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最終章 あおとみずいろと、あかいろと
愛してくれてありがとう、おじさん
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私の写真を楽しそうに撮りまくっている親バカな父だけれど、仕事で海外に行ってしまうことも多い。長期間になることも多く、本来は売れっ子で多忙な人なのだと思う。
父がいなくなると、芹沢家は落ち着きのある家に戻る。私とおじさんだけで静かに暮らしていた頃みたいだ。
父がいなくなると、私とおじさんは以前のように語り合う。
「おじさん。今晩は満月がきれいに見えるらしいよ。子供の頃みたいにお月見しながら話してもいい?」
「いいよ。朱里、ひょっとして水樹がいなくなって寂しくなった?」
「ぜ~んぜん! むしろ静かになって嬉しいぐらいだよ」
「はい、はい。そういうことにしておこうね」
「おじさん、全部わかってるみたいなこと言うのやめてよ~」
縁側で月を眺めながら、ココアを飲む。おじさんは珍しくビールを飲んでいる。
「おじさんがお酒飲むところなんて、初めて見た気がする。おじさん、本当はお酒好きなの?」
「最近少し飲むようになったよ。意外といいもんだね、ほろ酔い気分というのは」
「ふぅん。よくわからないけど、お酒飲んで気分が良くなるなら、たまには飲めばいいのに」
「朱里の前ではお酒を飲まないようにしてたんだよ。一応、親代わりだからさ」
「おじさん……」
「朱里がそんな顔しなくてもいいんだよ。お酒飲むのを控えていたのは、僕が勝手にしたことだから。親でもお酒飲んでる人はたくさんいるし、何も悪いことじゃない。あくまで僕なりに決めたことだよ」
おじさんは私のために、生活のいろんなものを犠牲にしてきたと思う。
本当は未婚で子どももいないのに、姪っ子である私を実の娘のように愛してくれた。
「あのね、おじさん。前から話したいことがあったの」
「なんだい、改まって」
「私ね、おじさんにすごく甘えていたと思うんだ。おじさんは優しくてカッコよくて知的で、自慢のおじさんだった。でもそのせいで、おじさんは誰かと恋愛したり、結婚したりできなかったんだよね。私がべったり甘えていたから」
私だって以前から自覚はあったのだ。おじさんに甘えすぎだって。
母親も父親も知らない不安と孤独感を、おじさんに満たしてもらっていた。おじさんもそれを知っているから、好きなだけ甘えさせてくれたのだと思う。おじさんがいてくれたから、私は何不自由なく、幸せに暮らしてこれた。
「おじさん。今までいっぱい愛情をくれてありがとう。おじさんのおかげで、私は少しも寂しくなかったし、すごく幸せだった。でもそろそろ、おじさんはおじさんの幸せを求めて。良い人がいたら恋愛したり、結婚してほしい。私のことは気にしなくていいから」
本当はずっと言いたいことだった。おじさんを早く解放してあげなきゃ、って思ってた。
おじさんと呼んではいるけど、今でも十分にイケメンだし、女性にも人気があるのは知ってる。
でも誰とも付き合わずに、私を育てることを第一優先にしてくれた。自分の幸せを二の次にして、私を守ってくれた。どれだけ感謝しても足りないぐらいだ。
「朱里は大人になったなぁ。最近ね、僕も感じてたんだよ。そろそろ子離れしないといけないなって。朱里と水樹も父娘らしくなってきたし、海斗くんもいるしね」
おじさんはビールを飲みながら、月を仰ぎ見る。その横顔は少し寂しげで、夜の闇に溶けていきそうだった。
「だけどな、朱里。ひとつだけ言っておくよ。『自分のせいで』って思うのは止めてくれ。朱里を育てることは、僕にとって幸せなことだったから。朱里の成長が僕の希望で、喜びだった。僕は朱里の実の父親ではないけど、育ての父だと思ってる。父なら娘の幸せを願うものだし、娘に申し訳ないなんて思ってほしくない」
それは痛いほど理解していた。
桃子お母さんが突然亡くなり、父の水樹も日本からいなくなってしまった。おじさんの心にぽっかり空いた穴を、私を育てることで少しでも満たしてくれたのなら、こんなに嬉しいことはない。
私とおじさんは共に助けないながら暮らすことで、お互いに欠けていたものを満たしていたのかもしれないね。
大好きなおじさん。カッコよくて優しくて、私の自慢のおじさん。
おじさんのことが大切だからこそ、私はおじさんから離れて生きていけるようにしなくてはいけないと思う。
だからどうか、伝えさせてください。
「私を育ててくれてありがとう、おじさん」
「こちらこそありがとう、朱里。これまで娘でいてくれて」
おじさんの大きな手が私の頭をくしゃくしゃと撫で回す。この仕草も、きっと最後だ。
そう思うと視界がぼやけてくる気がして、ごまかすように私も夜の月を眺めた。
涙でにじんだ月の光。優しくて穏やかな癒しの月明かりを、私は生涯忘れることはないだろう。
