのだ。天御門家で男女の双子は不吉とされたそうだが、それは何か理由があってのことか? 庸国でも双子は生まれているし、なぜそのようになったのか知っておきたいのだ。星にとっては辛い話かもしれんが、今後の統治のために話してもらえないだろうか?」
興味本位で聞きたいわけではなく、一国を統べる皇帝として聞きたいと言われては断れないように思えた。
「私も兄から聞いただけなので詳しくは知りませんが……。天御門家の初代当主が男女の双子だったそうです。初代当主が凶悪な化け物を封印するために初めて呪封術を使ったのですが、その際に当主の双子の妹が事故で亡くなってしまったのだとか。それ以降、天御門家では男女の双子は不吉とされるようになったそうです」
政務をこなす雷烈の手が、ぴたりと止まった。気になることがあったようだ。
「ふむ。初代当主の妹が亡くなった事故とはなんだったのだろうな?」
「わかりません。兄の優も調べたことがあるそうですが、初代当主の妹の文献がひとつも残っていないため、何もわからなかったようです。ただ初代当主の日記は残っていて、そこには当主の妹のことが少し書かれていたみたいです」
「何が書かれていたのだ?」
「えーっと。『妹を守ってやれなかった。もう二度とあの悲劇をおこしてはならぬ』といったことが書いてあったと兄から聞きました」
「なるほど……」
天御門家初代当主が日記に遺した言葉の意味は、星にはよくわからない。だが雷烈には何か思うところがあったのか、腕を組んで考え始めてしまった。
(優は初代当主の妹のことを調べていたのよね。双子を不吉とする理由を知りたいからと。それで初代当主の日記を発見したと教えてくれたんだった。初代当主の日記を見てから、優は私に世の中のことや庸国のことを積極的に教えてくれるようになった気がする……)
優はもうこの世にはいないため、兄が何を思っていたのか今となっては知りようもない。だが優が、双子の妹の星を大切に思っていたのは紛れもない事実であり、星が幸せになれるよう願っていたこともまた真実なのだ。
(優を殺した悪鬼に復讐するために庸国に来たけれど。きっと優は復讐なんて望んでない……)
優の敵討ちを止めるつもりはない。庸国に行きたいと言っていた兄の無念を晴らしてあげたいからだ。
(優を殺した悪鬼はこの国にいる。復讐を果たせるときは、そう遠くないかもしれない。悪鬼に討つことができた後、私はどうしたらいいのだろう?)
宿願を果たしたら、星は天に召された兄の優のところへ自分も行こうと思っていた。現世に未練など何もなかったからだ。
(でも今は、私を必要としてくださる方がいる……。お互いの秘密を守るためだけれど)
腕を組んで考え込んでいる雷烈を、気づかれないようにそっと見つめた。
雷烈は男色嗜好などと噂されているが、星は雷烈と共に過ごすのが嫌いではなかった。雷烈は皇帝だからと星を見下したりしないし、星の悲しい過去に同情して、気持ちに寄り添ってくれている。時に素直で純真すぎる星のことをからかうことはあるが、後でちゃんと詫びてくれるし、星が本気で嫌がることは絶対にしない。
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雷烈の美しい顔を見つめながら星があれこれ思案していると、腕を組んで考え込むのを止めた雷烈と目が合ってしまった。
「ん? ずいぶんと熱っぽい視線で俺のことを眺めていたようだな、星」
「ち、ちがいます。いつまでボーっとされてるのかな、って思ってただけです」
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