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第三章
【小休憩SS】熊ちゃんとアリス。不思議の国のアリス…みたいな?話
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ある日、アリシティアがいつものごとく、錬金術師の塔の5階、ベアトリーチェの部屋で気持ち良くお昼寝して、目覚めた時のお話。
アリシティアがぼんやりと目を開くと、見慣れた紫水晶の瞳が目に入った。
「あら、おかしいわねぇ。小さくならずに、ちっちゃくなっちゃったわ」
相変わらず隙のない化粧をした、やたらと美しい男が、何やら首を傾げている。
「ベアトリーチェ?…ん?」
目の前のオネェな魔女の名前を口にしたアリシティアは、自分の声の高さに違和感を覚えた。
いつものお昼寝用(にしている)ソファーから、身体を起こそうとした時、着ていたメイド服が、ブカブカを通り越して掛け布団状態になっている事に気づいた。
「は?なにこれ」
普段ならここから、「あと五分」と言いながら、必死に惰眠を貪る為に、部屋の主と死闘?を繰り広げるのだが、今日ばかりは飛び起きた。
同時に、着ていた服がずるりと肩から落ちた。思わず手元に視線を向けるが、手先は服の袖に完全に隠れていた。
「それに、お話の中のアリスは服ごとミニサイズになってたけど、服はそのままなのね。まあ、普通はそうなるわよねぇ」
「な、な、なん…」
「けど流石の天才の私でも、服を小さくする薬は作れないし」
「何てことしてくれるのよ!!!」
アリシティアは自身に起こった理不尽の元凶である、魔女の親友を怒鳴りつけた。
服の袖を必死に捲り上げて手先を見ると、すらりとした自慢の指では無く、小さな紅葉のようなぷくぷくした手が見える。
彼女の目の前で、長いまつ毛をバシバシさせながら首を傾げる魔女が、やたらと大きい。
ずるりと服を引きずったまま立ち上がったアリシティアの身体は、鏡にうつして確認するまでもなく、幼い頃の姿に戻っていた。
「何って、アリスなんだし、どうせなら身体をミニサイズにしようとしただけよ」
「『どうせなら』じゃないわよ!勝手に人の身体を子供に戻してんじゃ、ないわよ!!」
「ごめんごめん、身体のバランスはそのままで、サイズだけ小さくしようとしたのよ。あ、でもこれは失敗じゃないからね。これは、この方法では上手くいかないという、実験の過程に過ぎないからね」
「しっかり失敗してるじゃないの!!謝るところが違う!!私を実験に使わないでって、いつも言ってるじゃない!!どうしてくれるの、これ!!」
ソファーの上に立ち上がって、腰に手を置いたアリシティアが、ベアトリーチェを睨みつけた。
「確かに、そのままじゃ困るわよねぇ。ちょっと待ってなさい」
言い残して、ベアトリーチェは衝立の奥の汚部屋に消えた。何やら、ゴソゴソと音がしていたが、しばらくして元の部屋に戻って来た。手には小さな女の子用の服を持って。
「何それ」
「見ればわかるでしょ、服よ服。ほら、あんたはいつも私の買い物に文句をいうけど、用意して置いて良かったじゃない」
ベアトリーチェの汚部屋には、決して使用用途のない『いざという時の為』の、可愛いもの(特に服や小物)で溢れている。
目についた可愛いものを何でも買って来て、整理整頓もせずに溜め込んでいるのだ。
「何勝ち誇った顔してるのよ!『そのままじゃ困る』の意味が違うわよ。服の問題じゃ無くて、私の絶対チートな、魅惑のわがままボディを元に戻しなさいって言ってるの」
アリシティアは5~6歳の姿で、ベアトリーチェを睨みつけた。
「そうは言ってもねぇ。その薬が切れるまで、あと6時間はかかるわよ」
「はぁ?ふざけんじゃないわよ。今日は月に一度の大切なお茶会の約束があるのに!!」
「じゃあ、さっさと着替えて行きなさいよ」
「この姿を見てから言いなさい」
「さっきから見てるわよ」
「私を勝手に若返らせておいて、その通常運行過ぎる言動は何?!」
「あ、それもそうね。魔女仲間に売り付けなきゃ。魔女なら実年齢八十歳で、見た目は若くて妖艶な美女ってのがファンタジーの定番だものね」
「そういう態度が、通常運行って言ってるのよ」
「何?この服が気に入らないの?!」
「何もかもが、気に入らないわよ」
「とか言いながら、着替えるのね」
「当たり前でしょ」
アリシティアは大きな服を引きずりながら、ソファーから降りた。ベアトリーチェの持って来た服を抱えて、部屋の奥に入って行く。
しばらくして衝立から出て来たアリシティアは、膝下のふわりとしたスカートの青いドレスに、エプロンドレスをつけていた。手には、4代目因幡くんを抱いている。
「何で因幡くん抱いてるの?」
因幡くんは、アリシティアがアルフレードから貰った、うさぎのぬいぐるみだ。
革のベストを着て、シルクハットをつけ、首には文字盤が透けた懐中時計をかけている。一見普通のぬいぐるみだが、その身につけた小物の値段は、途方もない金額になる。
「身分証明書代わりよ」
ぷんぷんと怒った小さなアリシティアは、ベアトリーチェを睨みつける。だが、大きなウサギのぬいぐるみを抱いたその姿には、可愛さしかない。
ベアトリーチェは「身体のバランスはそのままで、サイズだけ小さくしようとした」と言った。だが実際には違う。
数日前、ベアトリーチェが街に出た時に、不思議の国のアリスをイメージさせるような可愛い子供服を見つけて、衝動買いしたのだ。
それを見たアリシティアに、「またこんな要らない物を買ってきて。掃除する私の身にもなってよ」等と、文句を言われたのだ。その時に、「いざという時の為に必要になるかもしれないじゃない」と言うと、アリシティアには、そんな機会は一生ないと言われた。
だからこそ、敢えてそんな機会を作ったベアトリーチェは、因幡くんを抱く小さなアリシティアの姿を上から下まで眺めて、満足げに笑った。
続く
アリシティアがぼんやりと目を開くと、見慣れた紫水晶の瞳が目に入った。
「あら、おかしいわねぇ。小さくならずに、ちっちゃくなっちゃったわ」
相変わらず隙のない化粧をした、やたらと美しい男が、何やら首を傾げている。
「ベアトリーチェ?…ん?」
目の前のオネェな魔女の名前を口にしたアリシティアは、自分の声の高さに違和感を覚えた。
いつものお昼寝用(にしている)ソファーから、身体を起こそうとした時、着ていたメイド服が、ブカブカを通り越して掛け布団状態になっている事に気づいた。
「は?なにこれ」
普段ならここから、「あと五分」と言いながら、必死に惰眠を貪る為に、部屋の主と死闘?を繰り広げるのだが、今日ばかりは飛び起きた。
同時に、着ていた服がずるりと肩から落ちた。思わず手元に視線を向けるが、手先は服の袖に完全に隠れていた。
「それに、お話の中のアリスは服ごとミニサイズになってたけど、服はそのままなのね。まあ、普通はそうなるわよねぇ」
「な、な、なん…」
「けど流石の天才の私でも、服を小さくする薬は作れないし」
「何てことしてくれるのよ!!!」
アリシティアは自身に起こった理不尽の元凶である、魔女の親友を怒鳴りつけた。
服の袖を必死に捲り上げて手先を見ると、すらりとした自慢の指では無く、小さな紅葉のようなぷくぷくした手が見える。
彼女の目の前で、長いまつ毛をバシバシさせながら首を傾げる魔女が、やたらと大きい。
ずるりと服を引きずったまま立ち上がったアリシティアの身体は、鏡にうつして確認するまでもなく、幼い頃の姿に戻っていた。
「何って、アリスなんだし、どうせなら身体をミニサイズにしようとしただけよ」
「『どうせなら』じゃないわよ!勝手に人の身体を子供に戻してんじゃ、ないわよ!!」
