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守りたい
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エリアス殿下の離宮に連れ込まれた私は、殿下の手で大きな寝台に寝かされた。
馬車の中で散々濃厚なキスを繰り返されて、意識が朦朧となりながらも、私は窒息という死の危険を前に、キスをしながら鼻呼吸をするという技をマスターした。自分で自分を褒めたい。自力で命の危機を乗り切った。
だがキスをしながら鼻呼吸をすると、どうしても鼻息が荒くなってしまい、その荒い鼻息が殿下の顔にかかってしまいそうになる。
鼻息だ、淑女の鼻息。
普通に考えて、ダメなやつだと思う。なんというか、めちゃくちゃ恥ずかしい。
だけど、こんな時どうすれば良いかなど、マナー講師も医学講師も誰も教えてくれなかった。
だが、後から考えると、それはまだ序の口というやつだった。
寝台に寝かされた私の上にエリアス殿下がのしかかり、濃厚なキスをしながら、殿下は器用にも私の着ている服を脱がそうとする。
いや、嘘でしょ?
こういう事は、侍女たちにお風呂に入れて貰って、隅々まで体を磨かれて、その上で致すことではないの??!いや、そのまえに…。
私は思わず殿下の下で暴れた。
「んんんーーーー!!」
殿下の胸をドンドンと叩き、必死に話がある事をアピールすると、殿下はようやく私の唇を解放してくれた。
「何?」
「何じゃ、ありませんわよ!! わたくし、こんなの聞いてませんわ」
「は?ふざけんな、ここまできてやめられるか!!」
ふざけんなじゃない。ぶざけているのはそっちだろと言いたい。
「殿下は曲がりなりにも王族。婚姻相手には清らかな体である事が求められます」
私の言葉に殿下は動きをとめた。
「清らかかどうか、どうやって確認する?」
「それはもちろん、初夜の翌日、血がついたシーツなどを…」
と、聞いた…ような気がする。
「知ってるか、公女様。処女膜はな、乗馬や護身術のような激しい運動をしただけで、簡単に破れる」
「え?!」
「しかも、確率的に血が出る方が少ない。処女膜が破れたと思われた血の大半は、下手くそな性行為のせいで粘膜が傷ついて出た血の可能性が高いんだ」
「まあ……。物知りですのね、殿下」
私の言葉にエリアス殿下はとてつもなく微妙な顔をする。
「貴族の政略結婚で、血が出なかった…婚姻無効だと揉めたり、ひどい時はなんの罪もない女性が修道院に入れられたり、平民に落とされたり。夫は自分の名誉の為に黙ってはいるが、血が出なかったので処女ではなかったと、妻となった女性を心の中で蔑み、他所に愛人を作るケースが多かったらしい」
「らしい…とは?」
「今より処女性が重視されていて、貴族の子息に閨教育の座学が徹底されていなかった頃は、そういう事もあったらしい。だが、その教育と、魔女の避妊薬のおかげで、我が国はかなり性に自由になった」
へぇ、閨教育。それはあれよね、王族や高位貴族の子息は王都の何処かにあるという特別な娼館で、高級娼婦に閨に関するあれこれを実技と座学で教えられるという。へー。ふーん。
「わたくしは初めてですので、何も知りませんの」
殿下の肩がピクリと揺れた。
「当たり前だ。初めてじゃなかったら、相手の男を殺してる所だ」
