極道恋事情

一園木蓮

文字の大きさ
69 / 1,212
告げられないほどに深い愛(極道若頭編)

しおりを挟む
 時はさかのぼって、周焔ジォウ イェン雪吹冰ふぶき ひょうが再会を果たす二年ほど前の冬の夜である。


 それは深夜のこと――既に日付をまたいで午前一時になろうかという時刻だった。
 地下室に来客があったことを告げるインターフォンの音で、一之宮紫月いちのみや しづきは寝転がっていたベッドから飛び起きた。そろそろ休もうかと思っていたが、まだ服も着たままだったし、完全に寝入る前だったのは幸いだった。
 急いで駆け付ければ、見知った男たちが一人の怪我人を抱きかかえながら入り口から姿を見せたところだった。彼らは幼馴染である鐘崎遼二かねさき りょうじのところの一門、いわゆる極道一家の組員たちだ。
「容態は!?」
 紫月は一目散に駆け寄ると、素速く状況を確かめる。脇腹からかなりの出血があり、怪我を負った男は今にも息絶え絶えにもんどりを打って呻いていた。
「夜分にすいやせん! たちばなの兄貴が刺されまして」
 男たちの一人が焦燥感をあらわにそう告げてくる。
「刺されてからどのくらい経つ!? 傷口は一箇所か!?」
「今から三十分ほど前です! 刺されたのは一回です。かすった程度かと思ってたんですが――思ったより傷が深いようでして」
 出血量が多い為、相当焦っている様子が窺える。ここへ運んで来る間にとりあえずの止血はされていたようだが、所詮は素人のやることだ。橘という怪我人の腹にはタオルのような布きれが押し当てられているだけで、服からズボンに至るまで、かなりの血の痕が見て取れた。おそらくは鋭利な刃物で刺されたと思われる。
「処置台に運んでくれ!」
 紫月が言うと、男たちが全員で血濡れた彼を抱え上げて、台の上へと横たわらせた。
「すぐに麻酔が効く。気をしっかり持つんだ!」
 そう声を掛けながら、てきぱきと処置の準備を整えていく。すると、怪我人の男は虫の息ながら礼と詫びの言葉を口にした。
「すまねえ、紫月の坊ちゃん……。世話……掛けちま……って」
「構わねえ。それよりしゃべるんじゃねえ!」
 服を切り取って患部をあらわにしたちょうどその時、やはり緊急のインターフォンを聞いてやって来たもう一人の男が姿を現わした。
あやさん! 刺し傷が一箇所、出血量がかなりあります。麻酔は済んでます」
「分かった。すぐに取り掛かろう」
 綾さんと呼ばれた長身が逞しい彼は、紫月の家の敷地内に住み込みで勤務している医師である。名を綾乃木天音あやのぎ あまねといい、紫月が兄のごとく慕っている人物だった。腕は確かだが、医師免許は所持していない。いわば潜りというそれだ。
 ここは都内とは川を挟んだ対岸にある工場地帯の一角に位置する――とある道場の地下室だった。

 一之宮家というのは代々武道家の家系で、現在は紫月の父親が当代主として道場を営んでいた。街外れの川沿いではあるが、それ故に広大な敷地を有していて、普段は主に青少年の指導に当たっている名のある道場である。だが、そのまっとうな道場の地下部分には一般の人々が知り得ない秘密の営みがあるのも事実であった。
 それがここ――今まさに紫月と綾乃木が怪我人の処置を施している地下室なのだ。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

ふたなり治験棟 企画12月31公開

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

R指定

ヤミイ
BL
ハードです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

寮生活のイジメ【社会人版】

ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説 【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】 全四話 毎週日曜日の正午に一話ずつ公開

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...