24 / 42
第四章 二人で立ち向かおう
気づいてしまった思い
しおりを挟む
苦しげな呼吸をくり返す雷烈を横たえ、すぐに封印術の準備を始める。
息の整え、印を結ぶと、呪文を唱える。
「封印術・天の印・封」
呪文の共に『天』の文字が輝いて宙に浮かび、雷烈へと吸い込まれていく。これで少しは鬼の力を抑えていけるはずだ。
ところが雷烈は胸元を抑えるように苦しみはじめ、うめき声をあげた。これまでとは違う反応だ。
あえぐ雷烈の爪が長く伸び、髪が赤く光り始めた。瞳の色も血の色になりつつある。
(鬼化が進んでいる……。鬼の力が封印できてないの?)
「うああっ!」
星に救いを求めるように、雷烈はその手を伸ばした。星はその手を掴む。
「陛下、お辛いなら封印術は中止しましょうか?」
あまりの苦しみように、星はもはや見ていられなかった。手が震えて、印が結べない。
「かまわぬ。続けよ。これしきの痛み、耐えてみせるといったろう……」
「ですが私では、封印術の使い手として未熟なのかもしれません。もうこれ以上は続けたくありません」
「かまわない。星ならば、オレは何をされてもかまわん。おまえを信じている……」
「私を信じる……? 庸国の皇帝である雷烈様が?」
「星だけなのだ。俺の本当の姿を見せられるのは……だから」
鬼化しそうになっても必死におのれと戦い、苦しみに耐えながら、未熟な星を励ます。
(この方は、なんてすごい方なのだろう。私を信じるといってくれた雷烈様のために……!)
自らを奮い立たせた星は霊符をとりだし、印を結ぶ。霊符を手にしたまま、雷烈の体に直接霊符を貼り付ける。
「呪封術・星の印!」
五芒星が浮かび上がり、温かな光を放ちながら雷烈の体をつつみ込む。封印術ではなく、より強力な呪封術を使うことにしたのだ。
(おそらく陛下の鬼の力の暴走は、栄貴妃の呪いのせいだ。ならばまずは呪いのほうを封印しなくては!)
雷烈の体は異常なほど熱く、星の手も火傷しそうなほどだ。だがどれだけ痛くとも、星は雷烈の体から霊符を離さなかった。
「耐えてください、雷烈様。私が必ず呪いを封印してみせます!」
呪いを封印し、雷烈の鬼化を抑えたい星と、鬼の力を内側に押し留めたい雷烈。二人の思いがひとつとなり、鬼の力の暴走を食い止めていく。
ほどなくして、雷烈の吐息は少しずつ落ち着き、痛みも消えていったようだ。
「よかった……」
霊符がはらりと地に落ちる。呪いの封印に成功したのだ。
星が霊符を拾い上げ、ほっと息をつく。
「雷烈様、大丈夫ですか?」
雷烈はかすかに笑い、星に向けて手を伸ばす。体を起こしてほしいという意味かと思った星は、雷烈の手を握りしめた。
すると雷烈は星を自分のほうに引き寄せ、抱きしめたのだ。突然のことに、星は雷烈のたくましい胸元に顔をうずめる形となった。
「ら、雷烈様!?」
「ありがとう、星。悪いが、しばしこのままでいてくれ。少しだけ休みたい。おまえがいてくれると、よくねむれる……」
必死に鬼の暴走と戦い、疲れ果てたのだろう。すやすやと軽やかな寝息をたてながら、雷烈は眠ってしまった。
「雷烈様……」
雷烈に抱かれたまま共に横たわる星。耳をすませば、雷烈の鼓動が伝わってくる。雷烈が確かに生きているのだとわかり、星はたまらなく嬉しかった。
「良かった……雷烈様は無事だわ」
雷烈の逞しい体に、星はそっと身を寄せる。本来ならば許されないことだが、今だけだから、わずかな間だけ、と自分自身に言い聞かせながら。星は雷烈の温もりを感じたかったのだ。
「ふふ。あったかい……」
熱が残った体温を感じることが、たまらなく嬉しい。兄の優以外の人に、しかも男の人のそばにいて、こんなにも幸せで、嬉しいことがあるなんて。
(ああ、私はこの方のことが、雷烈様が好き……)
これまで気づかないふりをしていただけだった。
悲しき過去をもつ星の心を理解し、受けとめてくれたただひとりのお方。
皇帝としての才覚と覚悟をもち、どんな苦しみにも耐え抜く強い人。
(私、これからも雷烈様のそばにいられたら……。でも雷烈様は庸国の皇帝。身分も国も何もかも違いすぎる。それに私には優の敵を討つという目的がある……)
好きな人のそばにいたい。ずっと支えてあげたい。だがそれは叶わぬ夢のように思えた。星は雷烈の腕からそっと抜け出ると、整った容姿を見つめた。
「冷やした手巾をもってきますね。汗をかいておられますから」
息の整え、印を結ぶと、呪文を唱える。
「封印術・天の印・封」
呪文の共に『天』の文字が輝いて宙に浮かび、雷烈へと吸い込まれていく。これで少しは鬼の力を抑えていけるはずだ。
ところが雷烈は胸元を抑えるように苦しみはじめ、うめき声をあげた。これまでとは違う反応だ。
あえぐ雷烈の爪が長く伸び、髪が赤く光り始めた。瞳の色も血の色になりつつある。
(鬼化が進んでいる……。鬼の力が封印できてないの?)
