45 / 1,212
漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
45
しおりを挟む
『な、まだ話してて平気?』
「え、はい! 俺は全然……」
『だったら、ちょい待ってて!』
紫月は言うと、電話の向こうで『おーい』と、誰かを呼んだようだった。『お前も来いよ! 電話、冰君が出てる。そう、氷川ンとこの!』しばしザワザワとした雰囲気がやむと、スマートフォンからはまた別の男の声が聞こえてきた。今度は今の紫月と違って、もっと落ち着いた雰囲気の男の声だ。
『鐘崎だ。氷川とは懇意にさせてもらってる』
「あ、はい! こちらこそお世話になってます! 雪吹冰です!」
冰は慌ててそう返した。鐘崎と名乗った男の声の調子がひどく落ち着き払っていて、顔は見えないながらも思わず背筋をピーンと伸ばしてしまうような雰囲気にさせられてしまったからだ。どことなく周に近い雰囲気も感じられる。
冰が緊張していると、すぐに代わったのか、また紫月という男が電話口で笑った。
『ごめんなー、冰君。こいつって口数少ねえからさぁ』
ケラケラと楽しそうに言う。それからしばらく紫月という男の独断場のような話が続き、冰は緊張しながらも一生懸命に相槌を返し続けたのだった。
『今度、遊びに来いよなー。つか、俺らがそっちに行ってもいいけどさ! 近い内にぜってえ会おうぜ!』
「あ、はい! よろしくお願いします!」
スマートフォンを握り締めながら、冰は一人ガバッと頭を下げてそう返事をした。ちょうどその時だった。
「なんだ、まだ電話切ってねえのか」
ハッとして振り返ると、そこには腰にバスタオルを巻いただけの姿で、髪も濡れたままの周が立っていた。たった今、風呂から上がってきたのだろう。冰にはいったい何分くらい話していたのか既に分からないほど緊張状態だったが、かなりの長電話だったといえるのだろう。周は若干眉根を寄せていて、口もヘの字に結んだ感じの、何とも言い様のない表情をしている。
と、突如冰の手からスマートフォンを取り上げると、通話の相手に向かってひと言――、
「おい、一之宮。ウチの冰にちょっかいかけてんじゃねえ」
いかにも横柄な調子でそう言い放った。
冰は自分が長電話をしていたことで周の機嫌を損ねたのかとハラハラしていたが、理由はそこではなかったようだ。電話の向こうから漏れ聞こえる声が冷やかすようにこう言った。
『おいおい、早速独り占めかよ。てめ、風呂はもう済んだのか? あんまし嫉妬深い男は嫌われっぞー!』
言葉は辛辣だが、声は楽しそうだ。
「うるせー。こいつは俺ンだ。手を出すなよ」
周はそれだけ告げるとサッサと通話を切ってしまった。
「あ……切っちゃった」
「なんだ、代わりたかったのか?」
じろっと視線を送ってくる周の口元は”への字”のままだ。ちょっとスネたような仏頂面が普段の彼とは別人のようでもある。
冰は今まで見たこともない少年のような一面に、唖然とさせられてしまった。
「え、はい! 俺は全然……」
『だったら、ちょい待ってて!』
紫月は言うと、電話の向こうで『おーい』と、誰かを呼んだようだった。『お前も来いよ! 電話、冰君が出てる。そう、氷川ンとこの!』しばしザワザワとした雰囲気がやむと、スマートフォンからはまた別の男の声が聞こえてきた。今度は今の紫月と違って、もっと落ち着いた雰囲気の男の声だ。
『鐘崎だ。氷川とは懇意にさせてもらってる』
「あ、はい! こちらこそお世話になってます! 雪吹冰です!」
冰は慌ててそう返した。鐘崎と名乗った男の声の調子がひどく落ち着き払っていて、顔は見えないながらも思わず背筋をピーンと伸ばしてしまうような雰囲気にさせられてしまったからだ。どことなく周に近い雰囲気も感じられる。
冰が緊張していると、すぐに代わったのか、また紫月という男が電話口で笑った。
『ごめんなー、冰君。こいつって口数少ねえからさぁ』
ケラケラと楽しそうに言う。それからしばらく紫月という男の独断場のような話が続き、冰は緊張しながらも一生懸命に相槌を返し続けたのだった。
『今度、遊びに来いよなー。つか、俺らがそっちに行ってもいいけどさ! 近い内にぜってえ会おうぜ!』
「あ、はい! よろしくお願いします!」
スマートフォンを握り締めながら、冰は一人ガバッと頭を下げてそう返事をした。ちょうどその時だった。
「なんだ、まだ電話切ってねえのか」
ハッとして振り返ると、そこには腰にバスタオルを巻いただけの姿で、髪も濡れたままの周が立っていた。たった今、風呂から上がってきたのだろう。冰にはいったい何分くらい話していたのか既に分からないほど緊張状態だったが、かなりの長電話だったといえるのだろう。周は若干眉根を寄せていて、口もヘの字に結んだ感じの、何とも言い様のない表情をしている。
と、突如冰の手からスマートフォンを取り上げると、通話の相手に向かってひと言――、
「おい、一之宮。ウチの冰にちょっかいかけてんじゃねえ」
いかにも横柄な調子でそう言い放った。
冰は自分が長電話をしていたことで周の機嫌を損ねたのかとハラハラしていたが、理由はそこではなかったようだ。電話の向こうから漏れ聞こえる声が冷やかすようにこう言った。
『おいおい、早速独り占めかよ。てめ、風呂はもう済んだのか? あんまし嫉妬深い男は嫌われっぞー!』
言葉は辛辣だが、声は楽しそうだ。
「うるせー。こいつは俺ンだ。手を出すなよ」
周はそれだけ告げるとサッサと通話を切ってしまった。
「あ……切っちゃった」
「なんだ、代わりたかったのか?」
じろっと視線を送ってくる周の口元は”への字”のままだ。ちょっとスネたような仏頂面が普段の彼とは別人のようでもある。
冰は今まで見たこともない少年のような一面に、唖然とさせられてしまった。
27
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる