男装呪封師と鬼の皇帝〜秘された少女は後宮で開花する〜

蒼真まこ

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第四章 二人で立ち向かおう

気づいてしまった思い

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 苦しげな呼吸をくり返す雷烈を横たえ、すぐに封印術の準備を始める。
 息の整え、印を結ぶと、呪文を唱える。

「封印術・天の印・封」

 呪文の共に『天』の文字が輝いて宙に浮かび、雷烈へと吸い込まれていく。これで少しは鬼の力を抑えていけるはずだ。
 ところが雷烈は胸元を抑えるように苦しみはじめ、うめき声をあげた。これまでとは違う反応だ。
 あえぐ雷烈の爪が長く伸び、髪が赤く光り始めた。瞳の色も血の色になりつつある。

(鬼化が進んでいる……。鬼の力が封印できてないの?)

「うああっ!」

 星に救いを求めるように、雷烈はその手を伸ばした。星はその手を掴む。

「陛下、お辛いなら封印術は中止しましょうか?」

 あまりの苦しみように、星はもはや見ていられなかった。手が震えて、印が結べない。

「かまわぬ。続けよ。これしきの痛み、耐えてみせるといったろう……」
「ですが私では、封印術の使い手として未熟なのかもしれません。もうこれ以上は続けたくありません」
「かまわない。星ならば、オレは何をされてもかまわん。おまえを信じている……」
「私を信じる……? 庸国の皇帝である雷烈様が?」
「星だけなのだ。俺の本当の姿を見せられるのは……だから」

 鬼化しそうになっても必死におのれと戦い、苦しみに耐えながら、未熟な星を励ます。

(この方は、なんてすごい方なのだろう。私を信じるといってくれた雷烈様のために……!)

 自らを奮い立たせた星は霊符をとりだし、印を結ぶ。霊符を手にしたまま、雷烈の体に直接霊符を貼り付ける。

呪封術じゅふうじゅつ・星の印!」

 五芒星ごぼうせいが浮かび上がり、温かな光を放ちながら雷烈の体をつつみ込む。封印術ではなく、より強力な呪封術を使うことにしたのだ。

(おそらく陛下の鬼の力の暴走は、栄貴妃の呪いのせいだ。ならばまずは呪いのほうを封印しなくては!)

 雷烈の体は異常なほど熱く、星の手も火傷しそうなほどだ。だがどれだけ痛くとも、星は雷烈の体から霊符を離さなかった。

「耐えてください、雷烈様。私が必ず呪いを封印してみせます!」

 呪いを封印し、雷烈の鬼化を抑えたい星と、鬼の力を内側に押し留めたい雷烈。二人の思いがひとつとなり、鬼の力の暴走を食い止めていく。
 ほどなくして、雷烈の吐息は少しずつ落ち着き、痛みも消えていったようだ。

「よかった……」

 霊符がはらりと地に落ちる。呪いの封印に成功したのだ。

 星が霊符を拾い上げ、ほっと息をつく。

「雷烈様、大丈夫ですか?」

 雷烈はかすかに笑い、星に向けて手を伸ばす。体を起こしてほしいという意味かと思った星は、雷烈の手を握りしめた。
 すると雷烈は星を自分のほうに引き寄せ、抱きしめたのだ。突然のことに、星は雷烈のたくましい胸元に顔をうずめる形となった。

「ら、雷烈様!?」
「ありがとう、星。悪いが、しばしこのままでいてくれ。少しだけ休みたい。おまえがいてくれると、よくねむれる……」

 必死に鬼の暴走と戦い、疲れ果てたのだろう。すやすやと軽やかな寝息をたてながら、雷烈は眠ってしまった。

「雷烈様……」

 雷烈に抱かれたまま共に横たわる星。耳をすませば、雷烈の鼓動が伝わってくる。雷烈が確かに生きているのだとわかり、星はたまらなく嬉しかった。

「良かった……雷烈様は無事だわ」

 雷烈の逞しい体に、星はそっと身を寄せる。本来ならば許されないことだが、今だけだから、わずかな間だけ、と自分自身に言い聞かせながら。星は雷烈の温もりを感じたかったのだ。


「ふふ。あったかい……」

 熱が残った体温を感じることが、たまらなく嬉しい。兄の優以外の人に、しかも男の人のそばにいて、こんなにも幸せで、嬉しいことがあるなんて。

(ああ、私はこの方のことが、雷烈様が好き……)

 これまで気づかないふりをしていただけだった。
 悲しき過去をもつ星の心を理解し、受けとめてくれたただひとりのお方。
 皇帝としての才覚と覚悟をもち、どんな苦しみにも耐え抜く強い人。

(私、これからも雷烈様のそばにいられたら……。でも雷烈様は庸国の皇帝。身分も国も何もかも違いすぎる。それに私には優の敵を討つという目的がある……)

 好きな人のそばにいたい。ずっと支えてあげたい。だがそれは叶わぬ夢のように思えた。星は雷烈の腕からそっと抜け出ると、整った容姿を見つめた。

「冷やした手巾をもってきますね。汗をかいておられますから」

 
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