「うああっ!」
星に救いを求めるように、雷烈はその手を伸ばした。星はその手を掴む。
「陛下、お辛いなら封印術は中止しましょうか?」
あまりの苦しみように、星はもはや見ていられなかった。手が震えて、印が結べない。
「かまわぬ。続けよ。これしきの痛み、耐えてみせるといったろう……」
「ですが私では、封印術の使い手として未熟なのかもしれません。もうこれ以上は続けたくありません」
「かまわない。星ならば、オレは何をされてもかまわん。おまえを信じている……」
「私を信じる……? 庸国の皇帝である雷烈様が?」
「星だけなのだ。俺の本当の姿を見せられるのは……だから」
鬼化しそうになっても必死におのれと戦い、苦しみに耐えながら、未熟な星を励ます。
(この方は、なんてすごい方なのだろう。私を信じるといってくれた雷烈様のために……!)
自らを奮い立たせた星は霊符をとりだし、印を結ぶ。霊符を手にしたまま、雷烈の体に直接霊符を貼り付ける。
「呪封術・星の印!」
五芒星が浮かび上がり、温かな光を放ちながら雷烈の体をつつみ込む。封印術ではなく、より強力な呪封術を使うことにしたのだ。
(おそらく陛下の鬼の力の暴走は、栄貴妃の呪いのせいだ。ならばまずは呪いのほうを封印しなくては!)
雷烈の体は異常なほど熱く、星の手も火傷しそうなほどだ。だがどれだけ痛くとも、星は雷烈の体から霊符を離さなかった。
「耐えてください、雷烈様。私が必ず呪いを封印してみせます!」
呪いを封印し、雷烈の鬼化を抑えたい星と、鬼の力を内側に押し留めたい雷烈。二人の思いがひとつとなり、鬼の力の暴走を食い止めていく。
ほどなくして、雷烈の吐息は少しずつ落ち着き、痛みも消えていったようだ。
「よかった……」
霊符がはらりと地に落ちる。呪いの封印に成功したのだ。
星が霊符を拾い上げ、ほっと息をつく。
「雷烈様、大丈夫ですか?」
雷烈はかすかに笑い、星に向けて手を伸ばす。体を起こしてほしいという意味かと思った星は、雷烈の手を握りしめた。
すると雷烈は星を自分のほうに引き寄せ、抱きしめたのだ。突然のことに、星は雷烈のたくましい胸元に顔をうずめる形となった。
「ら、雷烈様!?」
「ありがとう、星。悪いが、しばしこのままでいてくれ。少しだけ休みたい。おまえがいてくれると、よくねむれる……」
必死に鬼の暴走と戦い、疲れ果てたのだろう。すやすやと軽やかな寝息をたてながら、雷烈は眠ってしまった。
「雷烈様……」
雷烈に抱かれたまま共に横たわる星。耳をすませば、雷烈の鼓動が伝わってくる。雷烈が確かに生きているのだとわかり、星はたまらなく嬉しかった。
「良かった……雷烈様は無事だわ」
雷烈の逞しい体に、星はそっと身を寄せる。本来ならば許されないことだが、今だけだから、わずかな間だけ、と自分自身に言い聞かせながら。星は雷烈の温もりを感じたかったのだ。
「ふふ。あったかい……」
熱が残った体温を感じることが、たまらなく嬉しい。兄の優以外の人に、しかも男の人のそばにいて、こんなにも幸せで、嬉しいことがあるなんて。
(ああ、私はこの方のことが、雷烈様が好き……)
これまで気づかないふりをしていただけだった。
悲しき過去をもつ星の心を理解し、受けとめてくれたただひとりのお方。
皇帝としての才覚と覚悟をもち、どんな苦しみにも耐え抜く強い人。
(私、これからも雷烈様のそばにいられたら……。でも雷烈様は庸国の皇帝。身分も国も何もかも違いすぎる。それに私には優の敵を討つという目的がある……)
好きな人のそばにいたい。ずっと支えてあげたい。だがそれは叶わぬ夢のように思えた。星は雷烈の腕からそっと抜け出ると、整った容姿を見つめた。
「冷やした手巾をもってきますね。汗をかいておられますから」
3
あなたにおすすめの小説
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました
大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
別れし夫婦の御定書(おさだめがき)
佐倉 蘭
歴史・時代
★第11回歴史・時代小説大賞 奨励賞受賞★
嫡男を産めぬがゆえに、姑の策略で南町奉行所の例繰方与力・進藤 又十蔵と離縁させられた与岐(よき)。
離縁後、生家の父の猛反対を押し切って生まれ育った八丁堀の組屋敷を出ると、小伝馬町の仕舞屋に居を定めて一人暮らしを始めた。
月日は流れ、姑の思惑どおり後妻が嫡男を産み、婚家に置いてきた娘は二人とも無事与力の御家に嫁いだ。
おのれに起こったことは綺麗さっぱり水に流した与岐は、今では女だてらに離縁を望む町家の女房たちの代わりに亭主どもから去り状(三行半)をもぎ取るなどをする「公事師(くじし)」の生業(なりわい)をして生計を立てていた。
されどもある日突然、与岐の仕舞屋にとっくの昔に離縁したはずの元夫・又十蔵が転がり込んできて——
※「今宵は遣らずの雨」「大江戸ロミオ&ジュリエット」「大江戸シンデレラ」「大江戸の番人 〜吉原髪切り捕物帖〜」にうっすらと関連したお話ですが単独でお読みいただけます。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる