極道恋事情

一園木蓮

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漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)

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 普段はスーツに隠れていて分からなかったが、逞しい筋肉が張っている男らしい腕。腹は硬い腹筋で覆われていて、美しく割れたシックスバックスは見事という他ない。
 無意識に視線が追ってしまったのは彼の身体の中心だ。バスタオルが巻かれた腰に近付くにつれて、次第に濃くなる体毛が下へと向かって生えている。思わず邪な想像をしてしまいそうだ。
 あの逞しい素肌に抱き締められたらどんな気分になるのだろう。彫り物の龍が今にも踊り出しそうな背中に腕を回して、色香にあふれる彼が欲情をほとばしらせる瞬間を想像してしまう。

 戯れや気まぐれで構わない。それこそ気の迷いによる事故でも構わない。もしも彼が自分の前で欲情をあらわにした獣になってくれたらどんなにいいだろう――そんな想像に駆られながら、冰は真っ赤に紅潮した頬の熱に気付いて、慌てて両手で押さえたのだった。

 冰がそんな妄想に翻弄されているとは露知らずか、周は少しするとローブを羽織って戻ってきた。髪は乾いていたが、整髪料などで整えていないのでラフに垂れた前髪も色香を放っていて、冰には目の毒といえるほどに男前に映る。
「――で? えれえ長話をしてたようだが」
 彼の意識は冰の妄想とはまるで正反対か、先程の通話のことを訊かれて、即座に現実へと引き戻された。
「あ、うん。えっと……さっきの人たち、白龍バイロンの友達って言ってたけど……お、面白い人だね。すごく親しく話し掛けてくれてさ」
 『さっきの人たち』という複数形が気になったのか、周はやや怪訝そうにまたしても片眉を上げてみせた。
「”たち”ってのは何だ。一之宮の他にも誰かと話したのか?」
「あ、うん、そう。鐘崎さんって言ってた。すごい貫禄ありそうな感じの人だった。挨拶だけしてすぐに代わっちゃったけど」
「カネまで出てきやがったのか」
「カネって呼んでるんだ? 白龍バイロンとは……日本で知り合ったの?」
「ああ。あいつらは俺がこっちに留学してた高校時代に同じクラスだったんだ。まあ、カネの方は香港のファミリーとも家族ぐるみの付き合いだったんだが」
「え、そうなんだ? ってことは、あの人たちもマフィアなの?」
 率直過ぎる質問だったが、周は若干苦笑させられながらも、やれやれといった調子で答えた。
「マフィアってよりは極道ってのが近いかもな」
「……それってヤクザってこと?」
 冰は邦画のイメージが浮かんだのか、大きな瞳をクリクリとさせながら素直な感想を口にする。
「あ! や、それともお坊さんの方の意味?」
 一生懸命に想像を膨らませているといった感じで忙しく首を傾げている。そんな様子に思わず和まされてしまうわけか、周はまたもや苦笑させられてしまうのだった。
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