ぬらりひょんのぼんくら嫁〜虐げられし少女はハイカラ料理で福をよぶ〜

蒼真まこ

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第四章 対 決

つよきこころ

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 改めて知った九桜院家とさちの出生の秘密。
 始まりは確かに、ぬらりひょんと九尾の狐の出会いだったかもしれない。だが勝手に逆恨みをしたのは九尾の狐のほうであり、ぬらりひょんに罪があると、さちには思えなかった。

(そうよ、これはぬらりひょん様のせいでも、お父様のせいでもない)

 涙を袖で拭き取ると、さちはぬらりひょんの顔を見上げた。

「おふたりのせいではございません。すべてはお姉様、いいえ、蓉子がしたことなのです。私はお父様のことも、ぬらりひょん様のことも恨んでいません。むしろ感謝しています。だって私を守ってくれたのですもの」

 目を見開くぬらりひょんの手をとり、さちはにっこりと笑ってみせた。

「ぬらりひょん様は私に生きる希望と幸せを与えてくださいました。お父様は私を命がけで守ってくださった。おふたりにどれだけ感謝しても足りません」

 九桜院家では辛く苦しい生活を送ってきたが、だからこそささやかな幸せのありがたさを知ることができた。

「お父様が私をぬらりひょん様の元に送っていただかなければ、私は愛するお方に出会うことすらできませんでした」

 心から守りたいと思う大切な人がいるということ。そして大切な人に愛されるということが、どれほど幸運なことか。さちは身をもって知っている。 
 もしかしたら、九尾の狐である蓉子は、幸せををかみしめることのありがたさを知らないのかもしれない。だから何でも欲しいと思ってしまうのかも。しかし、もしそうであったとしても、ぬらりひょんや父を苦しめていたことを許せる気にはなれなかった。

(私はどうしたら、いいのだろう?)

 蓉子はさちやぬらりひょんを、けっしてあきらめないと叫んでいた。長い年月をかけ、用意周到に準備してまで全てを手に入れようとする存在。それほどの執念を、さちは想像すらできない。

(ただの人間である私が、あやかしである蓉子に勝てるとは思えない……。私にできることは、大切な人を支えて守っていくことだけだわ)

 愚鈍なぼんくら娘と、自らを卑下していた少女はもういない。愛し愛される幸福を知ったさちは強くなった。どんな困難にも負けず、前を向いて強くたくましく生きていこうとする、大人の女性へと成長していたのだ。

「ぬらりひょん様、お父様、さちは負けません。そのために幸せになりたい。いえ、ならなくては。きっとそれが、お姉様に打ち勝つただひとつの方法だと思いますから。笑顔を忘れず、今を生きられる幸せに感謝しながら、これからも暮らしていきます」

 さちは輝くような笑顔を見せる。笑顔こそ福を呼び寄せるのだと、さちは母から教えられて知っていた。
 呆気にとられた顔でさちを見つめていたぬらりひょんだったが、やがて嬉しそうに微笑んだ。

「さちの言葉にはいつも驚かされる。わしの度肝をぬくようなことを言ったかと思えば、わしなどには考えつかないようなことを、さらりと言ったりする。まったく実におもしろい。そしてなんと強い娘よ。さち、わしはおぬしにますます惚れたぞ。壱郎、さちを正式にわしの嫁としたいが、かまわぬか?」

 壱郎も涙を拭くと、静かに微笑んだ。

「ぬらりひょん様なら、さちを必ず守ってくださると思い、秘かに嫁に送り出したのです。正式にもらってくださるなら、こんなに嬉しいことはございません。どうか娘を、さちをよろしくお願い致します」

 壱郎は痛む体で精一杯、頭を下げる。父として、せめてもの礼儀だった。

「さちは必ずわしが守る。だから壱郎はここで養生してくれ。長年の疲労を癒やすつもりでな」
「はい、ありがとうございます」
あわいの地は、鬼の一族が守護しておるから、何かあったら相談するがいい。わしともいつでも連絡がとれるゆえ、心配するな」
「何から何まで、本当に……」
「それ以上言うでない、壱郎。わしもまたおぬしらに詫びたくなってしまうからのぅ」
 
 ぬらりひょんと壱郎は無言でうなずき合う。そこにはさちの知らない、男同士の絆があった。

「ではな、壱郎。体を大事にな」
「お父様、すぐにまたお見舞いに伺いますね」
「また元気な顔を見せておくれ、さち」
「はい、お父様」

 壱郎は花嫁となった娘を静かに見送った。

「さち、幸せになってくれ。八重のぶんまで……。それだけがわたしの願いだ」

 壱郎のつぶやきはさちの耳に届くことはなかったが、思いだけはきっと伝わったことだろう。




「では参ろうか、さち。一つ目小僧やおりん、油すまし、そして化け火が、おまえの帰りを待っておる」

 さちを大切にしてくれたあやかしたち。懐かしい名前に胸が熱くなる。早く会いたい、大切な仲間たちに。

「はい……! どうかぬらりひょん様のお屋敷に連れていってくださいませ。さちはもう待ちきれません」
「そうか。実はわしもだ」
 
 ぬらりひょんはにやりと笑い、さちの鼻先にちょんと触れた。

「ではまた目をつむっておってくれ」
「はい!」

 さちは目を閉じ、ぬらりひょんの腕に再び抱きあげられた。
 ぬらりひょんにしかと守られ、さちは懐かしい場所へと、ようやく帰ることができるのだ。


 



  


 
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