24 / 1,212
漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
24
しおりを挟む
それも当然である。真田にとって冰は、周と同等に仕える主であるという認識でいたからだ。そんな冰が何かできることがあれば手伝いたいというのだから驚きもするわけだった。
「とんでもございません! 雪吹様にお仕えするのが私共の役目です。お食事のお時間までまだ一時間ほどございますので、お部屋でお寛ぎいただければと存じます」
真田は恐縮しつつも、「お気持ちは本当に有り難く恐縮に存じます」と付け加えた。
「そうだ、温かいお茶でもお持ちいたしましょう」
そう言って、にっこりと微笑んだ。――と、その時だ。
「えらく早いことだな」
現れたのは周だ。
彼もまたラフな普段着といった服装で、髪もまだセットしていないのか昨日見た時とは違って無造作に前髪を下ろしているといった出で立ちだ。
そんな彼を目にした瞬間、冰は思わずドキりと心臓が鳴るような心持ちにさせられてしまった。
きちんとしたスーツ姿で隙のなくキメた周も格好良かったが、構えずにラフな彼もまた別の意味での色香を放つ男前に思えたからだ。
「周さん……!」
「昨夜はゆっくりやすめたか?」
「あ、はい! もちろんです! すごく大きなベッドで……お風呂もびっくりするくらい広くて夢のようでした」
「そうか、それは良かった」
淡い笑みと共にそう言った周の笑顔は穏やかで、大らかなやさしさが感じられる。彼の顔を見ているだけで不思議な安堵感を覚えるようでもあった。
「坊ちゃま、おはようございます。ただいまお茶をお持ちいたしますゆえ、お二方ともどうぞお掛けになってください」
「ああ、頼む」
真田が下がっていくと、周は冰に自分の対面の席を勧めながらゆったりと腰掛けた。
「真田を手伝おうと早く起きてきたってわけか?」
どうやら周には先程の真田とのやり取りが聞こえていたらしい。
「はい。俺にも何か手伝えることがあればと思って。……って、よく考えたら逆に邪魔になってしまいますよね」
タジタジとする冰に、周はそこはかとなくやさしい視線で彼を見つめながら言った。
「冰――お前ってやつは……。ほんとに黄のじいさんが愛情掛けて育てたってのが目に見えるようだぜ」
「え……?」
「やさしい心根の――いい男に育ったって言ったんだ」
「俺が……ですか? そんな……こと」
「まあ気持ちだけで充分だ。お前さんには社の方でがんばってもらえばいいんだ。食事の支度や掃除なんぞは真田に任せておけばいい。だが、真田もお前さんの気持ちを聞いて嬉しかったろうぜ」
周の言葉に応えるかのように、ちょうど茶を運んできた真田もうなずいた。
「坊ちゃまのおっしゃる通りでございます。雪吹様のご厚情がこの真田には心に沁みました。本当にありがとうございます」
真田本人にまでそう微笑まれて、冰は気恥ずかしげに笑ったのだった。
「とんでもございません! 雪吹様にお仕えするのが私共の役目です。お食事のお時間までまだ一時間ほどございますので、お部屋でお寛ぎいただければと存じます」
真田は恐縮しつつも、「お気持ちは本当に有り難く恐縮に存じます」と付け加えた。
「そうだ、温かいお茶でもお持ちいたしましょう」
そう言って、にっこりと微笑んだ。――と、その時だ。
「えらく早いことだな」
現れたのは周だ。
彼もまたラフな普段着といった服装で、髪もまだセットしていないのか昨日見た時とは違って無造作に前髪を下ろしているといった出で立ちだ。
そんな彼を目にした瞬間、冰は思わずドキりと心臓が鳴るような心持ちにさせられてしまった。
きちんとしたスーツ姿で隙のなくキメた周も格好良かったが、構えずにラフな彼もまた別の意味での色香を放つ男前に思えたからだ。
「周さん……!」
「昨夜はゆっくりやすめたか?」
「あ、はい! もちろんです! すごく大きなベッドで……お風呂もびっくりするくらい広くて夢のようでした」
「そうか、それは良かった」
淡い笑みと共にそう言った周の笑顔は穏やかで、大らかなやさしさが感じられる。彼の顔を見ているだけで不思議な安堵感を覚えるようでもあった。
「坊ちゃま、おはようございます。ただいまお茶をお持ちいたしますゆえ、お二方ともどうぞお掛けになってください」
「ああ、頼む」
真田が下がっていくと、周は冰に自分の対面の席を勧めながらゆったりと腰掛けた。
「真田を手伝おうと早く起きてきたってわけか?」
どうやら周には先程の真田とのやり取りが聞こえていたらしい。
「はい。俺にも何か手伝えることがあればと思って。……って、よく考えたら逆に邪魔になってしまいますよね」
タジタジとする冰に、周はそこはかとなくやさしい視線で彼を見つめながら言った。
「冰――お前ってやつは……。ほんとに黄のじいさんが愛情掛けて育てたってのが目に見えるようだぜ」
「え……?」
「やさしい心根の――いい男に育ったって言ったんだ」
「俺が……ですか? そんな……こと」
「まあ気持ちだけで充分だ。お前さんには社の方でがんばってもらえばいいんだ。食事の支度や掃除なんぞは真田に任せておけばいい。だが、真田もお前さんの気持ちを聞いて嬉しかったろうぜ」
周の言葉に応えるかのように、ちょうど茶を運んできた真田もうなずいた。
「坊ちゃまのおっしゃる通りでございます。雪吹様のご厚情がこの真田には心に沁みました。本当にありがとうございます」
真田本人にまでそう微笑まれて、冰は気恥ずかしげに笑ったのだった。
28
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる