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すぅぷや鎌切亭はお客様をお待ちしております

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「琴羽さん、元カレさんと連絡できたかなぁ?」

 すぅぷや鎌切亭では、あやかし三つ子兄弟の末っ子で接客担当の紗切さぎりがテーブルを拭きながらつぶやいた。

「きっと連絡できてますよ。琴羽さんの思いが伝わると信じましょう」

 三つ子兄弟の長男であり、鎌切亭の店長でもある切也きりやが、穏やかに微笑んでいる。

「だけどよ、切ることしか能がない、かまいたちの俺たちが二人の関係を繋ぐことができたなら。こんなに嬉しいことはないよな」

 三つ子兄弟の次男であり鎌切亭の料理人刀流とうるが、包丁をきらりと光らせながら言った。

「切ることしか能がないのは刀流でしょ。僕には万能の薬という力があるんだから、一緒にしないでくれる?」
「紗切こそ、俺の代わりに包丁を握り、様々なスープを作るなんてできないだろ」
「うぅ、それはそうだけどさ。僕は愛される末っ子で癒やし担当だから、いいんだよぅ」
「なーにが愛される末っ子だ。三つ子なんだから俺たちは対等だ」

 少しばかり険悪な雰囲気になった弟二人をなだめるように、切也が刀流と紗切の間に入る。

「まぁまぁ、二人とも。紗切の塗り薬のおかげで琴羽さんは味覚が正常に戻り、刀流の作るスープを美味しくいただくことができたのですよ。刀流は琴羽さんの足を切りつけた時に彼女の記憶が頭の中に流れてきて、思い出のミネストローネを作ることができたのです。僕たち三人、誰が欠けてもダメなんです。あやかし三兄弟はこれからも、すぅぷや鎌切亭を守っていきましょう。それが神様からの命令でもあるのですから」

 切也きりや刀流とうる紗切さぎり。三つ子兄弟の正体は、あやかしのかまいたちであり、神の眷属となった者たちだ。すぅぷや鎌切亭で疲れた人々をもてなすように神から命じられ、今晩も人間が来るのを待っている。

「ですが人間という存在は、やっぱり面白いものですね。あれほど傷つき疲れていても、また前を向いて歩いていこうとする」
「人間が何度でも立ち上がる強さは、少しわかったような気もするが、やっぱりわからん」
「でも琴羽さん、可愛かったなぁ」

 それぞれに勝手なことを言いながらも、協力して鎌切亭を守っていく気持ちは変わらない。それがあやかし三つ子兄弟なのだ。


 ***


 人間であるあなた方に教えてほしいことがあるのです。
 傷つき疲れ果てても、再び立ち上がれる強さを。
 
 けれども疲れて立ち上がる気力さえ失ってしまったら。
 どうぞ、『すぅぷや鎌切亭』においでくださいませ。
 あやかし三つ子兄弟が、心を込めておもてなしさせていただきます。
 そして少しだけ教えてください。あなた方が強く生きられる理由を。
 悪戯することしかできない半端者の僕らが、いつか人間のように強くなれたらと願っているのです。

 あやかし三つ子兄弟は、今晩も人間のお客様を心よりお待ちしております──。


     了





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