殿下は想像だけで勝手にお怒りで、彼の嫉妬を感じて思わず緩みそうになる頬の筋肉を叱咤する。これは有耶無耶にはさせない。
「殿下は?」
「は?」
「随分と手慣れていらっしゃるようですが、殿下ももちろん初めてですわよね?だってずっとわたくしのことがお好きだったのでしょう?」
殿下は数秒私を見つめた後、ふっと顔を背けた。……やっぱりね。
「わたくしはこういう事は初めてですし、外出して、そのまま攫われたんですのよ。体を清める時間くらいは頂きたいのです」
私は殿下の罪悪感に訴える方法を選ぶ事にした。ついでに男性の庇護欲をそそるであろう、縋るような視線を向ける。だが、殿下は数秒考えてから、
「無理、待てない」
と、あっけなく人のお願いを退けて、自らの着ていたシャツのボタンを外して上半身裸になった。
美しくしなやかな筋肉を纏った長躯に、整った顔に熱のこもった瞳で見つめられて、私はそのまま流されてしまいたい欲求にかられる。
いや、でもダメだ。
「あの、わたくし、ドロドロは嫌だと申しましたわ。ですから…」
「後で一緒に風呂に入れば良いだろ。レティシアは知らないだろうが、どうやってもドロドロにはなるんだ」
ええ、私は知らないけど、殿下は良くご存知のようね……と、言いたかった。でも、殿下に再びキスされて、私はあっけなく快楽に呑まれた。
けれど。情欲を秘めた目で私を見つめる殿下の美しい体に、いくつもの傷痕のようなものを見て、私は夢から覚めたように、一瞬にして正気に引き戻された。
後ろ盾の無い側妃の息子。ぬくぬくと守られて生きてきた自分とは違うのだと思い知らされた。
私の知らない所で、きっと何度も命の危険に晒されてきたのだろう。生々しい傷痕を見てしまうと喉の奥に、締め付けられたような鈍い痛みを感じた。
私は手を伸ばし、そっと肩にある一際大きな古傷に触れる。私の苦しげな表情に気づいた殿下は、ほんの少し苦笑した。
「もう痛くはないんだ。ただの傷だ」
「そう、ですか…。エリアス殿下が無事でいてくださって、こうして思いを知る事が出来て本当に良かった。ねぇ、殿下。私が殿下と婚姻を結べば、私は殿下を守る事ができるかしら?」
「守る? ……俺を?」
「ええ。私はあなたを苦しめる全てのものから、あなたを守りたい」
思わずこぼれた言葉は、祈りにも似ていて……。
エリアス殿下が目を見開き、そしてほんの少し泣きそうな顔で笑った。
「君が俺の特別だと自覚するずっと前から…。君という存在に、俺はずっと守られていたよ。君が俺を見て笑ってくれるだけで…」
生きていられる…。
殿下は私を強く抱きしめて、耳元で囁いた。
馬車の中で散々濃厚なキスを繰り返されて、意識が朦朧となりながらも、私は窒息という死の危険を前に、キスをしながら鼻呼吸をするという技をマスターした。自分で自分を褒めたい。自力で命の危機を乗り切った。
だがキスをしながら鼻呼吸をすると、どうしても鼻息が荒くなってしまい、その荒い鼻息が殿下の顔にかかってしまいそうになる。
鼻息だ、淑女の鼻息。
普通に考えて、ダメなやつだと思う。なんというか、めちゃくちゃ恥ずかしい。
だけど、こんな時どうすれば良いかなど、マナー講師も医学講師も誰も教えてくれなかった。
だが、後から考えると、それはまだ序の口というやつだった。
寝台に寝かされた私の上にエリアス殿下がのしかかり、濃厚なキスをしながら、殿下は器用にも私の着ている服を脱がそうとする。
いや、嘘でしょ?
こういう事は、侍女たちにお風呂に入れて貰って、隅々まで体を磨かれて、その上で致すことではないの??!いや、そのまえに…。
私は思わず殿下の下で暴れた。
「んんんーーーー!!」
殿下の胸をドンドンと叩き、必死に話がある事をアピールすると、殿下はようやく私の唇を解放してくれた。
「何?」
「何じゃ、ありませんわよ!! わたくし、こんなの聞いてませんわ」
「は?ふざけんな、ここまできてやめられるか!!」
ふざけんなじゃない。ぶざけているのはそっちだろと言いたい。
「殿下は曲がりなりにも王族。婚姻相手には清らかな体である事が求められます」
私の言葉に殿下は動きをとめた。
「清らかかどうか、どうやって確認する?」
「それはもちろん、初夜の翌日、血がついたシーツなどを…」
と、聞いた…ような気がする。
「知ってるか、公女様。処女膜はな、乗馬や護身術のような激しい運動をしただけで、簡単に破れる」
「え?!」
「しかも、確率的に血が出る方が少ない。処女膜が破れたと思われた血の大半は、下手くそな性行為のせいで粘膜が傷ついて出た血の可能性が高いんだ」
「まあ……。物知りですのね、殿下」
私の言葉にエリアス殿下はとてつもなく微妙な顔をする。
「貴族の政略結婚で、血が出なかった…婚姻無効だと揉めたり、ひどい時はなんの罪もない女性が修道院に入れられたり、平民に落とされたり。夫は自分の名誉の為に黙ってはいるが、血が出なかったので処女ではなかったと、妻となった女性を心の中で蔑み、他所に愛人を作るケースが多かったらしい」
「らしい…とは?」
「今より処女性が重視されていて、貴族の子息に閨教育の座学が徹底されていなかった頃は、そういう事もあったらしい。だが、その教育と、魔女の避妊薬のおかげで、我が国はかなり性に自由になった」
へぇ、閨教育。それはあれよね、王族や高位貴族の子息は王都の何処かにあるという特別な娼館で、高級娼婦に閨に関するあれこれを実技と座学で教えられるという。へー。ふーん。
「わたくしは初めてですので、何も知りませんの」
殿下の肩がピクリと揺れた。
「当たり前だ。初めてじゃなかったら、相手の男を殺してる所だ」
殿下は想像だけで勝手にお怒りで、彼の嫉妬を感じて思わず緩みそうになる頬の筋肉を叱咤する。これは有耶無耶にはさせない。
「殿下は?」
「は?」
「随分と手慣れていらっしゃるようですが、殿下ももちろん初めてですわよね?だってずっとわたくしのことがお好きだったのでしょう?」
殿下は数秒私を見つめた後、ふっと顔を背けた。……やっぱりね。
「わたくしはこういう事は初めてですし、外出して、そのまま攫われたんですのよ。体を清める時間くらいは頂きたいのです」
私は殿下の罪悪感に訴える方法を選ぶ事にした。ついでに男性の庇護欲をそそるであろう、縋るような視線を向ける。だが、殿下は数秒考えてから、
「無理、待てない」
と、あっけなく人のお願いを退けて、自らの着ていたシャツのボタンを外して上半身裸になった。
美しくしなやかな筋肉を纏った長躯に、整った顔に熱のこもった瞳で見つめられて、私はそのまま流されてしまいたい欲求にかられる。
いや、でもダメだ。
「あの、わたくし、ドロドロは嫌だと申しましたわ。ですから…」
「後で一緒に風呂に入れば良いだろ。レティシアは知らないだろうが、どうやってもドロドロにはなるんだ」
ええ、私は知らないけど、殿下は良くご存知のようね……と、言いたかった。でも、殿下に再びキスされて、私はあっけなく快楽に呑まれた。
けれど。情欲を秘めた目で私を見つめる殿下の美しい体に、いくつもの傷痕のようなものを見て、私は夢から覚めたように、一瞬にして正気に引き戻された。
後ろ盾の無い側妃の息子。ぬくぬくと守られて生きてきた自分とは違うのだと思い知らされた。
私の知らない所で、きっと何度も命の危険に晒されてきたのだろう。生々しい傷痕を見てしまうと喉の奥に、締め付けられたような鈍い痛みを感じた。
私は手を伸ばし、そっと肩にある一際大きな古傷に触れる。私の苦しげな表情に気づいた殿下は、ほんの少し苦笑した。
「もう痛くはないんだ。ただの傷だ」
「そう、ですか…。エリアス殿下が無事でいてくださって、こうして思いを知る事が出来て本当に良かった。ねぇ、殿下。私が殿下と婚姻を結べば、私は殿下を守る事ができるかしら?」
「守る? ……俺を?」
「ええ。私はあなたを苦しめる全てのものから、あなたを守りたい」
思わずこぼれた言葉は、祈りにも似ていて……。
エリアス殿下が目を見開き、そしてほんの少し泣きそうな顔で笑った。
「君が俺の特別だと自覚するずっと前から…。君という存在に、俺はずっと守られていたよ。君が俺を見て笑ってくれるだけで…」
生きていられる…。
殿下は私を強く抱きしめて、耳元で囁いた。
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