極道恋事情

一園木蓮

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周焔編

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「さて――それじゃ、もう一度ゆっくり湯にでも浸かるか。そうしたらお前の部屋のベッドへ移動して一緒に寝るぞ!」
「え? 移動するの?」
「だってお前、ここじゃ寝づれえだろ? まあ、お前の香りに抱かれて眠るってのも悪くはねえが――」
 周が指さしたシーツに欲情の跡を見つけて、冰は瞬時に茹で蛸状態というくらい赤面させられてしまった。
「……いッ、いいよ、そんなこと……い、言わないで……! お、俺のベッドで……寝ればいいんだからッ」
 ワタワタとしながら恥ずかしがる様子を見つめながら、周はとびきり楽しげに笑うのだった。
 その後、共に入ったバスルームでは、情事の後始末をしてやるという名目で、冰にとっては更に恥ずかしい思いをさせられたのはご愛敬といったところだろう。かくして周と冰の二人は、十二年の時を経て訪れた幸せを存分に確かめ合ったのだった。



◇    ◇    ◇



 その少し前のこと――。
 時はさかのぼって、周こと氷川白夜に突然通話を切られた一之宮紫月は、ポカンと口を開けたまま手の中のスマートフォンを眺めていた。
「……切っちまいやがった」
 その様子をすぐ隣で寝転びながら見ていた鐘崎が尋ねる。
「氷川のヤツか?」
「ん、冰君からいきなり代わったと思ったら即行ブチっと……」
 ワケが分からずといった調子で眉根を寄せる紫月を横目にしながら、鐘崎は微苦笑してみせた。
「おおかた、ヤキモチってところだろ」
「はぁ!? ヤキモチって、まさか俺と冰君がしゃべってたのを妬いたってか?」
「そんなところだろう。何せ、ヤツはまだ冰って子に気持ちを打ち明けてもいねえらしいからな」
「マジかよ……? あの野郎にしちゃ随分と悠長にしてやがるじゃねえの」
 ほとほと呆れたように紫月が肩をすくめてみせる。
「あいつったら最近は会えば冰君の話ばっかりだし。鼻の下、目一杯長くしちまってよ。あの俺様野郎のことだから、てっきりもうモノにしちまったもんとばかり思ってたけどな。随分とまた気長にやってるもんだ」
 呆れる紫月の傍らで、鐘崎はまたも苦笑してみせた。
「それだけ真剣だってことなんだろうさ」
「そりゃまあそうなんだろうけどよー。だったら尚更早いとこ手に入れちまいてえって思うのが普通じゃねえ?」
「本気の相手には慎重になるし臆病にもなる。男ってのはそういうもんだ」
「はぁ、そんなもんかねぇ」
「現に俺だってお前を手に入れるまでには随分と長い時間を費やしたもんだ。想いが強えほど失った時のことを考えたらおいそれとは簡単に告げられねえ。氷川のヤツもきっとそんなところなんだろうよ」
 至極真面目な視線に見つめられて、紫月は瞬時に染まった頬の熱をごまかすように、アタフタとしながらそっぽを向いてみせた。
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