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第二章
27.仮面舞踏会と女王様
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湖畔の離宮前に止まった馬車の扉が開くと、扉の前に待ち構えていた慇懃な使用人が恭しく礼をとった。先に馬車から降りたリカルドが、アリシティアに手を差し出しエスコートする。
リカルドが招待状を使用人に渡すと、彼は何箇所かチェックしてエントランスホールへと続く扉の方を見て頷く。それを見た扉の両サイドに立った二人の使用人によって、離宮内部へと続く巨大な扉が開かれた。
屑と女王様、二人の客の会場入りはとてつもなくあっけなくクリアした。
当たり前といえば当たり前だ。
2人が持ってきたこの仮面舞踏会への招待状は、リカルドが屑でろくでなしなお友達から手に入れた、正真正銘の正規の招待状なのだから。
離宮内部のパーティーホールの巨大なシャンデリアを眺めるふりをしながら、会場に入ったアリシティアはよくある夜会とは違った独特の空気感を肌で感じていた。
ここに訪れる者たちは、退屈な日々の中に色を添える刺激を求めている。
仮面で素顔を隠し、名前や身分を隠して、一夜の恋の相手を探すための駆け引きを楽しみ、大金をかけた刺激的なゲームに興じ、時には享楽的な薬を手に人目を忍んで物陰や庭園で背徳行為にふける。
そういった、非日常的な空間に身を落とし、危うさを楽しむ場所だった。
内部には綺羅びやかに着飾った者たちだけではなく、完全に仮装のような格好をした者や、リカルドのようにあえて身分がわからないように、衣装の仕立てのランクを落としているのだろうと思える者もいる。
ほかにも、公にはできない禁断の恋のお相手とベッタリと身を寄せあい、二人だけの世界を作り上げている者たちや、幾人もの男性を侍らせている女性など、様々な姿が目についた。
議会では、風紀を乱すため仮面舞踏会は中止すべきだという意見もある。
だが、アリシティアからすれば、風紀を乱すも何も、ここにいる人間は総じて同じ穴の狢で、ここを出れば、刺激のない日常へと戻る者ばかりだ。
だから、仮面舞踏会自体は、さしたる問題があるとは思えなかった。
皆それぞれ思い思いの仮面をつけていて、定番ともいえる派手な羽の装飾を施したものや蝶のシルエットを模したもの、他にはただ目の部分をくり抜いただけのシンプルな布を目の周りに巻いているだけの者まで様々だった。
ただ、前世で見た、精巧なベネチアンマスクのような物を付けている者は、それほど多くはなかった。
「なぁ、女王様。本当にこの夜会のあとの怪しいパーティーに潜り込む気か?」
髪の毛の色しか変えていないと思ったら、口元以外の鼻から上がすっぽりと隠れる、オペラ座の怪人のポスターのような、シンプルで真っ白なマスクをつけたリカルドが、アリシティアの耳元で囁いてきた。
「本当にそういうものがあればね。できれば、わざわざ情報を集めて潜り込むよりも、向こうから招待してほしいんだけど。
一応、いくつかの選択肢は選べるようにしているのだけど、うまくいくかしら? ……って、そんなことより女王様じゃなくて、ミレディ様って呼んでよ。だいたい、なんのために来たと思ってるの」
アリシティアのつけている鞣した茶色い革でできた仮面は、黒いレースと真珠や宝石が施され、同じ革とレースでできた薔薇が左側に飾られている。
左側の花の重みで、微妙にズレてきた仮面の位置を直しながら、アリシティアは押し殺した声で答えた。
「いや、知らないし。いい加減教えろよ。なんのためだよ?」
「そんな大事な事を、屑な下僕に教えるわけ無いじゃない」
「ああ、そーかよ」
リカルドは不満そうに、口元を尖らせた。
「ちょっと、貴方、実は口が悪いのね、リー。あなたは本来ならひざまづいて私の美しさを称えて然るべき立場で、私の哀れみでエスコートさせてあげているだけなのだから、隣に立たずに一歩後ろに控えていて頂戴」
「へーへー、我が女王陛下」
「ミレディ様よ」
「はいはい、ミレディ様。どうでもいいけど、もしあんたが言うように本当に乱交パーティーみたいなものがあって、潜り込めたとしても、あんたこそ平然としていられるのか?」
「私? 私の事なら心配は不要よ。私、見慣れてますから」
「はあ?」
─── ほとんどは前世の、しかも画面越しだけどね。
アリシティアの前世、AV大国日本では、ネットの18禁の小説や漫画を開くと勝手にAVサイトの広告が出てしまうし、押し間違えると勝手にアダルトなサイトに飛ばされる。
そのまま興味の向くままに、電脳世界の海を漂うと、ぼかし無しでアシカのような鳴き声を出す女優さんの動画が流れてきたり、どう見ても40過ぎた男性が「先生好きです」と、学生服でエロい女教師に詰めよるようなシチュエーションの、逆に萎えないのか心配になるような古臭い動画だって見放題だ。
何よりも、マニアックさで日本人に叶うものなどいないだろう。
アリシティアはTL小説の愛読者でもあるし、ドラマCDだって大量に聞いた。
多分ルイスのところの高級娼婦のお姉様達よりも、はるかに詳しい分野だってある。
「前立腺開発とか、SMとか、緊縛とか、触手とか、タコとか、タコ?いや、タコは違うか。大人の玩具とか、私は多分この国の誰よりも色々と詳しいわよ?」
日本に氾濫するアダルトな事情を考えれば、言い方は悪いがこの国の人間の性行為など、見ているだけならば犬の交尾と変わらない。それが大人数になったところでどうだと言うのだ。
アリシティアは間違いなく素のままでいられる自信があった。
リカルドが招待状を使用人に渡すと、彼は何箇所かチェックしてエントランスホールへと続く扉の方を見て頷く。それを見た扉の両サイドに立った二人の使用人によって、離宮内部へと続く巨大な扉が開かれた。
屑と女王様、二人の客の会場入りはとてつもなくあっけなくクリアした。
当たり前といえば当たり前だ。
2人が持ってきたこの仮面舞踏会への招待状は、リカルドが屑でろくでなしなお友達から手に入れた、正真正銘の正規の招待状なのだから。
離宮内部のパーティーホールの巨大なシャンデリアを眺めるふりをしながら、会場に入ったアリシティアはよくある夜会とは違った独特の空気感を肌で感じていた。
ここに訪れる者たちは、退屈な日々の中に色を添える刺激を求めている。
仮面で素顔を隠し、名前や身分を隠して、一夜の恋の相手を探すための駆け引きを楽しみ、大金をかけた刺激的なゲームに興じ、時には享楽的な薬を手に人目を忍んで物陰や庭園で背徳行為にふける。
そういった、非日常的な空間に身を落とし、危うさを楽しむ場所だった。
内部には綺羅びやかに着飾った者たちだけではなく、完全に仮装のような格好をした者や、リカルドのようにあえて身分がわからないように、衣装の仕立てのランクを落としているのだろうと思える者もいる。
ほかにも、公にはできない禁断の恋のお相手とベッタリと身を寄せあい、二人だけの世界を作り上げている者たちや、幾人もの男性を侍らせている女性など、様々な姿が目についた。
議会では、風紀を乱すため仮面舞踏会は中止すべきだという意見もある。
だが、アリシティアからすれば、風紀を乱すも何も、ここにいる人間は総じて同じ穴の狢で、ここを出れば、刺激のない日常へと戻る者ばかりだ。
だから、仮面舞踏会自体は、さしたる問題があるとは思えなかった。
皆それぞれ思い思いの仮面をつけていて、定番ともいえる派手な羽の装飾を施したものや蝶のシルエットを模したもの、他にはただ目の部分をくり抜いただけのシンプルな布を目の周りに巻いているだけの者まで様々だった。
ただ、前世で見た、精巧なベネチアンマスクのような物を付けている者は、それほど多くはなかった。
「なぁ、女王様。本当にこの夜会のあとの怪しいパーティーに潜り込む気か?」
髪の毛の色しか変えていないと思ったら、口元以外の鼻から上がすっぽりと隠れる、オペラ座の怪人のポスターのような、シンプルで真っ白なマスクをつけたリカルドが、アリシティアの耳元で囁いてきた。
「本当にそういうものがあればね。できれば、わざわざ情報を集めて潜り込むよりも、向こうから招待してほしいんだけど。
一応、いくつかの選択肢は選べるようにしているのだけど、うまくいくかしら? ……って、そんなことより女王様じゃなくて、ミレディ様って呼んでよ。だいたい、なんのために来たと思ってるの」
アリシティアのつけている鞣した茶色い革でできた仮面は、黒いレースと真珠や宝石が施され、同じ革とレースでできた薔薇が左側に飾られている。
左側の花の重みで、微妙にズレてきた仮面の位置を直しながら、アリシティアは押し殺した声で答えた。
「いや、知らないし。いい加減教えろよ。なんのためだよ?」
「そんな大事な事を、屑な下僕に教えるわけ無いじゃない」
「ああ、そーかよ」
リカルドは不満そうに、口元を尖らせた。
「ちょっと、貴方、実は口が悪いのね、リー。あなたは本来ならひざまづいて私の美しさを称えて然るべき立場で、私の哀れみでエスコートさせてあげているだけなのだから、隣に立たずに一歩後ろに控えていて頂戴」
「へーへー、我が女王陛下」
「ミレディ様よ」
「はいはい、ミレディ様。どうでもいいけど、もしあんたが言うように本当に乱交パーティーみたいなものがあって、潜り込めたとしても、あんたこそ平然としていられるのか?」
「私? 私の事なら心配は不要よ。私、見慣れてますから」
「はあ?」
─── ほとんどは前世の、しかも画面越しだけどね。
アリシティアの前世、AV大国日本では、ネットの18禁の小説や漫画を開くと勝手にAVサイトの広告が出てしまうし、押し間違えると勝手にアダルトなサイトに飛ばされる。
そのまま興味の向くままに、電脳世界の海を漂うと、ぼかし無しでアシカのような鳴き声を出す女優さんの動画が流れてきたり、どう見ても40過ぎた男性が「先生好きです」と、学生服でエロい女教師に詰めよるようなシチュエーションの、逆に萎えないのか心配になるような古臭い動画だって見放題だ。
何よりも、マニアックさで日本人に叶うものなどいないだろう。
アリシティアはTL小説の愛読者でもあるし、ドラマCDだって大量に聞いた。
多分ルイスのところの高級娼婦のお姉様達よりも、はるかに詳しい分野だってある。
「前立腺開発とか、SMとか、緊縛とか、触手とか、タコとか、タコ?いや、タコは違うか。大人の玩具とか、私は多分この国の誰よりも色々と詳しいわよ?」
日本に氾濫するアダルトな事情を考えれば、言い方は悪いがこの国の人間の性行為など、見ているだけならば犬の交尾と変わらない。それが大人数になったところでどうだと言うのだ。
アリシティアは間違いなく素のままでいられる自信があった。
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