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第二章
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走り去るアリシティアの後ろ姿を目で捉えながら、レオナルドはぼそりと呟いた。
「……二日酔い防止だそうだ。今夜は飲みに行くか?」
「ああ」
リカルドが頷き、再び二人は料理に視線を戻した。
「よし、とりあえずは食うか」
何故か気合を入れるリカルドに、レオナルドは力なく笑った。
「しかし、ルイスも意外と苦労してるな」
ミニハンバーグにフォークをさしながら、リカルドが思い出したように苦笑する。
「そうだな」
「絶対、女王様の料理が羨ましかったんだぞ、あれ」
「だろうな」
「なんか、また嫌がらせされる気がするんだが、俺の気のせいか?」
「気のせいではないだろうな」
「やっぱりか。女王様は何であれで、ルイスに好かれてる自覚がないんだ?」
「あー、まあ普段の行いが悪いと、ああなるという見本だな」
「ふーん。てか、女王様はルイスの婚約者なのに、何で影の仕事なんてしてるんだ?」
「さあな。おれは命が惜しいから知りたくない」
「まあ、それもそうだな」
心地よい秋の風が吹き抜ける、見晴らしの良い庭園の片隅。ピクニックのように敷物に座り、談笑しながら食事をする二人の騎士の姿は、城で働く女性たちの熱い視線を集めていた。
そんな視線の意味になど、二人の騎士はまったく気付くことがなかった。
❋❋❋❋
「それを渡してください、閣下。伯爵様はその封筒を私に渡すようにと、お姉様への手紙に書いていたんですよね?」
アリシティアは手をだして、ルイスが手に持つ封筒を奪おうとする。
だが、彼女が封筒を掴む寸前、ルイスは封筒を持った手を頭上高くに上げた。
「ちょっと!! 子供の嫌がらせですか?!」
怒ったように文句を言いながら、アリシティアは手を伸ばすが、たとえヒールを履いていても、身長差のせいで彼の持った封筒には手が届かなかった。
「君にじゃないよ。リュディヴィアの知人の、ミレディと言う高級娼婦の女性だ」
「だからミレディは私の事ですと、先程も言いましたよね?」
「うん、聞いた。だけど、君はいつから高級娼婦になったの?」
ルイスはあざと可愛く小首を傾げた。口角を上げ、ほんの少しだけ垂れた目が細められる。
ルイスが手にしている封筒は、チューダー伯爵が仮面舞踏会で会った、ミレディと言う名の高級娼婦にあてた物だ。
「侯爵閣下には関係のない事です」
「へぇ?」
アリシティアが咄嗟に答えた時。彼女を見るルイスの目が、とてつもなく剣呑な眼差しに変わった。アリシティアはそっと息を呑み、伸ばしていた手を引く。
周囲の空気が冷たくなったような錯覚に陥った。思わず怯みそうになる。だが、ここでルイスに手紙を取り上げられてしまうと、わざわざ苦労してチューダー伯爵の仮面舞踏会に行き、彼に近づいた意味がなくなってしまう。
「もう一度聞くね? 君はいつから、僕の館の高級娼婦になったの?」
ルイスの声には有無を言わせぬ響きがあった。
ここでポロッと余計な事まで話してしまう様なミスを犯せば、再びルイスの怒りに触れる事になる。
「……そ、れは」
「うん、それは?」
「仮面舞踏会でたまたまリヴィアお姉様にお会いしたから、話を合わせて頂いただけです」
「……チューダー伯爵に高級娼婦の振りをして、自分を売り込んだの?どんな風にしたの? 身体を使ったりはしてないよね?」
思わず半歩後ずさると、ルイスは上げていた腕を下ろして、1歩前に出てくる。先程までよりも距離がグッと縮まった。
「か!!身体は、……使っていません。ただ、リヴィアお姉様の口添えで、伯爵様とダンスを踊りながらお話をしただけです。ダンスが終わると、すぐにリカルド様が迎えに来てくださいましたし…」
「またあいつ……」
息がかかる所まで近づいたルイスが、忌々しげに呟いた。その顔を見上げて、アリシティアは息を飲む。
睨むように細められたはずのタンザナイトの双眸からは、何故か凶悪な色香を感じる。近づけられた顔の圧倒的な造形美にアリシティアは怯みそうになった。
ふいにルイスの手が、アリシティアのピンクブロンドに染めた髪を一房抓んだ。それを指に絡める。
「本当に不愉快なんだけど…」
ルイスは呟きながら、指に絡めた髪を軽く引っ張った。
「なんでいつも……」
微かに切ない響きが含まれた言葉をルイスは飲み込み、指に絡めた髪の毛を離す。そのままルイスは、アリシティアの肩に顔を埋める。ルイスがふっと息を吐き出したのがわかった。
「閣下?」
十秒ほどの沈黙が続き、ルイスはゆるゆると頭を上げる。そして、諦めたようなため息と共に封筒を差し出してきた。
