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漆黒の人(香港マフィア頭領次男坊編)
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周は色白の頬に伝う涙を指で拭ってやりながら言った。
「冰、一度二人で香港に行ってくるか。黄のじいさんの墓参りもしてえし、お前を俺の家族に紹介したい」
周の問い掛けに驚いたようにして冰は彼の胸に埋めていた顔を上げた。
「――いいの?」
「ああ、もちろんだ。お前が本当のホームシックになる前に――な?」
周はそう言って指先で冰の鼻の頭をくすぐるように撫でる。ここ最近、様子が少しおかしかった原因がホームシックではなく、実は俺に想いを寄せていたからなんだよな――とばかりの、何とも得意げな表情が憎らしい。意気消沈して元気をなくすほど想われていたことを嬉しがっているのだろうが、冰にしてみれば恥ずかしいばかりだ。
「もう、意地悪なんだからさ! けど、いいの……? 俺、その……男だしさ」
周の連れ合いには当然女性を望んでいるだろう家族の心情を思えば、自分などが彼の側に居ていいものかと不安に思う気持ちも本当のところなのだ。
そんな冰の心中を察したのか、周は『そんなことを気にする必要はねえ』と言って笑った。
「香港の親父も継母も、もちろん兄貴もだが、そんなことをどうこう言うような狭量じゃねえさ。それに――さっき電話でお前が話してた相手、カネと一之宮だが――奴らも男同士でいい仲なんだぜ?」
冰は驚いた。
「そ、そうなの!?」
「カネの親父は俺の親父――というかファミリーとは公私共に親しい間柄なんだが、そういった関係であの二人も俺の家族とは何度も会ってる顔見知りだ。二人が付き合っていることは親父たちも知ってるし、継母なんかは奴らが来ると喜んでな。二人の仲がずっと上手くいけばいいと応援してるぐれえだぜ?」
「……へえ……そうなんだ」
理解が深いというか、マフィアの頭領ともなるといろいろな意味でグローバルだなぁなどと暢気なことを考えてしまう冰だったが、自分たちのことも大きな心で見てもらえるのならば有り難い限りだというのは確かだし、安堵もするのだった。
「年が明けたら――そうだな、春節の頃に一度帰るか」
額と額とをコツリと合せながら言う周に、冰も嬉しそうにうなずいた。
「うん! 楽しみ……! 本当に俺――」
こんなに幸せでいいんだろうか――。
「でも……じいちゃんに報告したい。分不相応だって墓の中から出てきて怒られそうなくらい幸せで……怖いくらいだけど。でも俺、白龍の側でできることは一生懸命やるし、白龍に見捨てられないよう見守っててって、お願いしたい……」
「そうだな。お前がずっと俺を好いて側に居てくれるよう、俺も黄のじいさんに頼むとしよう」
「白龍ったら……さ」
モジモジと頬を朱に染め上げながら恥ずかしそうに見上げてくる冰を今一度強く抱き締める周だった。
「冰、一度二人で香港に行ってくるか。黄のじいさんの墓参りもしてえし、お前を俺の家族に紹介したい」
周の問い掛けに驚いたようにして冰は彼の胸に埋めていた顔を上げた。
「――いいの?」
「ああ、もちろんだ。お前が本当のホームシックになる前に――な?」
周はそう言って指先で冰の鼻の頭をくすぐるように撫でる。ここ最近、様子が少しおかしかった原因がホームシックではなく、実は俺に想いを寄せていたからなんだよな――とばかりの、何とも得意げな表情が憎らしい。意気消沈して元気をなくすほど想われていたことを嬉しがっているのだろうが、冰にしてみれば恥ずかしいばかりだ。
「もう、意地悪なんだからさ! けど、いいの……? 俺、その……男だしさ」
周の連れ合いには当然女性を望んでいるだろう家族の心情を思えば、自分などが彼の側に居ていいものかと不安に思う気持ちも本当のところなのだ。
そんな冰の心中を察したのか、周は『そんなことを気にする必要はねえ』と言って笑った。
「香港の親父も継母も、もちろん兄貴もだが、そんなことをどうこう言うような狭量じゃねえさ。それに――さっき電話でお前が話してた相手、カネと一之宮だが――奴らも男同士でいい仲なんだぜ?」
冰は驚いた。
「そ、そうなの!?」
「カネの親父は俺の親父――というかファミリーとは公私共に親しい間柄なんだが、そういった関係であの二人も俺の家族とは何度も会ってる顔見知りだ。二人が付き合っていることは親父たちも知ってるし、継母なんかは奴らが来ると喜んでな。二人の仲がずっと上手くいけばいいと応援してるぐれえだぜ?」
「……へえ……そうなんだ」
理解が深いというか、マフィアの頭領ともなるといろいろな意味でグローバルだなぁなどと暢気なことを考えてしまう冰だったが、自分たちのことも大きな心で見てもらえるのならば有り難い限りだというのは確かだし、安堵もするのだった。
「年が明けたら――そうだな、春節の頃に一度帰るか」
額と額とをコツリと合せながら言う周に、冰も嬉しそうにうなずいた。
「うん! 楽しみ……! 本当に俺――」
こんなに幸せでいいんだろうか――。
「でも……じいちゃんに報告したい。分不相応だって墓の中から出てきて怒られそうなくらい幸せで……怖いくらいだけど。でも俺、白龍の側でできることは一生懸命やるし、白龍に見捨てられないよう見守っててって、お願いしたい……」
「そうだな。お前がずっと俺を好いて側に居てくれるよう、俺も黄のじいさんに頼むとしよう」
「白龍ったら……さ」
モジモジと頬を朱に染め上げながら恥ずかしそうに見上げてくる冰を今一度強く抱き締める周だった。
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