46 / 1,212
漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
46
しおりを挟む
「あの、白龍……?」
「――何だ」
「えっと、その……そんなカッコじゃ風邪引くよ? 髪も濡れたままだし」
「ん? ああ」
周は未だ仏頂面ながらも、存外素直にワシワシとタオルで髪を吹き上げると、バスルームへと戻るべく踵を返した。その後ろ姿を目にした冰は、驚きに硬直させられてしまった。
「あ……ッ!」
周の大きな背中には見事なほどの彫り物が施されていたからだ。いわゆる刺青というそれだ。
右の脇腹から左肩にかけて、白い龍がうねるように舞っている。まるで天高く昇るかのように勇ましいその龍は、大きな双眸を見開き、カッとこちらを見据えている。険しくも厳しい視線に睨まれてしまうようで、冰は驚きに絶句させられてしまった。
周はマフィア頭領のファミリーだ。刺青があったとて取り立てて驚くことではないのかも知れないが、直に目の当たりにすれば、やはり平常心ではいられない。
彼と暮らすようになってからは秘書として様々な仕事先に同行したものの、一企業の社長としての顔しか見てこなかった為、本来のマフィアという素性からはすっかりかけ離れたような認識でいたのだ。
彼の裸身を目にするのも初めてだったわけだから知らなかったのも当然といえばそうだが、忘れかけていた彼の本質を垣間見てしまったようで、ドキドキと自らの心臓音がうるさいくらいに脈打ち出すのを抑えることができなかった。
見てしまったことをおいそれとは口に出して言うこともままならない。周も特には気にする様子もなく、むろんのこと隠す素振りもなく、ごくごく当たり前のように背中を向けながらバスルームへと向かってしまった。
「はぁ……びっくりした」
冰は若干腰が抜けたようにして大きなソファへとへたり込んでしまった。
磨りガラスの扉の向こう側では周がドライヤーで髪を乾かしている音が聞こえてくる。それを聞くともなしに聞き流しながら、冰は四肢から力が抜けてしまったように呆然としてしまっていた。
周がバスタオルを腰に巻いただけの半裸状態で風呂から出てきたことにもドキリとさせられたが、先程は一之宮紫月との通話の方に一生懸命だったので気が散漫だったのだ。その直後に広く大きな背中に龍の彫り物を見つけてしまい、何とも形容し難い気持ちが全身を包み込む。
湯上がりの素肌を惜しげもなくさらす様は色香にあふれ、直視できない奇妙な感情を揺り起こす。一般人とは明らかに一線を画する刺青も、冰の目にはひどく粋で格好良く映ってしまったのだった。
「――何だ」
「えっと、その……そんなカッコじゃ風邪引くよ? 髪も濡れたままだし」
「ん? ああ」
周は未だ仏頂面ながらも、存外素直にワシワシとタオルで髪を吹き上げると、バスルームへと戻るべく踵を返した。その後ろ姿を目にした冰は、驚きに硬直させられてしまった。
「あ……ッ!」
周の大きな背中には見事なほどの彫り物が施されていたからだ。いわゆる刺青というそれだ。
右の脇腹から左肩にかけて、白い龍がうねるように舞っている。まるで天高く昇るかのように勇ましいその龍は、大きな双眸を見開き、カッとこちらを見据えている。険しくも厳しい視線に睨まれてしまうようで、冰は驚きに絶句させられてしまった。
周はマフィア頭領のファミリーだ。刺青があったとて取り立てて驚くことではないのかも知れないが、直に目の当たりにすれば、やはり平常心ではいられない。
彼と暮らすようになってからは秘書として様々な仕事先に同行したものの、一企業の社長としての顔しか見てこなかった為、本来のマフィアという素性からはすっかりかけ離れたような認識でいたのだ。
彼の裸身を目にするのも初めてだったわけだから知らなかったのも当然といえばそうだが、忘れかけていた彼の本質を垣間見てしまったようで、ドキドキと自らの心臓音がうるさいくらいに脈打ち出すのを抑えることができなかった。
見てしまったことをおいそれとは口に出して言うこともままならない。周も特には気にする様子もなく、むろんのこと隠す素振りもなく、ごくごく当たり前のように背中を向けながらバスルームへと向かってしまった。
「はぁ……びっくりした」
冰は若干腰が抜けたようにして大きなソファへとへたり込んでしまった。
磨りガラスの扉の向こう側では周がドライヤーで髪を乾かしている音が聞こえてくる。それを聞くともなしに聞き流しながら、冰は四肢から力が抜けてしまったように呆然としてしまっていた。
周がバスタオルを腰に巻いただけの半裸状態で風呂から出てきたことにもドキリとさせられたが、先程は一之宮紫月との通話の方に一生懸命だったので気が散漫だったのだ。その直後に広く大きな背中に龍の彫り物を見つけてしまい、何とも形容し難い気持ちが全身を包み込む。
湯上がりの素肌を惜しげもなくさらす様は色香にあふれ、直視できない奇妙な感情を揺り起こす。一般人とは明らかに一線を画する刺青も、冰の目にはひどく粋で格好良く映ってしまったのだった。
38
あなたにおすすめの小説
邪神の祭壇へ無垢な筋肉を生贄として捧ぐ
零
BL
鍛えられた肉体、高潔な魂――
それは選ばれし“供物”の条件。
山奥の男子校「平坂学園」で、新任教師・高尾雄一は静かに歪み始める。
見えない視線、執着する生徒、触れられる肉体。
誇り高き男は、何に屈し、何に縋るのか。
心と肉体が削がれていく“儀式”が、いま始まる。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる