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周焔編
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「そうだ……! そういえばさ……白龍」
「――どうした」
「あの……あのさ。俺、さっき見ちゃって……。偶然なんだけど」
「見たって――何をだ」
「んと、その……白龍の背中の」
冰がわずか遠慮がちに告げると、周は『ああ――』とすぐに瞳をゆるめてみせた。
「彫り物のことか?」
「うん、そう……」
「驚いたのか?」
髪を撫でながら穏やかに問う。
「ん、まあ。驚いたっていうのもあるけど、白龍の背中にあると……すごく似合っててカッコいいって思えちゃってさ。ドキドキしちゃったんだ」
モジモジとしながら可愛いことを言われて、周は腕の中の髪ごと引き寄せた。
「――ったく、お前ってやつはどんだけ俺を喜ばせれば気が済むんだ」
周は愛しい想いのままにまたひとたび冰の額へと口付けると、
「この彫り物はな、親父が与えてくれたものなんだ」
穏やかな表情で話して聞かせた。
「兄貴の背中には俺のとは向きを反転させた龍が掘ってある。色は黒だ」
「黒い龍……」
「ああ。俺とは左右対称の形になってる。親父は背中のど真ん中に黄色い龍が入ってる。三つの龍を合わせたとしたら、尾が腰の位置で絡まるような図柄になっててな。色もそれぞれの字に合わせてある」
そう言われて、冰は『あ――!』というように瞳を見開いた。
「そういえば白い龍といえば白龍の字だよね。お兄さんは確か――」
「黒龍だから黒い龍だ。親父の字は黄龍だ」
「そうなんだ……! 字に合せてあるなんてすごいね」
「これは親父の愛情なんだ。妾腹の俺に本物のファミリーの一員の証として贈ってくれたものでな。親父には元々背中の真ん中に黄龍が掘ってあったんだが――三つの龍が合わさるようにと図案を考えてくれたのは継母なんだ」
「――! そう……なんだ」
「本来だったら一番疎ましかろう俺を実の子のように分け隔てなく接してくれて――それどころか俺の実母とも親友のように親しくしてくれている。器がでけえなんていう言葉じゃ表しきれない大きな人だ。継母がそうしてくれることで周囲も俺たち母子を軽んじることはなかった。むろん兄貴も同じだ。俺の実母を姉と慕い、俺を実の弟として慈しんでくれたんだ」
その深い厚情に心底恩を感じているのだと周は言った。
「そっか……。そうだったんだ」
冰は聞きながら、その瞳には自然と滲み出た涙が今にも零れそうになっていた。
「どうした。泣くヤツがあるか」
「ん、だって俺、嬉しいんだ。白龍がお父さんやお母さん、お兄さんに愛されてて――幸せなんだって思ったらすごく嬉しくて」
周の幸せがそのまま自分の幸せであると感じているのだろう。ボロリと頬を伝った涙は温かく、それは周にとってもかけがえのないくらい愛しいものであった。
「――どうした」
「あの……あのさ。俺、さっき見ちゃって……。偶然なんだけど」
「見たって――何をだ」
「んと、その……白龍の背中の」
冰がわずか遠慮がちに告げると、周は『ああ――』とすぐに瞳をゆるめてみせた。
「彫り物のことか?」
「うん、そう……」
「驚いたのか?」
髪を撫でながら穏やかに問う。
「ん、まあ。驚いたっていうのもあるけど、白龍の背中にあると……すごく似合っててカッコいいって思えちゃってさ。ドキドキしちゃったんだ」
モジモジとしながら可愛いことを言われて、周は腕の中の髪ごと引き寄せた。
「――ったく、お前ってやつはどんだけ俺を喜ばせれば気が済むんだ」
周は愛しい想いのままにまたひとたび冰の額へと口付けると、
「この彫り物はな、親父が与えてくれたものなんだ」
穏やかな表情で話して聞かせた。
「兄貴の背中には俺のとは向きを反転させた龍が掘ってある。色は黒だ」
「黒い龍……」
「ああ。俺とは左右対称の形になってる。親父は背中のど真ん中に黄色い龍が入ってる。三つの龍を合わせたとしたら、尾が腰の位置で絡まるような図柄になっててな。色もそれぞれの字に合わせてある」
そう言われて、冰は『あ――!』というように瞳を見開いた。
「そういえば白い龍といえば白龍の字だよね。お兄さんは確か――」
「黒龍だから黒い龍だ。親父の字は黄龍だ」
「そうなんだ……! 字に合せてあるなんてすごいね」
「これは親父の愛情なんだ。妾腹の俺に本物のファミリーの一員の証として贈ってくれたものでな。親父には元々背中の真ん中に黄龍が掘ってあったんだが――三つの龍が合わさるようにと図案を考えてくれたのは継母なんだ」
「――! そう……なんだ」
「本来だったら一番疎ましかろう俺を実の子のように分け隔てなく接してくれて――それどころか俺の実母とも親友のように親しくしてくれている。器がでけえなんていう言葉じゃ表しきれない大きな人だ。継母がそうしてくれることで周囲も俺たち母子を軽んじることはなかった。むろん兄貴も同じだ。俺の実母を姉と慕い、俺を実の弟として慈しんでくれたんだ」
その深い厚情に心底恩を感じているのだと周は言った。
「そっか……。そうだったんだ」
冰は聞きながら、その瞳には自然と滲み出た涙が今にも零れそうになっていた。
「どうした。泣くヤツがあるか」
「ん、だって俺、嬉しいんだ。白龍がお父さんやお母さん、お兄さんに愛されてて――幸せなんだって思ったらすごく嬉しくて」
周の幸せがそのまま自分の幸せであると感じているのだろう。ボロリと頬を伝った涙は温かく、それは周にとってもかけがえのないくらい愛しいものであった。
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