なぜ突然ルイスが大人しく封筒を差し出したのかよくわからない。だが、すかさず封筒を受け取ったアリシティアは、ルイスから逃げ出すように、一歩距離を取った。
「……二日酔い防止だそうだ。今夜は飲みに行くか?」
「ああ」
リカルドが頷き、再び二人は料理に視線を戻した。
「よし、とりあえずは食うか」
何故か気合を入れるリカルドに、レオナルドは力なく笑った。
「しかし、ルイスも意外と苦労してるな」
ミニハンバーグにフォークをさしながら、リカルドが思い出したように苦笑する。
「そうだな」
「絶対、女王様の料理が羨ましかったんだぞ、あれ」
「だろうな」
「なんか、また嫌がらせされる気がするんだが、俺の気のせいか?」
「気のせいではないだろうな」
「やっぱりか。女王様は何であれで、ルイスに好かれてる自覚がないんだ?」
「あー、まあ普段の行いが悪いと、ああなるという見本だな」
「ふーん。てか、女王様はルイスの婚約者なのに、何で影の仕事なんてしてるんだ?」
「さあな。おれは命が惜しいから知りたくない」
「まあ、それもそうだな」
心地よい秋の風が吹き抜ける、見晴らしの良い庭園の片隅。ピクニックのように敷物に座り、談笑しながら食事をする二人の騎士の姿は、城で働く女性たちの熱い視線を集めていた。
そんな視線の意味になど、二人の騎士はまったく気付くことがなかった。
❋❋❋❋
「それを渡してください、閣下。伯爵様はその封筒を私に渡すようにと、お姉様への手紙に書いていたんですよね?」
アリシティアは手をだして、ルイスが手に持つ封筒を奪おうとする。
だが、彼女が封筒を掴む寸前、ルイスは封筒を持った手を頭上高くに上げた。
「ちょっと!! 子供の嫌がらせですか?!」
怒ったように文句を言いながら、アリシティアは手を伸ばすが、たとえヒールを履いていても、身長差のせいで彼の持った封筒には手が届かなかった。
「君にじゃないよ。リュディヴィアの知人の、ミレディと言う高級娼婦の女性だ」
「だからミレディは私の事ですと、先程も言いましたよね?」
「うん、聞いた。だけど、君はいつから高級娼婦になったの?」
ルイスはあざと可愛く小首を傾げた。口角を上げ、ほんの少しだけ垂れた目が細められる。
ルイスが手にしている封筒は、チューダー伯爵が仮面舞踏会で会った、ミレディと言う名の高級娼婦にあてた物だ。
「侯爵閣下には関係のない事です」
「へぇ?」
アリシティアが咄嗟に答えた時。彼女を見るルイスの目が、とてつもなく剣呑な眼差しに変わった。アリシティアはそっと息を呑み、伸ばしていた手を引く。
周囲の空気が冷たくなったような錯覚に陥った。思わず怯みそうになる。だが、ここでルイスに手紙を取り上げられてしまうと、わざわざ苦労してチューダー伯爵の仮面舞踏会に行き、彼に近づいた意味がなくなってしまう。
「もう一度聞くね? 君はいつから、僕の館の高級娼婦になったの?」
ルイスの声には有無を言わせぬ響きがあった。
ここでポロッと余計な事まで話してしまう様なミスを犯せば、再びルイスの怒りに触れる事になる。
「……そ、れは」
「うん、それは?」
「仮面舞踏会でたまたまリヴィアお姉様にお会いしたから、話を合わせて頂いただけです」
「……チューダー伯爵に高級娼婦の振りをして、自分を売り込んだの?どんな風にしたの? 身体を使ったりはしてないよね?」
思わず半歩後ずさると、ルイスは上げていた腕を下ろして、1歩前に出てくる。先程までよりも距離がグッと縮まった。
「か!!身体は、……使っていません。ただ、リヴィアお姉様の口添えで、伯爵様とダンスを踊りながらお話をしただけです。ダンスが終わると、すぐにリカルド様が迎えに来てくださいましたし…」
「またあいつ……」
息がかかる所まで近づいたルイスが、忌々しげに呟いた。その顔を見上げて、アリシティアは息を飲む。
睨むように細められたはずのタンザナイトの双眸からは、何故か凶悪な色香を感じる。近づけられた顔の圧倒的な造形美にアリシティアは怯みそうになった。
ふいにルイスの手が、アリシティアのピンクブロンドに染めた髪を一房抓んだ。それを指に絡める。
「本当に不愉快なんだけど…」
ルイスは呟きながら、指に絡めた髪を軽く引っ張った。
「なんでいつも……」
微かに切ない響きが含まれた言葉をルイスは飲み込み、指に絡めた髪の毛を離す。そのままルイスは、アリシティアの肩に顔を埋める。ルイスがふっと息を吐き出したのがわかった。
「閣下?」
十秒ほどの沈黙が続き、ルイスはゆるゆると頭を上げる。そして、諦めたようなため息と共に封筒を差し出してきた。
なぜ突然ルイスが大人しく封筒を差し出したのかよくわからない。だが、すかさず封筒を受け取ったアリシティアは、ルイスから逃げ出すように、一歩距離を取った。
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