余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

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第二章

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 ベアトリーチェの刺すような視線は無視して、無邪気にアリシティアは話し続ける。

「あのね、私ベッドの上で男の人を押し倒すのが趣味なの。でも、男の人ってそういうのって、あり得ないじゃない? だから抵抗されないように、寝台の上で拘束するの」 
 
「…… 左様でございますか」 
 
 ランドルフは優雅な微笑みを一切崩さず、とりあえず相槌をうつ。 
 この国のシンプルな性事情はともかくとして、場所が場所だけにアリシティアの発言などたいした事ではないのだろう。
 
「でもね、気がついたら拘束具を外されて、私が押し倒されてるの。しかも無理矢理拘束具を外すから、この人いつも怪我しちゃうし。でも、こんなに芸術的な身体に傷をつけたくなんてないでしょう?だからねぇ。体の力を奪うようなお薬はない?意識はしっかりしてて、怪我をしないように、体だけ動けなくなるようなやつが欲しいの」 
 
 
 ベアトリーチェに体を預けたアリシティアは、気だるげに彼の顔を見上げ、その美しいアメジストの瞳に微笑みかけた。それに応えるように、ベアトリーチェはアリシティアの頬にかかった髪を耳にかける。
 
  
 しばし考えた後、ランドルフは優し気な口調でアリシティアに問いかけてきた。

「そういったものの類は、動かなくなると同時に、意識が朦朧としてしまうものです。ですがお嬢様は意識もしっかりと保つものをご所望でしょうか?」 
 
「そうよ、だって意識がはっきりしてなきゃ、意地悪なことしても反応して貰えないじゃない? 私がした事を忘れてしまわれるのも嫌。あ、もちろん体の感覚はしっかりあるやつね。そういう感じのお薬って、ある?」 
 
 アリシティアは彼女のあざと可愛い婚約者の真似をして、こてんと首を傾げて見せた。
 
「そんな君の趣味に合わせたような、都合の良い薬がある訳ないだろ?」 
 
 苦笑を浮かべながら、ベアトリーチェは煙管を手に持ち火をつける。
すぐそばの窓ガラスには、いつの間にか雨粒が打ちつけていた。
  

  
 ランドルフは少しだけ思案する様子をみせる。

「……そうですね。本来であれば手には入らないものですが、お嬢様がお望みであれば、提供させて頂く事は可能ではございます」 
 
 アリシティアは僅かに目を見開いた。だがすぐに、無邪気な子供のように喜んでみせる。 

「うれしい、本当にあるのね!!」 
 
「はい。お嬢様は伯爵様からの招待状をお持ちでしたので、特別に。ですが、くれぐれも口外はなさらないでくださいませ。ご使用もご本人様のみで、決して人に譲ったりなさらないと、お約束下さるのであれば…」 
 
 ランドルフはあえて声を低く落として、特別感を演出して見せた。
  
「約束するわ」 
 
 アリシティアはランドルフの言葉にかぶせ気味に返事をする。それに対して、ランドルフは鷹揚に頷いた。 
 
  
 
「元々数がとても少ないもので、本日は他のお客様が全てお買い上げになられてしまい、在庫を切らせております。ですが、本日より五日後以降でよろしければ、必ずご用意させて頂きます」 
 
 ランドルフはベアトリーチェの方をちらりとみる。決定権はベアトリーチェにあると思っているのだろう。その視線を受けて、ベアトリーチェは思案する様に口を開いた。 
 
  
 
「……そうか。それとは別の薬なのだけど、君はちまたで『恋人の本音がわかる薬』と呼ばれている物の存在を知っているか?」 
 
「ええ、もちろん存じております。ですが、あれは出回っている物の殆どが偽物ですね」 
 
 ランドルフはあえて困ったような表情で、肩をすくめた。

「ここであれの本物を手に入れる事はできるか? 私は、この私の可愛い子猫の本音が聞きたいのだが」 
 
「え? 酷いわ熊ちゃんったら、私の事信用してないの?」 
 
 ベアトリーチェの言葉を遮るように、アリシティアは彼の腕を掴む。そのまま、拗ねたように睨みつけた。 
 そんなアリシティアを見下ろして、煙管を置いたベアトリーチェは、彼女の頬を優しく撫でた。 
 
 
「もちろん信用している。だけど、もっと可愛い君を見てみたいだけだ。あの薬を飲んで素直になった寝台の上の君は、きっといつもよりも何倍も可愛い」 
 
 ベアトリーチェの口角は上がり、目も細められて弧を描いてはいる。けれど彼のその瞳の奥には、アリシティアだけに向けられた刃のような冷たさがあった。
 
  
 
「大変申し訳ございませんお客様。そちらの薬に関しましては、私共には入荷ルートがございません。私共と致しましても、薬師が気まぐれで卸して行くのを待つしかない状態でございます」 
 
「ですって、熊ちゃん。残念ね」

 ランドルフの言葉にアリシティアは興味なさげに、適当な相槌を打ちつつ、思考を巡らせた。 
 
 恋人の本音が分かる薬は、入荷ルートがない。
だが、過去にアリシティアが闇オークションで盛られた、体の動きを奪う薬に関しては、5日後には用意できる。
 
 それはつまり、この館には明確な入荷ルートが存在するということ。そして、恋人の本音がわかる薬が手に入らないと正直に言うのであれば、偽物を売ってはいないのだろう。 
 
 アリシティアが闇オークションで使われた、体の動きを奪う薬に関しては、令嬢誘拐に使われているという以外にも、一部貴族にレイプドラッグとしても使われている。
 薬で強姦された令嬢の多くは、PTSDの症状が出ているため、被害状況を話すこともままならない状態だという。

 その悪質さから、体の動きを奪う薬の取り扱いは、どこも厳密に隠している。アリシティアがチューダー伯爵の招待状を持っていたとしても、何故こんなにも簡単に初めて来た客に話すのか。アリシティアにはその理由がわからなかった。 
 
  
 
 
 
 アリシティアはベアトリーチェをちらりと見上げた。 

 ただ、今のベアトリーチェとランドルフの会話から推測できたことは、ベアトリーチェは間違いなく『恋人の本音がわかる薬』が、ここでは手に入らない事を知っていたということ。
 その上で、アリシティアの希望する薬の真偽と、入手ルートの有無を引き出す為に、恋人の本音がわかる薬を引き合いに出したのだろう。
 
 でなければ、ベアトリーチェが意味もなくそんな話題を出すわけはない。  
 
  
 
 つまりそれは、気まぐれに薬師が下ろしていく『恋人の本音がわかる薬』が、どういったルートで手に入るかを、ベアトリーチェは完全に把握しているという事だ。その意味する所は.…。 

 
──── やっぱり、あんたが薬を作った犯人だったんじゃないのよ!! 

 
 アリシティアは誰にも聞こえないように、小さく舌打ちした。 



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