「ごめんごめん、身体のバランスはそのままで、サイズだけ小さくしようとしたのよ。あ、でもこれは失敗じゃないからね。これは、この方法では上手くいかないという、実験の過程に過ぎないからね」
「しっかり失敗してるじゃないの!!謝るところが違う!!私を実験に使わないでって、いつも言ってるじゃない!!どうしてくれるの、これ!!」
ソファーの上に立ち上がって、腰に手を置いたアリシティアが、ベアトリーチェを睨みつけた。
「確かに、そのままじゃ困るわよねぇ。ちょっと待ってなさい」
言い残して、ベアトリーチェは衝立の奥の汚部屋に消えた。何やら、ゴソゴソと音がしていたが、しばらくして元の部屋に戻って来た。手には小さな女の子用の服を持って。
「何それ」
「見ればわかるでしょ、服よ服。ほら、あんたはいつも私の買い物に文句をいうけど、用意して置いて良かったじゃない」
ベアトリーチェの汚部屋には、決して使用用途のない『いざという時の為』の、可愛いもの(特に服や小物)で溢れている。
目についた可愛いものを何でも買って来て、整理整頓もせずに溜め込んでいるのだ。
「何勝ち誇った顔してるのよ!『そのままじゃ困る』の意味が違うわよ。服の問題じゃ無くて、私の絶対チートな、魅惑のわがままボディを元に戻しなさいって言ってるの」
アリシティアは5~6歳の姿で、ベアトリーチェを睨みつけた。
「そうは言ってもねぇ。その薬が切れるまで、あと6時間はかかるわよ」
「はぁ?ふざけんじゃないわよ。今日は月に一度の大切なお茶会の約束があるのに!!」
「じゃあ、さっさと着替えて行きなさいよ」
「この姿を見てから言いなさい」
「さっきから見てるわよ」
「私を勝手に若返らせておいて、その通常運行過ぎる言動は何?!」
「あ、それもそうね。魔女仲間に売り付けなきゃ。魔女なら実年齢八十歳で、見た目は若くて妖艶な美女ってのがファンタジーの定番だものね」
「そういう態度が、通常運行って言ってるのよ」
「何?この服が気に入らないの?!」
「何もかもが、気に入らないわよ」
「とか言いながら、着替えるのね」
「当たり前でしょ」
アリシティアは大きな服を引きずりながら、ソファーから降りた。ベアトリーチェの持って来た服を抱えて、部屋の奥に入って行く。
しばらくして衝立から出て来たアリシティアは、膝下のふわりとしたスカートの青いドレスに、エプロンドレスをつけていた。手には、4代目因幡くんを抱いている。
「何で因幡くん抱いてるの?」
因幡くんは、アリシティアがアルフレードから貰った、うさぎのぬいぐるみだ。
革のベストを着て、シルクハットをつけ、首には文字盤が透けた懐中時計をかけている。一見普通のぬいぐるみだが、その身につけた小物の値段は、途方もない金額になる。
「身分証明書代わりよ」
ぷんぷんと怒った小さなアリシティアは、ベアトリーチェを睨みつける。だが、大きなウサギのぬいぐるみを抱いたその姿には、可愛さしかない。
ベアトリーチェは「身体のバランスはそのままで、サイズだけ小さくしようとした」と言った。だが実際には違う。
数日前、ベアトリーチェが街に出た時に、不思議の国のアリスをイメージさせるような可愛い子供服を見つけて、衝動買いしたのだ。
それを見たアリシティアに、「またこんな要らない物を買ってきて。掃除する私の身にもなってよ」等と、文句を言われたのだ。その時に、「いざという時の為に必要になるかもしれないじゃない」と言うと、アリシティアには、そんな機会は一生ないと言われた。
だからこそ、敢えてそんな機会を作ったベアトリーチェは、因幡くんを抱く小さなアリシティアの姿を上から下まで眺めて、満足げに笑った。
続く
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