39 / 70
みずいろの章 水樹
君が誰より愛しくて
しおりを挟む
桃子とはすぐに仲良くなった。気さくで明るい桃子は話しているだけで楽しく、一緒にいると時間を忘れてしまいそうだった。境遇は違えど、家庭に事情を抱えているところに共感する部分も多く、話が合うことが嬉しかった。
「桃子はえらいなぁ。家の家事を支えてるんだろ? 俺なんて青葉に任せたまんまだよ」
学校からの帰り道を桃子と一緒に歩くのは、俺にとって一番の楽しみとなっていた。
「水樹も手伝えばいいでしょ、何で手伝わないの?」
痛いところを、つっこまれてしまった。
「だってよぉ。俺は青葉とちがって要領悪いし、不器用だし、俺がいると邪魔になるだけだから……」
「それは言い訳でしょ? やれるかどうかよりも、まずは手伝いたいって気持ちが大事よ」
正論だった。青葉に言われるとムキになって反論するのに、桃子に言われると素直に従いたくなる。不思議と逆らえないのは、なぜなんだろう?
「うん、桃子の言う通りだね。これからは俺にできる形で手伝っていくよ」
「えらい、えらい。水樹くんは素直で、いい子だね」
「あのなぁ、ガキ扱いすんなよ」
「ガキじゃないよ、可愛い弟って感じかな?」
「おとうと……おい! 俺は桃子と同じ歳、同学年だっつの!」
「あはは、そうだった、忘れてたよ!」
少々口が悪いところもあるけど、それでも桃子はいいヤツだと思う。うん、たぶん。
「弟で思い出したけど、兄貴の青葉くんと水樹って、仲悪いの?」
直球で心をえぐる質問をされ、さすがの俺もしばし言葉を失った。桃子は大きな目をくりくりとさせながら、じぃっと俺を見つめてくる。
「あのさぁ……もうちょっとこう、オブラートに包むっていうか、少しは気を遣って言えないわけ?」
「なによ? 本当はすごく仲が良いとか?」
「いや、それはその、確かに青葉とは最近仲は良くないけどさ……」
「じゃあ、当たってるじゃない。友だちなんだから、気を遣って聞くことじゃないでしょ?」
全く悪びれることのない桃子の発言に少し呆れそうになるものの、確かに青葉とは不仲だしな、と納得してしまう自分がいる。俺はどこまで桃子に弱いのやら。自分でも情けなくなる。
「私、一人っ子だからさ。兄弟姉妹に憧れてるの。いざとなったら助け合えるのは、やっぱり家族だと思うし。だから水樹が青葉くんと仲が悪いなら、仲直りしてほしいな、って思う。家のことがいろいろ大変なら尚更だよ。兄弟で助け合わないと。私の言ってること、まちがってる?」
「……まちがってない。正論だよ」
「でしょ? じゃあ、青葉くんと仲直りしなよ!」
「いや、いきなりそう言われてましても……」
そんなに簡単に仲が良くなれたら、俺だって苦労はしない。青葉と助け合っていくべきなのはわかるけど、急に素直になんてなれるはずがないじゃないか。一人っ子の桃子には、兄弟の、ましてや双子の複雑な感情とか理解できるはずがないんだ。
うつむきながら、ぶつぶつと小声で文句を言う。何で面と向かって言えないんだ、俺は。
桃子は体を横に傾け、俺の顔を覗き込むように、上目遣いで見つめてくる。
「な~にを、ひとりでごにょごにょ言ってるのかな? 水樹くんは、お兄ちゃんと仲直りできませんかぁ?」
少し甘えるように首を傾けながら、じっと見つめてくる桃子。やや茶色い髪が揺れ、ほんのり甘い香りが漂ってくる。制服の襟元にもつい目が行ってしまい、顔と体が一気に火照ってくるのを感じた。
「わ、わかったよ! 青葉とはなんとか仲直りする。これでいいか?」
堪らず叫ぶように答えると、桃子は体を元に戻し、にんまりと笑った。
「素直でよろしい! 水樹くんはいい子ですね」
くっそ、やっぱりこいつ、俺のことを弟か子分かと思ってやがるな。
赤くなっているだろう顔をごまかすように、髪をかきむしりながらそっぽを向く。
ああ、何で俺はこんなにも桃子に弱いんだろう? 少しぐらい強く出ないと、男の面子にかかわるぞ。
「言いだしっぺは私だからさ、良かったら私も手伝うよ? 料理上手な青葉くんに、料理のことも教わりたいしね。今度、水樹の家に遊びに行ってもいい?」
「え? ウチに来るの?」
「ダメなの?」
「ううん、全然いい! おいでよ、俺んちにさ!」
桃子が家に遊びに来てくれたら、きっともっと仲良くなれる。つまらない毎日が、楽しくなるぞ。
少しぐらい強く言ってやるぞ、と思ったのも忘れ、餌につられた犬のごとく大喜びしてしまった。ああ、俺は桃子にとことん弱いらしい。まぁ、楽しいからいいけどね。
「あれ、桃子は何で青葉が料理上手って知ってんの?」
