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第二章
2
しおりを挟むリカルドはこれ以上話したく無いとでもいう風に、無理矢理話題を変えた。
「これうまいな!!」
「あら、ありがとう」
頑張った料理は褒められると素直に嬉しい。アリシティアは微笑んだ。
「この外側サクサクの肉を挟んだサンドイッチもうまいけど、このじゅわっと肉の汁があふれる感じの…」
「唐揚げ」
「からあげに白いソースもうまいぞ、料理なんかできるんだな女王様」
「女王様じゃなくて、今はドールよ」
「おう、そうだった。近衛は騎士団でも花形だから、手作りの焼き菓子なんかを差し入れられる事はよくあるけど、自分で作った料理を差し入れられたのは初めてだよな、レオ」
「そう言えばそうだな」
リカルドの言葉にレオナルドは頷きながら、小さな蓋付きの容器を開ける。
容器の中にはレモンのはちみつ漬けがきれいに並んでいた。
「料理…というか、自分が食べたいものしかつくってはいないけどね?」
「食べたいものって…肉ばっかりだぞ? 女はウエストのサイズを気にして、野菜ばっかり食ってるもんじゃないのか?」
リカルドは目の前の籐のかごに改めて視線を向けた。カツサンド以外にも、からあげやミニハンバーグ、エビフライや甘い卵焼きなどが小分けにされて四角い食器に入って並んでいる。
あまり彩りに気を使っていない、ボリューム満点の茶色い弁当だった。
「私ね肉食獣なの。それに体型はあまり気にしてない」
「…気にしてなくてそのくびれかよ。ああ、でもお前戦うメイドだったな。動いてるから太らないのか? でもそれ、他の女に言うなよ? 絶対に嫌われるぞ」
アリシティアはリカルドの言葉に口を尖らせた。彼女は女神様から、転生チートとして、ブラなしでも垂れない巨乳にダイエットの必要ない身体を与えられていると思っている。だが、そんな事は誰にも言えるはずはない。
「うーー。言わないわよそんな事。そもそも私そういうおしゃべりができるような友達って、ほとんどいないし」
ほとんどではなく、正確には一人しかいないのだが。
「ああ、そりゃそうだろうな」
リカルドが納得するように頷く。そんなリカルドの反応に、アリシティアは思わず目を細めて睨みつけた。
「そこで納得されると、私ってものすごく寂しいやつみたいじゃない」
「寂しいやつっていうか、お前自覚してないかもしれないけど、ものすごく囲いこまれて…」
ふっとリカルドの言葉が途切れた。
それと同時に地面に座ったアリシティアの上に影がかかる。
アリシティアが上を見上げると、秀麗すぎる美貌が、地面の上に座る三人の真ん中に並ぶ料理を覗き込んでいた。
「ようルイス」
「ルイス!!! お前よくもあんなものを俺に食べさせてくれたな!!」
片手を上げて無表情で挨拶するレオナルドの隣で、リカルドが唸るような声を上げた。
そんなリカルドを見て、ルイスはその整いすぎた顔に甘ったるい微笑みを浮かべた。
「ああ、うん。なんかごめんね、リカルド。僕も、あんな小さなチョコレートが、魔女の惚れ薬だとは知らなかったんだ」
ルイスは悪びれる事なく、まったく心のこもっていない謝罪を口にする。
「知らないわけないだろ?」
「本当に知らなかったんだよ。だって、魔女の惚れ薬の価値って知ってる? 人からもらったチョコレートが、そんな価値のあるものだとは思わないだろ?」
ルイスはまったく悪びれることなく、平然としている。
「絶対に嘘だ」
「もう、信用ないなあ」
「お前のどこに信用できる要素があるか、教えてくれよ」
「ねえ、そんなことよりさ、これ、前に叔父上とエリアスが食べてたよね。もしかして、ドール、君が作ったの?」
「お前、そんなことなんて言葉で済ませるなよ。俺が可哀想過ぎるだろ」
拗ねたように文句を言うリカルドを完全に無視して、ルイスは地面に座るアリシティアをじっと見つめた。
ルイスがアリシティアに向けるその表情が持つ意味がわからず、アリシティアは思わず息を呑んだ。
「…そう、ですけど。それが何か?」
「……別に」
ルイスのはっきりしない答えに、アリシティアは目を眇めた。
「はあ…。あの、何か御用ですか、ラローヴェル候爵閣下」
「うん。これ」
ルイスは一通の封筒をアリシティアの視界にかざす。
「それ!!!」
ルイスの持つ封筒の裏の封蝋には、チューダー伯爵家の印章が捺されていた。
それを目にしたアリシティアが目を見開く。そんな彼女から視線をそらせたルイスは、二人の騎士に微笑みかけた。
「じゃあね、レオ、リカルド」
ルイスはそれ以上何も言わずに踵を返し、歩き去る。慌てて立ち上がったアリシティアは、急いでその後を追いかけようとした。
「まってください、閣下。…あ」
ふいに立ち止まったアリシティアは、振り返ってレオナルドが手に持ったままのレモンのはちみつ漬けの入った容器を指さした。
「公子様!! それ、運動の後に食べると、疲労回復に効果があります。あと、お酒を飲む前後に食べておくと、二日酔いにもなりにくいのでおすすめです。それでは、お先に失礼します。申し訳ありませんが、後片付けはお願いしますね」
言いたいことを言い切り、アリシティアはスカートをひるがえして、再びルイスの後を追って走り去った。
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