16 / 1,212
漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
16
しおりを挟む
テーラーでの採寸が済むと、冰は周に連れられて近くのホテルにあるラウンジに来ていた。
お茶をしがてら、今後の仕事内容についての打ち合わせをするらしい。
それ自体は特に驚くでもないことだが、場所が普通ではなかった。
冰は日本のホテルについて詳しいわけではなかったが、訊かずとも名のある高級ホテルなのだろうことが分かる。案内されたラウンジも広々としたゴージャスな造りで、ウェイターなども黒服を着用しており、上客を相手にするまさにプロといった雰囲気に圧倒される。冰ははしたないと思いつつも、ついキョロキョロと周囲を見渡してしまうのをやめられなかった。
「好きなものを頼むといい。ちょうど三時のティータイムだ。ケーキでもどうだ?」
「あ、はい……。ありがとうございます」
ウェイターからメニュー表を渡されたが、どれもこれも目を疑うような価格に先ずは驚きを隠せない。何でも好きなものを頼めと言われても、一番安いコーヒーですら、冰の感覚からすれば桁違いだ。どうせ周が払うのだろうから、あまり高額なものは申し訳ない。そう思った冰はオーソドックスなブレンドコーヒーをウェイターへと告げた。
「ボウズ、お前さん甘いものは苦手か?」
対面に腰掛けた周が身を乗り出しながら訊いてくる。
「えッ!? いえ、そういうわけでは……」
「だったらケーキはどうだ。ここのは美味いぞ」
「はぁ……どうも……」
何とも間の抜けた返答しか出てこない。
「じゃあお前さんも好きなのをひとつ選べ。俺のと交換しながら食えば両方の味を楽しめるぜ」
周は頼もしげに言って笑う。
「もしかして……周さんは甘いものがお好きなんですか?」
まさか周もケーキを食べるとは思わずに、ついそんな台詞が口をついて出てしまった。それこそ苦めのコーヒーが似合いそうな雰囲気だからだ。
「まあな。大好物ってわけでもねえが――食うぜ。俺の友人に甘味大魔王ってくらいの奴がいてな。そいつがここのケーキが大のお気に入りなんだ。付き合いで食う内に俺も気に入っちまったってところだ」
「……はあ、そうなんですか」
冰自身も甘いものは嫌いでないので、せっかく周が勧めてくれていることだしと思い、ホワイトチョコレートのシフォンケーキを注文することにした。真っ白なチョコレートが削られてケーキ全体に振りかけられているのがとても綺麗で美味しそうだったからだ。
「じゃあ俺はこれだ。ラズベリーのムースケーキってのを頼む」
周がウェイターに告げたのはピンク色がやさしい風味のムースの上にラズベリーの果実とソースが添えられているものだった。鮮やかな赤い果実がまるで宝石のような綺麗なデコレーションだ。
「ピッタリだな」
周の言葉に、冰は「え?」と不思議そうに彼を見つめた。
お茶をしがてら、今後の仕事内容についての打ち合わせをするらしい。
それ自体は特に驚くでもないことだが、場所が普通ではなかった。
冰は日本のホテルについて詳しいわけではなかったが、訊かずとも名のある高級ホテルなのだろうことが分かる。案内されたラウンジも広々としたゴージャスな造りで、ウェイターなども黒服を着用しており、上客を相手にするまさにプロといった雰囲気に圧倒される。冰ははしたないと思いつつも、ついキョロキョロと周囲を見渡してしまうのをやめられなかった。
「好きなものを頼むといい。ちょうど三時のティータイムだ。ケーキでもどうだ?」
「あ、はい……。ありがとうございます」
ウェイターからメニュー表を渡されたが、どれもこれも目を疑うような価格に先ずは驚きを隠せない。何でも好きなものを頼めと言われても、一番安いコーヒーですら、冰の感覚からすれば桁違いだ。どうせ周が払うのだろうから、あまり高額なものは申し訳ない。そう思った冰はオーソドックスなブレンドコーヒーをウェイターへと告げた。
「ボウズ、お前さん甘いものは苦手か?」
対面に腰掛けた周が身を乗り出しながら訊いてくる。
「えッ!? いえ、そういうわけでは……」
「だったらケーキはどうだ。ここのは美味いぞ」
「はぁ……どうも……」
何とも間の抜けた返答しか出てこない。
「じゃあお前さんも好きなのをひとつ選べ。俺のと交換しながら食えば両方の味を楽しめるぜ」
周は頼もしげに言って笑う。
「もしかして……周さんは甘いものがお好きなんですか?」
まさか周もケーキを食べるとは思わずに、ついそんな台詞が口をついて出てしまった。それこそ苦めのコーヒーが似合いそうな雰囲気だからだ。
「まあな。大好物ってわけでもねえが――食うぜ。俺の友人に甘味大魔王ってくらいの奴がいてな。そいつがここのケーキが大のお気に入りなんだ。付き合いで食う内に俺も気に入っちまったってところだ」
「……はあ、そうなんですか」
冰自身も甘いものは嫌いでないので、せっかく周が勧めてくれていることだしと思い、ホワイトチョコレートのシフォンケーキを注文することにした。真っ白なチョコレートが削られてケーキ全体に振りかけられているのがとても綺麗で美味しそうだったからだ。
「じゃあ俺はこれだ。ラズベリーのムースケーキってのを頼む」
周がウェイターに告げたのはピンク色がやさしい風味のムースの上にラズベリーの果実とソースが添えられているものだった。鮮やかな赤い果実がまるで宝石のような綺麗なデコレーションだ。
「ピッタリだな」
周の言葉に、冰は「え?」と不思議そうに彼を見つめた。
29
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる