極道恋事情

一園木蓮

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周焔編

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 その日もあの時と同様に、お茶をしがてらケーキをシェアして食べていた時だった。周宛てにかかってきた一本の電話の内容が冰の心を揺さぶるきっかけとなったのだ。
 誰からのものなのかは冰には分からなかった。ただ、周がとびきり楽しげに笑いながら、いつも以上にリラックスして会話している様子を見て、相手がどういった人物なのかが無性に気になってしまったのだ。

『ああ、悪いが今夜は都合がつかねえ。接待の会食が入ってるんだ。――ああ、ああ分かった。週末なら時間が取れそうだから、また連絡する』

 それだけを聞けば仕事の相手かも知れないと思えた。だが、周が続けて言った言葉がどうにも耳に残ってしまったのだ。

『そういや今、例のラウンジでケーキを食ってるところだぜ。お前さんの気に入りのティールームだ。ああ? なんだって? 分かった分かった。それじゃいくつか見繕って、後で誰かに届けさせる。そんな事は気にするな。ああ、楽しみに待っとけ』

 至極楽しげにそう言って通話を切った周が気になって、冰は何だか気分が沈んでしまうような心持ちに陥ってしまったのだった。
 相手はいったい誰なのだろう。
 そういえば思い出した。初めてここへ連れて来てもらった時、周は甘いものが大好きな友人の影響でケーキを食べるようになったと――確かそんなことを言っていた。
 つまり――相手は女性なのだろうか。ごく普通に考えるに甘いもの好きといえば女性――男ではないのだろうと思えたからだ。
 周は”友人”と言っていたが、もしかすると付き合っている恋人のことなのかも知れない。今の今まで周にそんな相手がいるかどうかすら思い至らなかったが、逆に言えばいない方が不自然といえる。
 あれだけのいい男だ。容姿はむろんのこと、経済力もある。若くしてこんな大会社を率いている社長なのだ、女性なら誰しもが放っておかないだろうと思う。それに、周の社を訪れた最初の時に受付嬢がホストの男が営業を掛けに来ると言っていたことまで思い出してしまった。ということは、女性のみならず男にもモテるということなのだろうか。
 周と暮らすようになって一ヶ月が経つが、男性だろうが女性だろうが恋人がいるなどという話は聞いたこともないし、時間的に考えてもデートに出掛けているといったふうでもない。
 平日の昼間は仕事でずっと一緒なのだし、休日も家にいるか、もしくは香港育ちの冰の為にと、日本の観光名所を案内してやると言っては連れ出してくれたりする。つまり、二人で一緒に過ごす時間を大切にしてくれているように思えるのだ。
 そんな冰にも把握しきれていないことがあるとすれば、夜の接待の間のことだ。冰は秘書として周が出掛ける際にはほぼ同行することの多いものの、夜に接待がある時は李や劉といった側近の者たちが付き添うことが多い。もしかしたらそうした中に恋人と会う日も盛り込んでいるのかも知れないと思ってしまった。
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