極道恋事情

一園木蓮

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男たちの姫始め

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「今日は和菓子に合わせてお抹茶に致しましたよ」
 冰にとってはこれまた珍しい大きな茶碗に緑色が鮮やかな薄茶がふるまわれて、またひとたび話に花が咲く。
 そんな一同とは少し離れた席で、周と鐘崎にはコーヒーがもてなされていた。紫月らとは違って、甘いものは殆ど口にしない鐘崎の嗜好を心得ている真田の気遣いである。
「ところで、正月の予定はどうなんだ」
 ワイワイと楽しそうな紫月らの席を横目にしながら鐘崎が問う。
「俺のところは晦日から二泊で温泉に行って来ようと思ってな。冰にとっちゃ初めての日本での正月だし、雪を見せてやりてえんだ」
「なるほど。香港じゃ雪は見られねえからな」
 鐘崎自身も仕事柄香港にはしょっちゅう行っているので、理解が深い。
「雪深い温泉宿を取ったんだ。真田や李らも一緒に行くことになってる。お前の方はどうなんだ」
「――奇遇だが、俺も紫月を連れて源さんたちと温泉の予定だ」
「なんだ、お前ンところもか」
「毎年正月は初詣に出掛けるくらいで、特別なことはしてなかったからな。たまにはいいかと思ってよ」
 鐘崎と紫月は幼馴染みだから、普段も正月もなくしょっちゅう行き来している間柄なのだが、互いに想いを打ち明け合ったのは意外にもここ近年のことだった。つまり、恋人として一緒にどこかへ出掛けたりする正月というのは実に二度目のことなのだ。
「去年は京都の老舗宿で迎えたからな。今年は雪見しながら温泉がいいっていう紫月の希望だ」
「そうか。じゃ、お互い楽しんでくるとしよう」
 そんな周と鐘崎だが、まさかこの二日後に別々に出掛けた温泉地の宿で再び顔を合わせることになろうとは、この時は想像していなかった。



◇    ◇    ◇


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