「この前、スーパーで会ったの。カレーの作り方を教わったんだ。青葉くん、ちょっと人を寄せ付けない雰囲気あるけど、話してみると優しくて、細かなところまで気を遣ってくれるのね」
「ふーん……。そりゃ、ようございました」
桃子にだけは、俺の目の前で青葉のことをほめてほしくなかった。唇を噛みしめながら、桃子を責めたくなる気持ちを抑える。
「そーんな顔しないの、水樹。青葉くんは青葉くん、水樹は水樹でしょ? 水樹はちょっとガサツだけど、気は優しいって知ってるから。照れ屋で可愛いしね」
「俺はガサツじゃねーよ。ガサツなのは桃子だろ?」
「じゃあ、似た者同士だね、私たち」
屈託のない笑顔を見せつけられ、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。
ああ……ダメだ。もう気付いてしまった。
認めよう。俺は、桃子が好きだ。ちょっと生意気だけど、可愛くて、素直で明るい桃子。俺はそんなコイツに、たまらなく弱いんだ。
「じゃあ、今から青葉くんとの仲直り作戦を練りましょう!」
「はいはい、わかりましたよ」
桃子への感情が何なのか自覚した俺は、隣を歩く桃子への愛しさに心を揺さぶられながら、共に歩いたのだった。
「桃子はえらいなぁ。家の家事を支えてるんだろ? 俺なんて青葉に任せたまんまだよ」
学校からの帰り道を桃子と一緒に歩くのは、俺にとって一番の楽しみとなっていた。
「水樹も手伝えばいいでしょ、何で手伝わないの?」
痛いところを、つっこまれてしまった。
「だってよぉ。俺は青葉とちがって要領悪いし、不器用だし、俺がいると邪魔になるだけだから……」
「それは言い訳でしょ? やれるかどうかよりも、まずは手伝いたいって気持ちが大事よ」
正論だった。青葉に言われるとムキになって反論するのに、桃子に言われると素直に従いたくなる。不思議と逆らえないのは、なぜなんだろう?
「うん、桃子の言う通りだね。これからは俺にできる形で手伝っていくよ」
「えらい、えらい。水樹くんは素直で、いい子だね」
「あのなぁ、ガキ扱いすんなよ」
「ガキじゃないよ、可愛い弟って感じかな?」
「おとうと……おい! 俺は桃子と同じ歳、同学年だっつの!」
「あはは、そうだった、忘れてたよ!」
少々口が悪いところもあるけど、それでも桃子はいいヤツだと思う。うん、たぶん。
「弟で思い出したけど、兄貴の青葉くんと水樹って、仲悪いの?」
直球で心をえぐる質問をされ、さすがの俺もしばし言葉を失った。桃子は大きな目をくりくりとさせながら、じぃっと俺を見つめてくる。
「あのさぁ……もうちょっとこう、オブラートに包むっていうか、少しは気を遣って言えないわけ?」
「なによ? 本当はすごく仲が良いとか?」
「いや、それはその、確かに青葉とは最近仲は良くないけどさ……」
「じゃあ、当たってるじゃない。友だちなんだから、気を遣って聞くことじゃないでしょ?」
全く悪びれることのない桃子の発言に少し呆れそうになるものの、確かに青葉とは不仲だしな、と納得してしまう自分がいる。俺はどこまで桃子に弱いのやら。自分でも情けなくなる。
「私、一人っ子だからさ。兄弟姉妹に憧れてるの。いざとなったら助け合えるのは、やっぱり家族だと思うし。だから水樹が青葉くんと仲が悪いなら、仲直りしてほしいな、って思う。家のことがいろいろ大変なら尚更だよ。兄弟で助け合わないと。私の言ってること、まちがってる?」
「……まちがってない。正論だよ」
「でしょ? じゃあ、青葉くんと仲直りしなよ!」
「いや、いきなりそう言われてましても……」
そんなに簡単に仲が良くなれたら、俺だって苦労はしない。青葉と助け合っていくべきなのはわかるけど、急に素直になんてなれるはずがないじゃないか。一人っ子の桃子には、兄弟の、ましてや双子の複雑な感情とか理解できるはずがないんだ。
うつむきながら、ぶつぶつと小声で文句を言う。何で面と向かって言えないんだ、俺は。
桃子は体を横に傾け、俺の顔を覗き込むように、上目遣いで見つめてくる。
「な~にを、ひとりでごにょごにょ言ってるのかな? 水樹くんは、お兄ちゃんと仲直りできませんかぁ?」
少し甘えるように首を傾けながら、じっと見つめてくる桃子。やや茶色い髪が揺れ、ほんのり甘い香りが漂ってくる。制服の襟元にもつい目が行ってしまい、顔と体が一気に火照ってくるのを感じた。
「わ、わかったよ! 青葉とはなんとか仲直りする。これでいいか?」
堪らず叫ぶように答えると、桃子は体を元に戻し、にんまりと笑った。
「素直でよろしい! 水樹くんはいい子ですね」
くっそ、やっぱりこいつ、俺のことを弟か子分かと思ってやがるな。
赤くなっているだろう顔をごまかすように、髪をかきむしりながらそっぽを向く。
ああ、何で俺はこんなにも桃子に弱いんだろう? 少しぐらい強く出ないと、男の面子にかかわるぞ。
「言いだしっぺは私だからさ、良かったら私も手伝うよ? 料理上手な青葉くんに、料理のことも教わりたいしね。今度、水樹の家に遊びに行ってもいい?」
「え? ウチに来るの?」
「ダメなの?」
「ううん、全然いい! おいでよ、俺んちにさ!」
桃子が家に遊びに来てくれたら、きっともっと仲良くなれる。つまらない毎日が、楽しくなるぞ。
少しぐらい強く言ってやるぞ、と思ったのも忘れ、餌につられた犬のごとく大喜びしてしまった。ああ、俺は桃子にとことん弱いらしい。まぁ、楽しいからいいけどね。
「あれ、桃子は何で青葉が料理上手って知ってんの?」
「この前、スーパーで会ったの。カレーの作り方を教わったんだ。青葉くん、ちょっと人を寄せ付けない雰囲気あるけど、話してみると優しくて、細かなところまで気を遣ってくれるのね」
「ふーん……。そりゃ、ようございました」
桃子にだけは、俺の目の前で青葉のことをほめてほしくなかった。唇を噛みしめながら、桃子を責めたくなる気持ちを抑える。
「そーんな顔しないの、水樹。青葉くんは青葉くん、水樹は水樹でしょ? 水樹はちょっとガサツだけど、気は優しいって知ってるから。照れ屋で可愛いしね」
「俺はガサツじゃねーよ。ガサツなのは桃子だろ?」
「じゃあ、似た者同士だね、私たち」
屈託のない笑顔を見せつけられ、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。
ああ……ダメだ。もう気付いてしまった。
認めよう。俺は、桃子が好きだ。ちょっと生意気だけど、可愛くて、素直で明るい桃子。俺はそんなコイツに、たまらなく弱いんだ。
「じゃあ、今から青葉くんとの仲直り作戦を練りましょう!」
「はいはい、わかりましたよ」
桃子への感情が何なのか自覚した俺は、隣を歩く桃子への愛しさに心を揺さぶられながら、共に歩いたのだった。
0
あなたにおすすめの小説
夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い
青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。
神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。
もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。
生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。
過去世と同じ轍を踏みたくない……
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
生きるために逃げだした。幸せになりたい。
白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。
2020/9/19 第一章終了
続きが書け次第また連載再開します。
2021/2/14 第二章開幕
2021/2/28 完結
【完結】黒の花嫁/白の花嫁
あまぞらりゅう
恋愛
秋葉は「千年に一人」の霊力を持つ少女で、幼い頃に龍神――白龍の花嫁として選ばれていた。
だが、双子の妹の春菜の命を救うために、その霊力を代償として失ってしまう。
しかも、秋葉の力は全て春菜へと移り、花嫁の座まで奪われてしまった。
それ以来、家族から「無能」と蔑まれながらも、秋葉は失われた力を取り戻すために静かに鍛錬を続けていた。
そして五年後、白龍と春菜の婚礼の日。
秋葉はついに霊力が戻らず、一縷の望みも消えてしまった。
絶望の淵に立つ彼女の前に、ひとりの青年が現れる。
「余りもの同士、仲良くやろうや」
彼もまた、龍神――黒龍だった。
★ザマァは軽めです!
★後半にバトル描写が若干あります!
★他サイト様にも投稿しています!
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
三年の想いは小瓶の中に
月山 歩
恋愛
結婚三周年の記念日だと、邸の者達がお膳立てしてくれた二人だけのお祝いなのに、その中心で一人夫が帰らない現実を受け入れる。もう彼を諦める潮時かもしれない。だったらこれからは自分の人生を大切にしよう。アレシアは離縁も覚悟し、邸を出る。
※こちらの作品は契約上、内容の変更は不可であることを、ご理解ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる