極道恋事情

一園木蓮

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漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)

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 朝食を済ませた後、冰はクローゼットに用意してもらっていた真新しいスーツに着替えると、周と共に社屋の方へと移動した。冰にとっての初出社である。
 社長室に着くと、既に李が待っていた。
「おはようございます、社長。雪吹さん」
「ああ」
「おはようございます! 改めまして今日からどうぞよろしくお願いします」
 一通りの挨拶を済ませると、李から仕事についての細かい教示を受けることと相成った。
「雪吹さんのお仕事は社長のお側でいろいろと雑務所用を行っていただくことです。内勤の時は社長のお茶を淹れていただいたり、コピーを取ったりなどの雑務をお願いすることになります。また、社長が打ち合わせなどで外出の際は、特殊な場合でない限りはご同行していただき、昼食なども一緒にしていただければと思います。その他の細かい用事は私の方から逐次お願いしますので、その際はどうぞよろしくご助力ください」
「はい、承知いたしました。よろしくご指導ください!」

「それと――ひとつ大事なお願いがございます」

 李は周の方にも視線をやりながら、大事だというその説明を始めた。
「社内では社長のお父上が香港マフィアの頭領トップだということを公表しておりません。知っているのは私共側近と私邸を預かる真田たち家令のごくわずかの者たちだけです。そういった理由で、この社内にいる時は社長のことを日本名の”氷川ひかわ社長”とお呼びいただけると幸いです」
「氷川社長ですか?」
 それに答えたのは周当人だった。
「俺の実母の姓だ。一応下の名前もあるぞ。氷川白夜ひかわ びゃくや――これが俺の日本名だ」
「……! そうなんですか」
 冰は驚いたが、よくよく考えてみればそれも当然なのかも知れないと思えた。如何に若くしてこのような大会社を率いているトップとはいえ、そのバックが異国のマフィアだと知れれば、口さがない連中がでないとも限らない。そういった意味でも素性を明かす必要はないのだろうと思えた。
 李が続ける。
「社名も氷川の性にちなんで”アイス・カンパニー”というのが正式名称となっています。職種でいえば商社です。貿易を主としていますが、子会社もいくつか持っておりまして、その中にはファッション雑貨を扱った小間物系のショップやレストランにバーなどの飲食関係の店も展開しております。社長はそういった系列会社の見回りなどで各所に赴くことも多いのですが、その際も氷川白夜の名で通していますので、雪吹さんも何卒厳守でお願いいたします」
「はい、承知しました。肝に銘じます!」
 李と冰のそんなやり取りを横目にしながら、周はフイと軽く笑んだ。
「氷川社長と呼ぶのはオン――つまり仕事の時だけでいいぞ。普段はお前の呼びやすいようにするといい」
「あ、はい! じゃあ……周さん? でいいんですよね?」
 小首を傾げて訊いた冰に、周はといえば少々小難しげに眉根を寄せた。

「周さん――ね。何だか他人行儀だな。名前の方のイェンで構わねえぞ」

 そうは言うが、周は冰よりも随分と年上のはずである。
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