あおとみずいろと、あかいろと

蒼真まこ

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みずいろの章 水樹

君が誰より愛しくて

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 桃子とはすぐに仲良くなった。気さくで明るい桃子は話しているだけで楽しく、一緒にいると時間を忘れてしまいそうだった。境遇は違えど、家庭に事情を抱えているところに共感する部分も多く、話が合うことが嬉しかった。

「桃子はえらいなぁ。家の家事を支えてるんだろ? 俺なんて青葉に任せたまんまだよ」

 学校からの帰り道を桃子と一緒に歩くのは、俺にとって一番の楽しみとなっていた。

「水樹も手伝えばいいでしょ、何で手伝わないの?」

 痛いところを、つっこまれてしまった。

「だってよぉ。俺は青葉とちがって要領悪いし、不器用だし、俺がいると邪魔になるだけだから……」
「それは言い訳でしょ? やれるかどうかよりも、まずは手伝いたいって気持ちが大事よ」

 正論だった。青葉に言われるとムキになって反論するのに、桃子に言われると素直に従いたくなる。不思議と逆らえないのは、なぜなんだろう?

「うん、桃子の言う通りだね。これからは俺にできる形で手伝っていくよ」
「えらい、えらい。水樹くんは素直で、いい子だね」
「あのなぁ、ガキ扱いすんなよ」
「ガキじゃないよ、可愛い弟って感じかな?」
「おとうと……おい! 俺は桃子と同じ歳、同学年だっつの!」
「あはは、そうだった、忘れてたよ!」

 少々口が悪いところもあるけど、それでも桃子はいいヤツだと思う。うん、たぶん。

「弟で思い出したけど、兄貴の青葉くんと水樹って、仲悪いの?」

 直球で心をえぐる質問をされ、さすがの俺もしばし言葉を失った。桃子は大きな目をくりくりとさせながら、じぃっと俺を見つめてくる。

「あのさぁ……もうちょっとこう、オブラートに包むっていうか、少しは気を遣って言えないわけ?」
「なによ? 本当はすごく仲が良いとか?」
「いや、それはその、確かに青葉とは最近仲は良くないけどさ……」
「じゃあ、当たってるじゃない。友だちなんだから、気を遣って聞くことじゃないでしょ?」

 全く悪びれることのない桃子の発言に少し呆れそうになるものの、確かに青葉とは不仲だしな、と納得してしまう自分がいる。俺はどこまで桃子に弱いのやら。自分でも情けなくなる。

「私、一人っ子だからさ。兄弟姉妹に憧れてるの。いざとなったら助け合えるのは、やっぱり家族だと思うし。だから水樹が青葉くんと仲が悪いなら、仲直りしてほしいな、って思う。家のことがいろいろ大変なら尚更だよ。兄弟で助け合わないと。私の言ってること、まちがってる?」
「……まちがってない。正論だよ」
「でしょ? じゃあ、青葉くんと仲直りしなよ!」
「いや、いきなりそう言われてましても……」

 そんなに簡単に仲が良くなれたら、俺だって苦労はしない。青葉と助け合っていくべきなのはわかるけど、急に素直になんてなれるはずがないじゃないか。一人っ子の桃子には、兄弟の、ましてや双子の複雑な感情とか理解できるはずがないんだ。
 うつむきながら、ぶつぶつと小声で文句を言う。何で面と向かって言えないんだ、俺は。
 桃子は体を横に傾け、俺の顔を覗き込むように、上目遣いで見つめてくる。

「な~にを、ひとりでごにょごにょ言ってるのかな? 水樹くんは、お兄ちゃんと仲直りできませんかぁ?」

 少し甘えるように首を傾けながら、じっと見つめてくる桃子。やや茶色い髪が揺れ、ほんのり甘い香りが漂ってくる。制服の襟元にもつい目が行ってしまい、顔と体が一気に火照ってくるのを感じた。

「わ、わかったよ! 青葉とはなんとか仲直りする。これでいいか?」

 堪らず叫ぶように答えると、桃子は体を元に戻し、にんまりと笑った。

「素直でよろしい! 水樹くんはいい子ですね」

 くっそ、やっぱりこいつ、俺のことを弟か子分かと思ってやがるな。
 赤くなっているだろう顔をごまかすように、髪をかきむしりながらそっぽを向く。
 ああ、何で俺はこんなにも桃子に弱いんだろう? 少しぐらい強く出ないと、男の面子にかかわるぞ。

「言いだしっぺは私だからさ、良かったら私も手伝うよ? 料理上手な青葉くんに、料理のことも教わりたいしね。今度、水樹の家に遊びに行ってもいい?」
「え? ウチに来るの?」
「ダメなの?」
「ううん、全然いい! おいでよ、俺んちにさ!」

 桃子が家に遊びに来てくれたら、きっともっと仲良くなれる。つまらない毎日が、楽しくなるぞ。
 少しぐらい強く言ってやるぞ、と思ったのも忘れ、餌につられた犬のごとく大喜びしてしまった。ああ、俺は桃子にとことん弱いらしい。まぁ、楽しいからいいけどね。

「あれ、桃子は何で青葉が料理上手って知ってんの?」
「この前、スーパーで会ったの。カレーの作り方を教わったんだ。青葉くん、ちょっと人を寄せ付けない雰囲気あるけど、話してみると優しくて、細かなところまで気を遣ってくれるのね」
「ふーん……。そりゃ、ようございました」

 桃子にだけは、俺の目の前で青葉のことをほめてほしくなかった。唇を噛みしめながら、桃子を責めたくなる気持ちを抑える。

「そーんな顔しないの、水樹。青葉くんは青葉くん、水樹は水樹でしょ? 水樹はちょっとガサツだけど、気は優しいって知ってるから。照れ屋で可愛いしね」
「俺はガサツじゃねーよ。ガサツなのは桃子だろ?」
「じゃあ、似た者同士だね、私たち」

 屈託のない笑顔を見せつけられ、俺はそれ以上何も言えなくなってしまった。

 ああ……ダメだ。もう気付いてしまった。
 認めよう。俺は、桃子が好きだ。ちょっと生意気だけど、可愛くて、素直で明るい桃子。俺はそんなコイツに、たまらなく弱いんだ。

「じゃあ、今から青葉くんとの仲直り作戦を練りましょう!」
「はいはい、わかりましたよ」

 桃子への感情が何なのか自覚した俺は、隣を歩く桃子への愛しさに心を揺さぶられながら、共に歩いたのだった。
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