余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

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第二章

36.スタミナ弁当と嵐の前の静けさ1※

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 騎士団内で起こった”魔女の惚れ薬事件”の翌日。アリシティアはガーフィールド公爵家のメイド姿で、騎士団の練習場を訪れていた。


 ”魔女の薬”が、王宮内の者達に、無作為に食べさせられたり飲まされたりすることは、さして珍しいことではない。

 魔女たちは特に騎士を実験体にする事を好むようで、定期的に騎士達は魔女の実験のターゲットに選ばれる。

 とはいえ、魔女たちが作る薬は奇妙な物が多く、しゃっくりが止まらなくなる薬やら、ひたすらメソメソと泣き出す薬など、「一体何のためにつくったんだ』と言いたくなるような薬が大半だった。

 だが、稀に古傷の痛みが消える薬や、慢性的な疲労がなくなる薬などもある。

 他にも大きな声では言えないが、勃起障害を治す薬など、対象を選んで試される事もある。そんな裏事情から、騎士達は文句を言いながらも、薬の実験体にされる事を概ね受け入れていた。






 
 今回、魔女の惚れ薬を口にした人物がリカルド・アウトーリだと耳にした時は、さすがのアリシティアも少しばかりは罪悪感を覚えた。

 考えるまでもなく、その惚れ薬を作り、騎士団内を恐怖と笑いの渦に巻き込んだ愉快犯は、アリシティアの友人で、オネェな魔女ベアトリーチェだろう。


 騎士団内ではいつもの魔女の実験に、リカルドが無作為に選ばれたと思われているようだった。だが、このタイミングで、ベアトリーチェお得意の惚れ薬がリカルドに使われたとなれば、無作為な訳はなかった。

 アルフレードから陰湿すぎる精神攻撃を受け、その後すぐに王弟であるガーフィールド公爵から泣き言のような圧力をかけられ、最後はとどめとばかりに、何故かベアトリーチェに惚れ薬を盛られる。
 
 そんな哀れすぎる騎士に、ちょっとした罪滅ぼしをしようと思ったアリシティアは、多分何も悪くはないはずだった。







 「ほんと、散々だったよ」

 晴れ渡った空の下、心地よい風が吹き抜けた。騎士団の練習場の近くの庭園で、リカルドはカツサンドを呑み込む。その隣からアリシティアに差し出された特製のスポーツドリンクを一気に飲みくだした。


「お前の周り、地雷だらけすぎるだろ?」
 
リカルドは吠えるように、アリシティアに文句を言う。

「それねぇ。今回は流石にちょっとは悪いと思って反省しているのよ?」

「ちょっとじゃなく、大いに反省しろ」

 メイド姿のアリシティアに文句をいうリカルドの前では、レオナルドは無言でカツサンドを食べながら、ウンウンと頷いてリカルドの言葉に同意する。

「はーい。大いに反省します」

 間延びしたアリシティアの返事に、リカルドとレオナルドは脱力するようにため息を吐いた。





 ゆっくりと薄い雲が流れる青い空の下。綿の入った敷物を地面に敷き、二人の騎士とアリシティアは、彼女の持ち込んだ差し入れを囲むように、地面に腰をおろしていた。


 貴族の子息や令嬢のマナーとしては、地面に座るなどあまり褒められたものではない。だが、リカルドとレオナルドは騎士服を着ていて休憩中だし、アリシティアはメイド姿で変装しているので、三人ともその辺りの事を気にしてはいなかった。


「でも、どういう経緯で魔女の惚れ薬なんて、食べちゃったの? あれ一つで、下手をすれば豪邸が買える代物よ?」

「はあ? それをお前が言うのか?」

 目を眇めたリカルドが非難のこもった視線をアリシティアに向けるが、彼女はきょとんとして、数度瞬きをした。



 惚れ薬の出所は間違いなくベアトリーチェだろうが、なぜリカルドが彼女のターゲットになったのかも、食べるまでの経緯も、アリシティアにはわからない。



「ルイスが騎士団の食堂に来たんだ」

 サンドイッチを飲み込んだレオナルドが、ぼそりとつぶやき、今度は唐揚げを口に入れる。

「え? ルイス様? 何で?」

 アリシティアは心底意味がわからないとでも言いたげな表情を、目の前の二人に向けた。


「なんでじゃねーよ。どんな手を使って魔女の惚れ薬なんか手に入れたのかは知らないが、ルイスあいつ俺たちがいつも使っている食堂にいきなりやって来て、俺の口の中にチョコレートを放り込んで行きやがったんだぞ。その後は思い出したくもない」

 一息に言い切ったリカルドは、マヨネーズをつけたからあげを口に放り込み、勢いよく咀嚼する。


 リカルドは伯爵家のお坊ちゃまで、貴族子息としての英才教育も一応は受けてはいる。だが彼は13歳から騎士団に所属しているため、先輩騎士達同様、完全に騎士特有の豪傑さに染まっていた。

 そんなリカルドの前でレオナルドが呆れたように口を開く。

「あれはお前に危機感がなさすぎたせいだと思うぞ。よりにもよって、あのルイスに『目を閉じて口を開けて?』なんて言われて、なんで素直に言うことをきくんだ? どう考えても怪しいだろ」

「んんんーー?!」

「口の中のものを飲み込んでからにしろ」

 口を閉じたまま反論しようとするリカルドに、レオナルドがため息を吐いた。

 リカルドは勢いよくからあげを咀嚼し、豪快に喉を鳴らして飲み込む。

「そう言うお前は、俺を残して逃げたよな」

 リカルドはレオナルドに向かって、眉間に思い切り皴を寄せ、渋い声で返した。



「あのなぁ、あのルイスが目を閉じたお前の口にチョコレートを放り込んだ上に、『三秒たったら目を開けてね』とか言い残して逃げ出したんだぞ?この場合は俺も逃げる一択だろう」

 レオナルドは珍しく 大きく息を吐き出した。そのため息の、半分は間違いなく呆れだった。

「くっそ、薄情者!!」

 レオナルドを睨みながらも、リカルドはルイスに“魔女の惚れ薬”を食べさせられた後の記憶は、完全に消すことにした。


 リカルドはぽやぽやふにふに巨乳ではなく、ガッチガチの雄っぱいに顔を埋めて、愛の告白をし、ムキムキマッチョ達に抱きついたのだ。それも複数人に。
そんな記憶は、リカルドにとって黒歴史という以外の何物でもなかった。
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