大好きなおじさんから、自立していくこと。
それがおじさんにできる、最初の恩返しなのだ。
おじさん。私を愛してくれて本当にありがとう。
あなたは私の、もうひとりの父親です──。
父がいなくなると、芹沢家は落ち着きのある家に戻る。私とおじさんだけで静かに暮らしていた頃みたいだ。
父がいなくなると、私とおじさんは以前のように語り合う。
「おじさん。今晩は満月がきれいに見えるらしいよ。子供の頃みたいにお月見しながら話してもいい?」
「いいよ。朱里、ひょっとして水樹がいなくなって寂しくなった?」
「ぜ~んぜん! むしろ静かになって嬉しいぐらいだよ」
「はい、はい。そういうことにしておこうね」
「おじさん、全部わかってるみたいなこと言うのやめてよ~」
縁側で月を眺めながら、ココアを飲む。おじさんは珍しくビールを飲んでいる。
「おじさんがお酒飲むところなんて、初めて見た気がする。おじさん、本当はお酒好きなの?」
「最近少し飲むようになったよ。意外といいもんだね、ほろ酔い気分というのは」
「ふぅん。よくわからないけど、お酒飲んで気分が良くなるなら、たまには飲めばいいのに」
「朱里の前ではお酒を飲まないようにしてたんだよ。一応、親代わりだからさ」
「おじさん……」
「朱里がそんな顔しなくてもいいんだよ。お酒飲むのを控えていたのは、僕が勝手にしたことだから。親でもお酒飲んでる人はたくさんいるし、何も悪いことじゃない。あくまで僕なりに決めたことだよ」
おじさんは私のために、生活のいろんなものを犠牲にしてきたと思う。
本当は未婚で子どももいないのに、姪っ子である私を実の娘のように愛してくれた。
「あのね、おじさん。前から話したいことがあったの」
「なんだい、改まって」
「私ね、おじさんにすごく甘えていたと思うんだ。おじさんは優しくてカッコよくて知的で、自慢のおじさんだった。でもそのせいで、おじさんは誰かと恋愛したり、結婚したりできなかったんだよね。私がべったり甘えていたから」
私だって以前から自覚はあったのだ。おじさんに甘えすぎだって。
母親も父親も知らない不安と孤独感を、おじさんに満たしてもらっていた。おじさんもそれを知っているから、好きなだけ甘えさせてくれたのだと思う。おじさんがいてくれたから、私は何不自由なく、幸せに暮らしてこれた。
「おじさん。今までいっぱい愛情をくれてありがとう。おじさんのおかげで、私は少しも寂しくなかったし、すごく幸せだった。でもそろそろ、おじさんはおじさんの幸せを求めて。良い人がいたら恋愛したり、結婚してほしい。私のことは気にしなくていいから」
本当はずっと言いたいことだった。おじさんを早く解放してあげなきゃ、って思ってた。
おじさんと呼んではいるけど、今でも十分にイケメンだし、女性にも人気があるのは知ってる。
でも誰とも付き合わずに、私を育てることを第一優先にしてくれた。自分の幸せを二の次にして、私を守ってくれた。どれだけ感謝しても足りないぐらいだ。
「朱里は大人になったなぁ。最近ね、僕も感じてたんだよ。そろそろ子離れしないといけないなって。朱里と水樹も父娘らしくなってきたし、海斗くんもいるしね」
おじさんはビールを飲みながら、月を仰ぎ見る。その横顔は少し寂しげで、夜の闇に溶けていきそうだった。
「だけどな、朱里。ひとつだけ言っておくよ。『自分のせいで』って思うのは止めてくれ。朱里を育てることは、僕にとって幸せなことだったから。朱里の成長が僕の希望で、喜びだった。僕は朱里の実の父親ではないけど、育ての父だと思ってる。父なら娘の幸せを願うものだし、娘に申し訳ないなんて思ってほしくない」
それは痛いほど理解していた。
桃子お母さんが突然亡くなり、父の水樹も日本からいなくなってしまった。おじさんの心にぽっかり空いた穴を、私を育てることで少しでも満たしてくれたのなら、こんなに嬉しいことはない。
私とおじさんは共に助けないながら暮らすことで、お互いに欠けていたものを満たしていたのかもしれないね。
大好きなおじさん。カッコよくて優しくて、私の自慢のおじさん。
おじさんのことが大切だからこそ、私はおじさんから離れて生きていけるようにしなくてはいけないと思う。
だからどうか、伝えさせてください。
「私を育ててくれてありがとう、おじさん」
「こちらこそありがとう、朱里。これまで娘でいてくれて」
おじさんの大きな手が私の頭をくしゃくしゃと撫で回す。この仕草も、きっと最後だ。
そう思うと視界がぼやけてくる気がして、ごまかすように私も夜の月を眺めた。
涙でにじんだ月の光。優しくて穏やかな癒しの月明かりを、私は生涯忘れることはないだろう。
大好きなおじさんから、自立していくこと。
それがおじさんにできる、最初の恩返しなのだ。
おじさん。私を愛してくれて本当にありがとう。
あなたは私の、もうひとりの父親です──。
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