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第二章
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しおりを挟む実の所、この国では仮面舞踏会などの遊び感覚の強い夜会では、パートナーがいない人が一人でやってきて、一夜の遊び相手を探す事も多い。その為、女性一人で入場しても何の問題もなかった。
そもそも、アリシティアは過去にも色々な夜会に潜り込んだ経験が数知れずある。
客として入ることもあるが、基本は使用人として紛れ込む事の方が多い。
とはいえ、今回は使用人としては潜り込む事はできなかった。選別がやたらきびしく、入る時には色々と面倒な手続きがあったので早々に諦めた。
そんなわけで客として潜り込む事を決めたのだが、責任感の強いレオナルドは、リカルドでは不安なので自分をパートナーにするようにと、食い下がってきた。
だが、無表情で黙っていてもキラキラオーラを放つレオナルドと夜会に潜り込むなど、どう考えても論外だ。
なにが悲しくて、なにもしなくても目立つ小説のキラキラメインヒーローを連れて、怪しげな夜会に忍び込まねばならないのか。こういうのは、モブ仲間のリカルドこそがちょうど良い。
などと、アリシティアはリカルドに対して、結構失礼な事を考えていた。
ちなみに、リカルドはどちらかというと可愛い系だ。見た目はそこそこだが、人が多いと適度に存在感が埋もれてしまうのが、アリシティアのモブ仲間として、とても好ましかった。
そんなわけで、どうせならとリカルド好みに変装したのが、今のアリシティアの姿だった。
本当はもっと肉感的な熟女ボディをお望みかもしれないが、露出が多いドレスでは意外とワガママボディの演出は難しいので、胸をこれでもかと寄せてあげて盛り盛りにする事で、なんとかカバーした。
だが馬車の中で、アリシティアが会場に入ったら一人で行動すると告げた途端に、なぜかリカルドは、説教くさく色々と制限をつけ始めた。
「そもそも、チューダー伯の仮面舞踏会って時点で怪しさ満載なの、わかってる?」
「もちろん」
リカルドの不満を含んだ言葉に、アリシティアは平然と頷いた。
「なのに一人で行動とか、もうね、俺からしたらありえないんだけど?」
「屑なのに、女の安全に気を配るなんて、おかしいわよ?」
「俺は総じて、胸のでかい女には優しい屑なんだよ」
「たしかにその発言、物凄く屑っぽいわ」
「なんか腹立つな」
リカルドが拗ねたように口を尖らせ、アリシティアはつい笑ってしまった。
「そもそもね、本当は一緒に入るだけ入って、男を侍らせる女王様のように振る舞おうとおもっていたのよ?なのに、口うるさい小姑がついてきてしまった気分だわ」
「小姑上等!後からバレて、ルイスや殿下達に殺されるよりマシだ」
「だから、ついて来なくて良いって言ったのに。招待状を交換しただけなら、殿下方には絶対にバレる要素はないのに。それにルイスは私には、それこそ嫁いびりする姑みたいに細かい嫌味を言うけど、貴方に文句を言ったりはしないわよ」
はーっと、ため息を吐くアリシティアの前に座るリカルドは、平民の裕福層のような、貴族が着る物よりはランクを落としたものを身に纏っている。
「…いや、それ本気で言ってる?」
怪訝そうな表情を浮かべるリカルドに、アリシティアは訳がわからないとでもいうかのように、眉間に皺を寄せた。
「まあいいわ。じゃあ、あなたは今から私の犬よ」
「犬?」
リカルドが上擦ったような声を上げるが、アリシティアは平然と頷いた。
「そうよ、女王様に忠実な犬」
「せめて人間にしてくれよ」
「もう、わがままな屑ね。屑は屑らしく、他人の心配なんてせずに、自分の欲望のためだけに生きてれば良いのよ」
「はっ! お前、本当に女王様だな」
リカルドはアリシティアの台詞に、思わずと言った感じで苦笑を漏らした。
「仕方ないわねぇ。じゃあ、下僕にしてあげる。私の命令は絶対よ。わかった?」
アリシティアはリカルドを女王様の下僕に任命する事にした。
「えぇ───」
リカルドが不満の声をあげるが、そればっかりは仕方がない。
パートナーがいるのに、男を侍らせるのは問題だが、下僕ならば女王様が男をはべらせても問題はない。必要なのは、多分この舞踏会の後にあると思われる二次会に招待してもらう事なのだから。
「私は…そうねぇ、ミレディ・ド・ウィンター。ミレディ様と呼んでね、リー」
アリシティアは、人を誘惑し魅了する声で名乗った。
仮面舞踏会でフルネームを名乗る事など、名前当てゲームに負けた時位だが、なんとなく名乗ってみたかったのだ。
前世の記憶の中の世紀の大作家が生み出した、人を魅了する声と絶世の美貌を持つ、女スパイの名前を。
馬車が止まり、ドアが開く。
アリシティアは手に持った仮面をつけて、リカルドに向けて嫣然と微笑んだ。
「さあ、マスカレードの始まりよ!!」
────────────────
ミレディ・ド・ウィンター
アレクサンドル・デュマの三銃士に出てくる、枢機卿の部下の女スパイ。
典型的なファム・ファタールだとも言われている。…のです。
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