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おすすめスープ 一皿目
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刀流さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、店内をゆっくり見回した。店内の壁にはお店のロゴマークらしき三本の鎌の絵が飾られている。三つ子だから、三本の鎌なんだろうか。だから鎌切亭? 店名から独特の注文方法まで不思議なレストランだ。
「お客様、お待たせ致しました。まずはわたくし店長の切也から、お勧めのスープです。付け合わせにミニサラダとロールパンもご用意させていただきました」
カウンターテーブルの隅に、スープとパン、ミニサラダが手際よく並べられていく。ロールパンは温めてくれたようで、こんがり焼き色が香ばしい。彩り豊かなサラダの上には焼いたベーコンが添えられていて、見た目のアクセントになっている。
ところがメインのスープを見た瞬間、私はぎょっとしてしまった。スープの色が鮮やかな緑色なのだ。中央にはトッピングなのか、色艶の良いグリーンピースが数粒浮かんでいる。
「あの、これは……」
嫌な予感がする。グリーンピースが浮かんでいるということは、まさかこのスープは……。
「こちらはグリーンピースのポタージュです。鮮やかなグリーンが新緑の季節にぴったりかと思いまして」
切也さんは穏やかに微笑みながら説明してくれた。今は若葉が美しい五月だ。季節的にはぴったりなのかもしれない。
けれど私は、グリーンピースが世界で一番嫌いな食べ物なのだ。
雄太にも、「グリーンピースが嫌いだなんて、琴羽は子どもみたいだな」ってよく笑われたものだ。それでもグリーンピースが料理の付け合わせに出たときは、彼が全部食べてくれたものだ。
……って、私なんで雄太のことを思いだしてるの? 彼との関係はもう終わってしまったのに。
「お客様、いかがされましたか? グリーンピースが苦手でしたら取り下げますが……」
グリーンピースのポタージュを見つめたまま動かない私を、切也さんは心配そうに見つめている。
「すみません。緑色のスープってあまり食べたことがないので珍しくて。きれいなグリーンですね」
「そうでしょう? この色味を味わっていただくために、あえて他の具は入れておりません。少しだけでも結構ですので、召し上がってみてください。無理でしたらすぐに次のスープと取り換えますから」
どうやら切也さんには、私がグリーンピースが苦手なことを見抜かれてしまっているみたいだ。
確かにグリーンピースは嫌いだけれど、最初のお勧めスープとして出してくれた料理を一口も食べないのは、さすがに申し訳ない。せめて少しだけでも頂こう。
覚悟を決めてスプーンを握りしめると、緑色のスープをそっとすくいとる。トッピングのグリーンピース本体だけは、こそっとよけて。
私もいい大人なんだから、グリーンピースぐらい克服してみせる。子どもみたいな味覚だなんて言わせないんだから。味覚が鈍くなってる今の私なら、嫌いな食材でもきっと平気だ。
「い、いただきます」
鮮やかなグリーンが目に眩しくて、軽く目を閉じ、口の中へとスプーンを運ぶ。とろりとした温かなスープが舌の上へと心地良く伝わり、グリーンピース独特の青臭い風味が口いっぱいにひろがって……。
「あ、あれ?」
苦手な匂いと風味を、口の中に感じないのだ。スープになっているからか、豆ならではのパサつきも感じない。なめらかな口当たりのせいか、するりと喉の奥へと流れ落ちていく。
「お、おいしい……? このスープ、私でも食べられる、の?」
自分の味覚だけれど、とても信じられない気がする。「美味しい」が消えた私の食生活。ましてや私はグリーンピースが苦手なのだ。なのに今はグリーンピースのポタージュを「美味しい」と感じた。
ひょっとして私の勘違いなのでは? だって私の鈍くなった舌だよ?
自分の感覚を疑い、ポタージュを再び口の中へと運ぶ。青臭いどころか、コクがあって優しい味わいを舌の上に感じ、私の体の中へと静かに拡がっていく。
自分の嫌いな食材だと意識したことで、かえって舌の感覚が戻ってきたのだろうか。音楽の演奏のように、食材たちがハーモニーを奏で、極上のスープという形に調和されているのを感じるのだ。命をいただいてる……。そう思えた。
「おいしい……美味しいです!」
嬉しくて思わず叫んでしまった。「美味しい」って感じるたび、心に少しずつ力が湧いてくる。体が食べ物を喜んでいるのを感じる。
ああ、「美味しい」ってこんなにも幸せで大切なことだったんだ。
「それはようございました。ご満足いただけて嬉しいです」
グリーンピースのポタージュを出してくれた切也さんが、ほっとした表情で微笑んでいる。
「すみません、大きな声をだしてしまって」
「いえいえ、結構ですよ。むしろ光栄です」
「実は私、グリーンピースが苦手で。でもこのポタージュはとても食べやすいし、何より美味しいです!」
「ええ。お客様がグリーンピースが苦手なことは気づいておりましたよ」
銀縁眼鏡を片手でくいっと押し上げながら、切也さんは得意気に説明してくれた。
「失礼ですが、お客様の今の状態を見るかぎり、こってりした油ものよりも、体に優しいものがいいと思いまして。鶏肉をよく煮込んで作ったチキンストックをベースにグリーンピースを軽く煮てからミキサーにかけて網でこし、豆乳で仕上げております。豆乳ならではの優しい味わいがグリーンピースによく合いますでしょう?」
「はい、とても。グリーンピースって食べ方次第でこんなにおいしくなるんですね。雄太にも食べられたよって言ってやらなきゃ……あっ」
苦手なグリーンピースを克服できたこと、何より久しぶりに「美味しい」と感じられたことが嬉しくて、つい余計なことまで口走ってしまった。
なぜまた雄太のことを思いだしてるの? とっくに終わってる恋なのに。
「すみません、変なこと言ってしまって」
「かまいません。それよりもお辛そうなお客様のことが心配です。もしよろしければなのですが、お話しいただけませんか? 誰かに聞いてもらったほうが気持ちの整理ができたりしますよ」
第三者に話すことで、自分の気持ちを見つめ直すことができる気がした。有効な方法だと思う。私も人の話をよく聞くから、理解できる。
今晩これほど雄太のことを思い出してしまっているのは、心に迷いがある証拠だ。
「僕や刀流も聞きますよー。愚痴るつもりでお気軽に。でも無理だけはしないでくださいね」
紗切さんがお茶を追加してくれながら、朗らかな笑顔で話してくれた。キッチンのほうでは刀流さんが料理をしながら、無言でうなずいている。
切也さん、刀流さん、紗切さんの三人が、それぞれの形で私を気遣ってくれているのがわかる。話してみようか。今晩だけは誰かに話を聞いてほしい。
「では聞いてもらってもいいですか?」
「はい。どうぞ」
ポタージュを飲み終えたところでスプーンを横に置き、ゆっくり話し始めた。
「実は少し前に六年つきあった彼と別れたんです。お別れしても平気だと思ってたんですけど、このところ食事を美味しいと思えなくて。最近はぼんやりすることも増えてます。自分でもどうかしてるって思いながらも、何もできませんでした。今思えば、とても悲しかったのだと思います。それを認めたくなかったのかも」
うんうんとうなずきながら、切也さんたちは話を聞いてくれた。
「それはお辛かったですね。心に傷を負われ、体も心も疲れてしまったのでしょう。食事を楽しめなかったのは、お客様の体が、『少し休んで』と知らせていたのかもしれませんね」
私の体はずっと私自身に伝えてくれていたのだ。心が深く傷ついていると。
「少しお休みをとられるといいと思いますが、難しいですか?」
「まとまった休みをとれたらいいのですが、仕事が忙しくて」
「そうですか……」
切也さんも悲しそうな顔をしている。
忙しいのも疲れているのも私だけではないから、無理を言って休みをとるのは申し訳ない気がした。
「仕事なんて、辞めてしまえばいいのに」
「え……?」
紗切さんが、ささやくように言った。紗切さんのほうへ顔を向けると、いたずらっぽい笑顔で私を見つめている。
「仕事、辞めちゃいなよ、琴羽さん。人間はね、働きすぎなんです。そうでしょ?」
「で、でも。仕事は大切なことですし」
「どうしても働きたければ、僕らと『鎌切亭』で、のんびり楽しく働けばいいんですよ。僕、琴羽さんのこと気に入ってしまいました。ずっと一緒にいたいな」
にっこりと笑う紗切さんの言葉が、私の心に深く突き刺さる。彼の笑みが私の心を捕らえ、優しく包み込んでいく。
「だけど、今の仕事は私の子どもの頃からの夢で」
「それって体と心に不調をきたすほど大切なこと? 琴羽さんの夢ってなに?」
「私の夢は……あれ?」
私の仕事って、どんなことだった? 毎日どこで働いていたの? 私の夢って……なに?
紗切さんの人懐っこい笑顔と言葉を聞いていたら、自分自身のことがわからなくなってきた。
私、どうしてしまったのだろう?
「琴羽さん、そんなに傷ついてかわいそう。大切にしてあげるから、これからは僕らと一緒にいようよ。ね?」
「大切に、してくれる……?」
私は今、誰かに大切にされているのだろうか。
私は自分自身を大切に思えているのだろうか。
毎日毎日働き続けるだけで、大切にするという意味さえも、もうわからない気がする。
紗切さんの言葉を受け入れて、彼らと共にいると答えたら。私は楽になれるのだろうか?
ならもういっそのこと……
「はい」と返事をしようとした時だった。
「紗切、いい加減にしろ。お客様の心を乱すな」
ぶっきらぼうな台詞と共に、私の目の前に赤いスープが置かれた。赤いスープを運んできてくれたのは、鎌切亭の料理人だという刀流さんだった。
「これが俺からのお勧めのスープだ。一口でもいいから食べてみてくれ。今のあなたに一番必要なスープだと思う」
やや乱暴な言葉と共に提供されたのは、赤いトマトスープに玉ねぎ、セロリ、ニンジン、ジャガイモなどの様々な野菜がベーコンと共にたっぷり入った具だくさんのスープだ。傍らにはカットしたバケット。添えられたガーリックオイルが食欲をそそる。
「これ、ミネストローネですよね? でもこれは……」
「お客様、お待たせ致しました。まずはわたくし店長の切也から、お勧めのスープです。付け合わせにミニサラダとロールパンもご用意させていただきました」
カウンターテーブルの隅に、スープとパン、ミニサラダが手際よく並べられていく。ロールパンは温めてくれたようで、こんがり焼き色が香ばしい。彩り豊かなサラダの上には焼いたベーコンが添えられていて、見た目のアクセントになっている。
ところがメインのスープを見た瞬間、私はぎょっとしてしまった。スープの色が鮮やかな緑色なのだ。中央にはトッピングなのか、色艶の良いグリーンピースが数粒浮かんでいる。
「あの、これは……」
嫌な予感がする。グリーンピースが浮かんでいるということは、まさかこのスープは……。
「こちらはグリーンピースのポタージュです。鮮やかなグリーンが新緑の季節にぴったりかと思いまして」
切也さんは穏やかに微笑みながら説明してくれた。今は若葉が美しい五月だ。季節的にはぴったりなのかもしれない。
けれど私は、グリーンピースが世界で一番嫌いな食べ物なのだ。
雄太にも、「グリーンピースが嫌いだなんて、琴羽は子どもみたいだな」ってよく笑われたものだ。それでもグリーンピースが料理の付け合わせに出たときは、彼が全部食べてくれたものだ。
……って、私なんで雄太のことを思いだしてるの? 彼との関係はもう終わってしまったのに。
「お客様、いかがされましたか? グリーンピースが苦手でしたら取り下げますが……」
グリーンピースのポタージュを見つめたまま動かない私を、切也さんは心配そうに見つめている。
「すみません。緑色のスープってあまり食べたことがないので珍しくて。きれいなグリーンですね」
「そうでしょう? この色味を味わっていただくために、あえて他の具は入れておりません。少しだけでも結構ですので、召し上がってみてください。無理でしたらすぐに次のスープと取り換えますから」
どうやら切也さんには、私がグリーンピースが苦手なことを見抜かれてしまっているみたいだ。
確かにグリーンピースは嫌いだけれど、最初のお勧めスープとして出してくれた料理を一口も食べないのは、さすがに申し訳ない。せめて少しだけでも頂こう。
覚悟を決めてスプーンを握りしめると、緑色のスープをそっとすくいとる。トッピングのグリーンピース本体だけは、こそっとよけて。
私もいい大人なんだから、グリーンピースぐらい克服してみせる。子どもみたいな味覚だなんて言わせないんだから。味覚が鈍くなってる今の私なら、嫌いな食材でもきっと平気だ。
「い、いただきます」
鮮やかなグリーンが目に眩しくて、軽く目を閉じ、口の中へとスプーンを運ぶ。とろりとした温かなスープが舌の上へと心地良く伝わり、グリーンピース独特の青臭い風味が口いっぱいにひろがって……。
「あ、あれ?」
苦手な匂いと風味を、口の中に感じないのだ。スープになっているからか、豆ならではのパサつきも感じない。なめらかな口当たりのせいか、するりと喉の奥へと流れ落ちていく。
「お、おいしい……? このスープ、私でも食べられる、の?」
自分の味覚だけれど、とても信じられない気がする。「美味しい」が消えた私の食生活。ましてや私はグリーンピースが苦手なのだ。なのに今はグリーンピースのポタージュを「美味しい」と感じた。
ひょっとして私の勘違いなのでは? だって私の鈍くなった舌だよ?
自分の感覚を疑い、ポタージュを再び口の中へと運ぶ。青臭いどころか、コクがあって優しい味わいを舌の上に感じ、私の体の中へと静かに拡がっていく。
自分の嫌いな食材だと意識したことで、かえって舌の感覚が戻ってきたのだろうか。音楽の演奏のように、食材たちがハーモニーを奏で、極上のスープという形に調和されているのを感じるのだ。命をいただいてる……。そう思えた。
「おいしい……美味しいです!」
嬉しくて思わず叫んでしまった。「美味しい」って感じるたび、心に少しずつ力が湧いてくる。体が食べ物を喜んでいるのを感じる。
ああ、「美味しい」ってこんなにも幸せで大切なことだったんだ。
「それはようございました。ご満足いただけて嬉しいです」
グリーンピースのポタージュを出してくれた切也さんが、ほっとした表情で微笑んでいる。
「すみません、大きな声をだしてしまって」
「いえいえ、結構ですよ。むしろ光栄です」
「実は私、グリーンピースが苦手で。でもこのポタージュはとても食べやすいし、何より美味しいです!」
「ええ。お客様がグリーンピースが苦手なことは気づいておりましたよ」
銀縁眼鏡を片手でくいっと押し上げながら、切也さんは得意気に説明してくれた。
「失礼ですが、お客様の今の状態を見るかぎり、こってりした油ものよりも、体に優しいものがいいと思いまして。鶏肉をよく煮込んで作ったチキンストックをベースにグリーンピースを軽く煮てからミキサーにかけて網でこし、豆乳で仕上げております。豆乳ならではの優しい味わいがグリーンピースによく合いますでしょう?」
「はい、とても。グリーンピースって食べ方次第でこんなにおいしくなるんですね。雄太にも食べられたよって言ってやらなきゃ……あっ」
苦手なグリーンピースを克服できたこと、何より久しぶりに「美味しい」と感じられたことが嬉しくて、つい余計なことまで口走ってしまった。
なぜまた雄太のことを思いだしてるの? とっくに終わってる恋なのに。
「すみません、変なこと言ってしまって」
「かまいません。それよりもお辛そうなお客様のことが心配です。もしよろしければなのですが、お話しいただけませんか? 誰かに聞いてもらったほうが気持ちの整理ができたりしますよ」
第三者に話すことで、自分の気持ちを見つめ直すことができる気がした。有効な方法だと思う。私も人の話をよく聞くから、理解できる。
今晩これほど雄太のことを思い出してしまっているのは、心に迷いがある証拠だ。
「僕や刀流も聞きますよー。愚痴るつもりでお気軽に。でも無理だけはしないでくださいね」
紗切さんがお茶を追加してくれながら、朗らかな笑顔で話してくれた。キッチンのほうでは刀流さんが料理をしながら、無言でうなずいている。
切也さん、刀流さん、紗切さんの三人が、それぞれの形で私を気遣ってくれているのがわかる。話してみようか。今晩だけは誰かに話を聞いてほしい。
「では聞いてもらってもいいですか?」
「はい。どうぞ」
ポタージュを飲み終えたところでスプーンを横に置き、ゆっくり話し始めた。
「実は少し前に六年つきあった彼と別れたんです。お別れしても平気だと思ってたんですけど、このところ食事を美味しいと思えなくて。最近はぼんやりすることも増えてます。自分でもどうかしてるって思いながらも、何もできませんでした。今思えば、とても悲しかったのだと思います。それを認めたくなかったのかも」
うんうんとうなずきながら、切也さんたちは話を聞いてくれた。
「それはお辛かったですね。心に傷を負われ、体も心も疲れてしまったのでしょう。食事を楽しめなかったのは、お客様の体が、『少し休んで』と知らせていたのかもしれませんね」
私の体はずっと私自身に伝えてくれていたのだ。心が深く傷ついていると。
「少しお休みをとられるといいと思いますが、難しいですか?」
「まとまった休みをとれたらいいのですが、仕事が忙しくて」
「そうですか……」
切也さんも悲しそうな顔をしている。
忙しいのも疲れているのも私だけではないから、無理を言って休みをとるのは申し訳ない気がした。
「仕事なんて、辞めてしまえばいいのに」
「え……?」
紗切さんが、ささやくように言った。紗切さんのほうへ顔を向けると、いたずらっぽい笑顔で私を見つめている。
「仕事、辞めちゃいなよ、琴羽さん。人間はね、働きすぎなんです。そうでしょ?」
「で、でも。仕事は大切なことですし」
「どうしても働きたければ、僕らと『鎌切亭』で、のんびり楽しく働けばいいんですよ。僕、琴羽さんのこと気に入ってしまいました。ずっと一緒にいたいな」
にっこりと笑う紗切さんの言葉が、私の心に深く突き刺さる。彼の笑みが私の心を捕らえ、優しく包み込んでいく。
「だけど、今の仕事は私の子どもの頃からの夢で」
「それって体と心に不調をきたすほど大切なこと? 琴羽さんの夢ってなに?」
「私の夢は……あれ?」
私の仕事って、どんなことだった? 毎日どこで働いていたの? 私の夢って……なに?
紗切さんの人懐っこい笑顔と言葉を聞いていたら、自分自身のことがわからなくなってきた。
私、どうしてしまったのだろう?
「琴羽さん、そんなに傷ついてかわいそう。大切にしてあげるから、これからは僕らと一緒にいようよ。ね?」
「大切に、してくれる……?」
私は今、誰かに大切にされているのだろうか。
私は自分自身を大切に思えているのだろうか。
毎日毎日働き続けるだけで、大切にするという意味さえも、もうわからない気がする。
紗切さんの言葉を受け入れて、彼らと共にいると答えたら。私は楽になれるのだろうか?
ならもういっそのこと……
「はい」と返事をしようとした時だった。
「紗切、いい加減にしろ。お客様の心を乱すな」
ぶっきらぼうな台詞と共に、私の目の前に赤いスープが置かれた。赤いスープを運んできてくれたのは、鎌切亭の料理人だという刀流さんだった。
「これが俺からのお勧めのスープだ。一口でもいいから食べてみてくれ。今のあなたに一番必要なスープだと思う」
やや乱暴な言葉と共に提供されたのは、赤いトマトスープに玉ねぎ、セロリ、ニンジン、ジャガイモなどの様々な野菜がベーコンと共にたっぷり入った具だくさんのスープだ。傍らにはカットしたバケット。添えられたガーリックオイルが食欲をそそる。
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