余命一年の転生モブ令嬢のはずが、美貌の侯爵様の執愛に捕らわれています

つゆり 花燈

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第二章

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 アルフレードとレティシア・マクレガーは幼なじみだ。そのせいかレティシアとエリアスも仲が良い。

 けれど兄であるアルフレードの幼なじみ以上に、エリアスは幼い頃からずっとアリシティアを大切にしていた。
エリアスにとって、アリシティアは特別だと、ルイスはそう思っていた。


 アリシティアを抱き締めるルイスの腕に、無意識に力がこもる。それと同時に、アルフレードの冷たく硬質な声が響いた。

「エリアス。お前の心配を無くす為に、嵐の中で危険を犯してまで誘拐事件の情報を掴んできたアリシティアに、お前がそれをいうのか。レティシア・マクレガーをほんの少しの危険にも晒したくないからと、アリシティアにレティシアの身代わりとなり誘拐犯に捕らえられろと?では、その次は?アリシティアに何を望む?この子はお前に本気で頼まれると、決して嫌とは言わないだろう。その結果アリシティアは何を失うと思う? 」

 ルイスの腕の中のアリシティアは、アルフレードをじっと見つめる。

「……アルフレードお兄様。エリアスをしからないでください。私も同じことを考えたのに…」

「そうだね、そして私は君に許可しないと言った。それに、君が自ら言い出すのと、エリアスが君をレティシアの身代わりにすると言うのは訳が違う。だからアリシティア、君は口を出すな」

 エリアスを庇おうとしたアリシティアは押し黙った。俯くアリシティアを見て、アルフレードは全ての感情を覆い隠したような視線をエリアスに戻した。

「エリアス。レティシア・マクレガーの誘拐を請け負っている男たちは、アリシティア自身にどれだけの価値があるか、間違いなく知っている。誘拐を請け負っただけのレティシア・マクレガーとは違い、アリシティアがレティシア・マクレガーの身代わりで捕らえられたあと、手元にあるのがレティシアではなく、あの・・アリシティア・リッテンドールだと気づかれたらこの子はどうなると思う?」

 アルフレードの言葉に、エリアスは目を見開く。アリシティアへと向けたエリアスの顔は、一瞬にしてくしゃりと歪んだ。彼の瞳の中には後悔や不安、そして焦りが入り交じっていた。


「エリアス、お前はレティシア・マクレガーの危険を排除する為に、アリシティアに命を差し出せと言っているんだ」

「違う!!違う、俺はそんなつもりは!!」

「そんなつもりは無いのに、今の言葉の先にあるものを考えずに口にしたのか?」

「アリス、違う!!ごめん!!違うんだ、本当に俺はただ…」

 エリアスは不安の中、縋るような目をアリシティアに向ける。

 その姿を見れば、本当にエリアスはそこまで深く考えてはいなかったのだろうと、誰もが理解する。エリアスは何も考えず、アリシティアがいつもしている潜入調査の延長のように、思いついた方法を口にしただけだ。

 エリアスの顔が今にも泣き出しそうになる。自分の失言がどれ程に重いものかを理解したのだろう。そんなエリアスを見て、アリシティアは困ったように微笑んだ。

「違う、ごめんアリス。俺は……」

「大丈夫よ、全然気にしてないから」

 少しかすれたエリアスの声が、そんなつもりは無い……と、続けようとするのをアリシティアは遮った。

 全く傷ついてもいなければ、失望も落胆もしていないかのように。

 エリアスがアリシティアよりもレティシア・マクレガーを優先するのも、レティシアの代わりにアリシティアの命を差し出すような発言すら、当たり前だと言わんばかりに。


 そんなアリシティアを眺めながら、アルフレードはため息をついた。

「アリシティア、君はしっかりと気にしなさい。今のエリアスの愚かな発言は、普段の君の無謀な行動の影響でもあるんだよ。君は影としての教育を受けていたとしても、ただの伯爵令嬢だ。にも関わらず、君は死を恐れなさすぎる。君を見ていると、破滅型の英雄達を見ている気分になる時がある」


 アルフレードの言葉に、ルイスは弾かれたようにびくりと体を震わせた。その言葉の持つ意味に息を呑む。

 破滅型の英雄達は、自らの未来に価値を持たない。孤独で、何も欲しがらない。ただ、突き進めるところまで突き進み、英雄とよばれ、やがて戦場に散る。

 ルイスの腕の中で、アリシティアは微笑みを浮かべた。人形の様に美しく、儚く淡い笑みを。

「だけど、誰にだって他の全てを犠牲にしても守るべきものがあるでしょう?何も差し出さず、何も失わず、守りたいものを守れると思うのは、無知で高慢だと、今の私は知っています。リアスの1番・・はレティシア様。ただそれだけの事です」

 アリシティアが当たり前のように口にした言葉は、エリアスに対しての嫌味でもなんでもない。幼なじみで親友の言葉を、ただ当然の事として受け入れているようだった。
 そんなアリシティアの生の在り方を感じとり、ルイスの中に言いようのない不安が湧き上がる。ルイスの腕の中でアリシティアは、笑っているのに、会話しているのに、なぜかとても無機質に思えた。

 まるでケースの中に飾られた人形のように、ルイスにはアリシティアの心がどこにも見えなかった。
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