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漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
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「そんなことよりお前は何がいい」
リビングボードの隣には冷蔵庫だろうか、ペットボトルや酒類のような瓶が並んでいる家具調のボックスがある。冷蔵庫といっても一般的なそれとは違い、こちらも部屋の内装にぴったりな感じの中華風の洒落たデザインの代物だ。周は扉の中から氷を取り出すと、ショットグラスのようなものに入れて、その上から酒を注いだ。
「白龍の……それはお酒?」
「ああ、紹興酒だ。冷えたソフトドリンクもあるぞ」
「あ、うん。同じのでいいよ」
先程一杯やろうと言っていたのを思い出して、冰も手伝うべく周のいるカウンターへと向かう。おそろくは部屋で軽く喉を潤すだけの為にわざわざ真田ら家令を呼び付ける手間を省くためなのか、周のリビングにはそうした設備も整っているようだ。冰の部屋にもドリンク類が揃えられている冷蔵庫があるが、この部屋のはもっと本格的なバーカウンターのような造りになっていた。
そうして注いだ酒を手にリビングの中央にある大きなソファへと戻り、二人はローボードを挟んだ対面へとそれぞれ腰掛けた。
周はグビりと一口を飲み込むと、長く形のいい指でグラスを卓上へと置いた。心なしか口数も減っている彼を見つめながら、冰はおずおずとその様子を窺っていた。
「ね、白龍……もしかしてちょっと怒ってたり……する?」
先程、電話を取り上げたと思ったら、ろくに会話もないままでサッサと切ってしまったことが気になっているのだ。
「――別に。怒っちゃいねえ」
「そう? だったらいいんだけど……。白龍にかかってきた電話なのに、俺ってば随分長話しちゃったから……さ」
周の友達に対して少し出しゃばってしまったかと思い、不安だったのだ。
「お前のことを責めてなんぞいねえよ。だがまあ、ちょっといけすかねえ気分ではあるがな」
やはりか!
少々調子に乗り過ぎたかと思い、冰が『ごめん』と謝った時だった。
「お前が謝る必要はねえ。俺が狭量なだけだ。どうせ一之宮が一方的に喋くってたんだろうが、あの野郎ったら鬼の居ぬ間にとでも思ったんだろう。調子こきやがって」
「え……っと、あの……」
鬼の居ぬ間に――とは周自身のことを指しているのだろうが、彼が風呂に入っている間に彼の友人を独り占めしてしまったと思った冰は、何だか居たたまれない気持ちになってしまったのだ。
これまで冰が想像していたようにケーキ好きの人物――つまり紫月だが――彼は女性ではなかったし、恋人でもないのかも知れない。それでも周にとってはかけがえのない大事な友人に違いないのだろう。わずかひと月そこらを共に暮らしただけの自分が馴れ馴れしく割り込んでいい相手ではなかったのかも知れないと思ってしまったのだ。
「あの……白龍、俺――」
「単に俺の焼きもちだ。気にするな」
そうは言っても気にせずにはいられない。冰には彼の言うところの”焼きもち”というのが通話の相手――一之宮紫月に重きを置いた感情なのだろうと思い、シュンとした面持ちでもう一度謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい、白龍……。勝手に長話しちゃって……。俺、白龍とあの人の邪魔をするつもりなんて全然なくてさ……! だから、その……」
周はふうと小さな溜め息をくれると、
「――冰、ここへ来て座れ」
自らの膝をポンポンと叩いて、その上に腰掛けろという仕草をしてみせた。
リビングボードの隣には冷蔵庫だろうか、ペットボトルや酒類のような瓶が並んでいる家具調のボックスがある。冷蔵庫といっても一般的なそれとは違い、こちらも部屋の内装にぴったりな感じの中華風の洒落たデザインの代物だ。周は扉の中から氷を取り出すと、ショットグラスのようなものに入れて、その上から酒を注いだ。
「白龍の……それはお酒?」
「ああ、紹興酒だ。冷えたソフトドリンクもあるぞ」
「あ、うん。同じのでいいよ」
先程一杯やろうと言っていたのを思い出して、冰も手伝うべく周のいるカウンターへと向かう。おそろくは部屋で軽く喉を潤すだけの為にわざわざ真田ら家令を呼び付ける手間を省くためなのか、周のリビングにはそうした設備も整っているようだ。冰の部屋にもドリンク類が揃えられている冷蔵庫があるが、この部屋のはもっと本格的なバーカウンターのような造りになっていた。
そうして注いだ酒を手にリビングの中央にある大きなソファへと戻り、二人はローボードを挟んだ対面へとそれぞれ腰掛けた。
周はグビりと一口を飲み込むと、長く形のいい指でグラスを卓上へと置いた。心なしか口数も減っている彼を見つめながら、冰はおずおずとその様子を窺っていた。
「ね、白龍……もしかしてちょっと怒ってたり……する?」
先程、電話を取り上げたと思ったら、ろくに会話もないままでサッサと切ってしまったことが気になっているのだ。
「――別に。怒っちゃいねえ」
「そう? だったらいいんだけど……。白龍にかかってきた電話なのに、俺ってば随分長話しちゃったから……さ」
周の友達に対して少し出しゃばってしまったかと思い、不安だったのだ。
「お前のことを責めてなんぞいねえよ。だがまあ、ちょっといけすかねえ気分ではあるがな」
やはりか!
少々調子に乗り過ぎたかと思い、冰が『ごめん』と謝った時だった。
「お前が謝る必要はねえ。俺が狭量なだけだ。どうせ一之宮が一方的に喋くってたんだろうが、あの野郎ったら鬼の居ぬ間にとでも思ったんだろう。調子こきやがって」
「え……っと、あの……」
鬼の居ぬ間に――とは周自身のことを指しているのだろうが、彼が風呂に入っている間に彼の友人を独り占めしてしまったと思った冰は、何だか居たたまれない気持ちになってしまったのだ。
これまで冰が想像していたようにケーキ好きの人物――つまり紫月だが――彼は女性ではなかったし、恋人でもないのかも知れない。それでも周にとってはかけがえのない大事な友人に違いないのだろう。わずかひと月そこらを共に暮らしただけの自分が馴れ馴れしく割り込んでいい相手ではなかったのかも知れないと思ってしまったのだ。
「あの……白龍、俺――」
「単に俺の焼きもちだ。気にするな」
そうは言っても気にせずにはいられない。冰には彼の言うところの”焼きもち”というのが通話の相手――一之宮紫月に重きを置いた感情なのだろうと思い、シュンとした面持ちでもう一度謝罪の言葉を口にした。
「ごめんなさい、白龍……。勝手に長話しちゃって……。俺、白龍とあの人の邪魔をするつもりなんて全然なくてさ……! だから、その……」
周はふうと小さな溜め息をくれると、
「――冰、ここへ来て座れ」
自らの膝をポンポンと叩いて、その上に腰掛けろという仕草をしてみせた。
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