マジカル・キャットは月夜に舞う

蒼真まこ

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episode2

切なく、楽しい同居

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 奨さんの家に一緒に住むことになった私は、住んでいたアパートを退去して引っ越した。
 奨さんの家に住む理由はふたつ。
 ひとつは「魔女の力を受け継ぐ人間を守ってほしい」という言葉の謎を解明すること。奨さんの亡くなった奥様が言い残した言葉だ。その謎を解くことはおそらく、私が魔法のチョーカーによって黒猫に変身する理由ワケもわかるんじゃないだろうか? 猫に変身するのは楽しいけど、副作用とかないか心配になってしまう。だから変身の秘密を知っておきたい。
 そしてもうひとつの理由は、奨さんの大切な人になりたいから。彼をずっと支えていきたいと思ってる。亡くなった奥様のことを全部忘れてほしいと思ってるわけじゃない。この世から大切な人がいなくなってしまった辛さは私もよくわかるもの。もう二度と会えない人をずっと思い続けるのは辛い。思い出は大切にしながら、私と一緒に生きていってほしい。だって奨さんのことが大好きだから。
 奨さんは奥様を亡くされた痛みにまだ苦しんでいるように思う。だから私の思いを押しつけたりしたくない。彼の傷がこれ以上酷くならないように。
 今の私にできることは、彼が孤独にならないように奨さんの側にいることだけ。どうか彼の心が少しでも癒やされますように。


「まゆちゃん、こっちだよ」

 自分の荷物を片付けた私は、奨さんに案内されてある部屋へと向かった。そこは1階の奥になり、南京錠がかけられていた部屋だ。猫だったときは物置部屋と思い、気にも留めなかった場所だ。南京錠を開ける音が重々しく響く。

「ここは……」

 そこは小さなお店だった。アクセサリーや小さな置き物、ハーブ用品などがひっそりと置かれている。壁には備え付けの本棚があり、ハーブや魔法、魔女などの本がぎっしり詰まっていた。

「ここはね、瑤子がやっていた店だよ。『魔女の雑貨屋』という名前だった。小さいけど遠方から通う客もいて、繁盛していたよ」

 懐かしむように店内を見回す奨さんの表情に、ちくりと胸が痛んだ。こういうことにも慣れていかないといけないんだ。

「魔女関係の本が沢山あるから、まゆちゃんも参考までに読んでみたらどうかな? と思ってね。君の変身の魔法を知る手掛かりになるかもしれないから」

 そういうことだったのね。確かに私は魔女や魔法のことを何も知らない。まずは知識を得ることは大事なことだ。

「ここにあるものは、まゆちゃんが好きにしていいよ。できれば整理して管理してもらえると助かる。本当は僕がやるべきなんだけど、作家業とかけもちでやってるシルバーアクセサリーの制作で忙しくて、なかなかね」

 奨さんは申し訳なさそうに笑った。忙しいのも理由だろうけど、遺品を見るのが辛くて手がつけられなかったような気がした。亡くなった奥様が遺した店を私が管理するのは正直複雑。でも貴重な本は私にとって大事な手がかりだ。

「わかりました。本を読ませてもらう代わりに、ここを整理していきますね」

 奨さんがほっとしたような顔をしている。彼も私に見せるかどうか悩んだのかもしれない。


 奨さんとの同居が本格的に始まった。私は家事を受け持ち、奨さんが作るシルバーアクセサリーの出荷業務を手伝ったりした。奨さんのアクセサリーはネット販売でそれなりに人気らしく、送付する作業はなかなか大変な量だった。
 合間に瑤子さんの店『魔女の雑貨屋』へ行き、残されたものを整理して、在庫をノートに書きだしていった。恋人が過ごす甘い蜜月のような同居とはほど遠いものだけれど、忙しいのはかえって助かった。余計な感傷に悩まされずに済むから。魔女関係の本を読むのも楽しいし勉強になる。
 なにより、奨さんのために食事を作って、一緒に食べれることが嬉しかった。ひとりぼっちで食べる食事はつまらないもの。ごはんを一緒に食べる人がいるって、こんなにも幸せなことだったんだと改めて知った。会話も弾み、奨さんも私も笑うことが多くなった。片思いだけど、こんな生活も悪くない。

 こうして奨さんとの同居は、予想以上にうまくいっていた。恋人という関係にはなれてないけど、このまま彼の側にいれば遠い夢ではない気がした。いつか奨さんの大切な人になれたら嬉しい。ささやかな夢を胸に秘め、私は毎日を忙しく過ごしていった。

 
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