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第三章
【小休憩SS】王子様とアリス。皆の者、控えおろう!!…みたいな?話
しおりを挟む心地よい風が吹き抜ける中、美しい庭園の前で、アリシティアは大きな目にいっぱいの涙を浮かべていた。
「あー、泣かないでお嬢ちゃん。この先はとっても偉い人のお庭だから、中には入れてあげられないんだよ」
うさぎのぬいぐるみを抱いた、金の髪に青い瞳の小さな女の子に視線を合わせる為、騎士は背を屈める。
錬金術師の塔を出たアリシティアは、王太子の庭園に来ていた。もちろん髪と目の色は変えている。
アリシティアはこの庭が王弟の庭だった時から、自由に出入りできていたが、今のこの姿では案の定、入る前に止められてしまった。
「でも、今日ここでお茶会のお約束してるの。だから中に入れて貰わないと、遅刻しちゃうの」
幼い姿のアリシティアは目をうるうるとさせて、騎士に訴える。庭園への出入り口へと続く道で、半泣きの女の子を足止めしている騎士は、何故か子供を虐めているような罪悪感に苛まれていた。
「困ったな。さっきも言ったように、ここは特別なお庭なんだよ。お嬢ちゃんは、ここで誰かと約束してるのかな?」
「あのね、アリスね、うさぎさんと王子さまと、一緒にお茶してお散歩するお約束してるの」
「王子様?」
「うん。あるにーさまはね、王子さまなの」
「アル……って、アルフレード王太子殿下?」
「おーたいし?」
アリシティアは、幼い頃のルイスを真似て、こてんと首を傾げた。あまりにもあざと可愛い過ぎるその姿に、心臓を鷲掴みにされた騎士は「うっ」と、悶絶し胸を押さえた。
それでも何とか立ち直り、騎士は呼吸を整える。
「こ、困ったな。あのね、今日はこのお庭で、お茶会の予定は入って無いんだ。お嬢ちゃんのお父様はどこにいるの?」
「お父さま?」
「そう、お父様と一緒に来たんだよね?お父様のお名前教えてくれるかな?」
「知らない人には、お父さまのお名前教えちゃダメって言われたの。内緒なんだって」
「どうして内緒なの?」
「わからないの。アリスがかしこくないから、お父さまはアリスのこと恥ずかしいのかも」
アリシティアはうさぎのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて、悲しそうに俯く。
「そ、そんな事はないんじゃないかな。多分お嬢ちゃんみたいな可愛い子が娘なら、お父様はとっても嬉しいと思うよ」
騎士はアリシティアの言葉に、どこかの高位貴族の隠し子だとでも、推測したのだろう。必死にフォローを入れてくれる。
流石にちょっとやりすぎたかな、と申し訳なく思ったアリシティアは、不意に「あ、そうだ!!」と、声をあげた。
「あのね、アリスとうさぎさんがここに入りたい時はね、うさぎさんの時計をみせればいいよって、あるにーさま言ってた」
国中の誰をもかしずかせる印籠……程ではないが、とりあえず話を聞いて貰える『とっておき』を、アリシティアは持っているのだ。
因幡くんの首にかけている懐中時計を、アリシティアはどーんと騎士に見せつけた。
今のアリシティアの気分は、さながら「この紋所が目に入らぬか」という、水戸黄門のカクさんである。
アリシティアが仰々しく掲げた懐中時計の裏には、王太子個人の紋章が刻まれていた。それを見た騎士は、これでもかという程に、目を見開いた。
「は?? い、今すぐ、王太子殿下に確認して参ります!!」
小さな女の子に、王宮勤めの騎士は、姿勢を正して敬礼する。
その姿を前にして、アリシティアは満足げに微笑む。実の所、アルフレードからこの懐中時計を貰った時から、一度やってみたかったのだ。だが、その時は既にこの庭園にはフリーパスだったために、使う機会が今日までなかった。
どうせなら、王家の影だけが持つ、印籠のような物を作って欲しいな……などと考えていた時。
「アリス!!」
全力で駆け寄って来た人に、因幡くんごとぎゅーぎゅーと抱きしめられた。
「あるにーさま、苦しい」
「あ、ごめん。どうしたんだ、アリスこの姿…」
アリシティアを抱きしめていた腕を解き、アルフレードは彼女の顔を覗き込んだ。そんなアルフレードに、アリシティアはにっこりと微笑んだ。
「あのね、お薬飲んだの」
アリシティアのその一言で、アルフレードは彼女に何があったのかを察したのだろう。
「ああ、困ったものだね」
困ったと言いながらも、アルフレードは心底嬉しそうに、小さなアリシティアを抱き上げた。アリシティアの額にちゅっと口付けして、可愛いリップ音を響かせる。
そのまま、視線を騎士に向けて、
「この子の事は他言無用だよ」
と、釘を刺すのは忘れなかった。
その後、アルフレードはアリシティアを抱いたまま、彼の執務室に連れて行った。
うさぎのぬいぐるみはソファーに座らせて、アリシティアはアルフレード自身の膝の上に座らせる。
「はい、アリス。あーんして?」
テーブルいっぱいに、小さなスイーツを用意させたアルフレードは、切り分けたタルトをアリシティアの小さな口に運ぶ。
「美味しい?アリス」
アリシティアは給餌されるがままに、口をもぐもぐとさせながら、こくこくと頷く。
「はぁ、何なんだろうね、この可愛い過ぎる生き物は。ずっとこうしていたい」
「お仕事はいいの?」
「仕事なんかよりも、この可愛いアリスを愛でる方が重要だよ。髪の色と目の色が違うのは残念だけど、まあアリスの可愛さの前には、些細な問題だね」
などと、兄馬鹿を爆発させるアルフレードに、アリシティアはお返しとばかり、クッキーを彼の口に運んだ。
「にーさま、美味しい?」
「うん、すごく」
心の底から満たされたような笑みを浮かべるアルフレードは、こうして心ゆくまで小さなアリシティアを堪能したのであった。
翌日、王太子アルフレードから、錬金術師の塔の5階に、王太子の印章が押された封筒が届けられた。
その中に入っていた禁書庫への入室許可証を手に、ベアトリーチェは満足げに笑った。
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