男装呪封師と鬼の皇帝〜秘された少女は後宮で開花する〜

蒼真まこ

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第五章 繋がる心

真実を見抜く力

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 天御門家で男女の双子が生まれた場合、女児のほうは不吉であるという理不尽な理由で、星は天御門家から名前さえ与えてもらえなかった。双子の兄である優だけは星に優しかったが、その兄でさえ男女の双子の女児だけが不吉とされる理由は調べてもよくわからなかったらしい。

(もしも本当に、天御門家初代様である天御門晴人様が妹の才能を妬み、その手柄を横取りするために妹の存在を抹消したのだとしたら。天御門家がなぜ双子の妹だけを不吉な存在としたのか納得できる気がする。初代様の妹は兄を支えるために陰陽師となり、兄のために命がけで九尾の狐を封印しただろうに、あまりに気の毒すぎる……)

 初代当主天御門晴人の妹と天御門星。立場や状況は違うが、二人はよく似ている。天御門家に冷遇されてきた星にとって、天御門家を心から信じられるほど恵まれた環境で育ってはいないのだ。
 存在を消された天御門晴人の妹君に同情したとしても、誰が星を責めることができるだろうか。
 星もまた兄の優を敬愛し、死んだ兄の復讐のためにたったひとりで海を渡って庸国にまで来たのだから。

 星の心が揺れ始めていることを、琳淑妃と栄貴妃は見逃さすはずもなかった。ニヤリと不気味な笑みを浮かべ、星をさらに追い込み、誘惑していく。

「天御門星よ、我らに力を貸してほしい。初代当主らの手によって封印された九尾の狐様を解放してほしいのだ。我らの悲願を叶えてくれたら、皇帝雷烈にはこれ以上手出ししない。呪いもすぐに解く。我ら妖狐一族がとり憑き支配している栄貴妃と琳淑妃の体もすぐにお返しする。すべて終わったら、九尾の狐様と共にこの国を出ていくと約束しよう」
「で、では雷烈様を苦しめるのは止めると……?」
「そうだ。我らは皇帝雷烈の鬼としての力と皇帝としての精力が欲しかっただけ。鬼と皇帝としての精力があれば、九尾の狐様を解放してあげられると考えたからだ」

 妖狐一族の願いを叶えてやれば、すべてがうまくいくように星は思えた。いや、そう思うように巧みに誘導されていた。
 いつ倒れてもおかしくないほど疲弊した体に、次々と知らされる驚愕の事実に、星は冷静に考えることができなくなっていた。

「だけどそれでは兄様が、優が報われない。優は何も悪いことをしていない。他の天御門家の者たちだって、初代様の罪を背負うべき理由にはならない」

 雷烈の危機は回避できたとしても、兄の優の敵は忘れていない星だ。天御門家には恩はないが、母は星の命を救い、兄の優は星を家族として愛してくれたのだから。

「我ら妖狐一族はずっと待っていた。天御門家に再び男女の双子が生まれる時を。妹のほうは初代同様に呪封師としての才覚に恵まれている可能性が高いからだ。そして天御門星、そなたが生まれた。父は娘の能力を恐れたのか、そなたの存在を消し、隠して育てることにしたようだが、それがかえって我らにそなたの才能を知らしめる結果となった。我ら妖狐は今こそから優れた才覚をもつ娘を天御門家から自由にしてやるべきだと思った……だが、目的があったとはいえ、罪もないそなたの兄や他の天御門家の者を殺してしまったことは申し訳なく思う。心から詫びたい」

 真の敵というべき妖狐たちが、星に謝罪した。謝ったからといって、死んだ優が生き返るわけではない。許すことはできるはずもない。だが星の心はいくぶんか救われた気がした。

「私がおまえたちに協力すれば、本当に庸国から出ていくのだな? 兄の御霊にも詫びてくれるか?」
「ああ。そなたさえ我らに力を貸して、九尾の狐様を解放してくれれば良いのだ。さぁ、天御門星。我らの手を取れ。妖狐の仲間となるのだ……」
「妖狐……仲間……私が力を貸せば……」

 うわ言のように呟きながら、星はふらふらと琳淑妃のほうへ向かって一歩、また一歩と歩いていく。

(生きてきた存在も価値も、兄への真心も抹消された初代様の妹君はどんな思い生きておられたのだろう……? 何という御名前で、どんな女性だったのだろう……名前……彼女にも名前はあったはず……)

 星は朦朧とし始めた意識のまま、天御門家初代当主の妹の名前を問うた。

「初代様の妹君の名は……?」
「初代の妹の名前だと? そんなことどうでもいいではないか。存在を消された女の名前など、あってないようなもの。そなたは我らと共に来てくれればいい」

 星の呪封師としての才能を欲しいと願う妖狐一族は、星にとって言ってはならぬことを口にした。

「そんなことどうでもいい……? おまえたちの本音はそれか?」
「は? なんだと?」
「たとえ存在を消されたとしても、確かに生きておられた妹君の名前がどうでもいいわけはない。私の星という名前は死んだ兄がつけてくれたもの。私にとって名前は、かけがえのない宝物だ! 私と似た立場だった初代様の妹君を見下すおまえたちの話は、信じるに値しない!」

 妖狐一族の巧みな誘惑から、星はついに真実を見抜いたのだ。

 
 
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